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慎まし令嬢が目立ちたくない理由  作者: 秋月
第六部

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28,見つけた相手

 家族で笑っているとギ―ヴァント公爵家の面々がやってきた。それに気づいたベルテイッド伯爵がすぐさま一家の前へ出る。


「やあ伯爵。楽しんでいるか?」


「はい。今、我が子らの初々しかった頃の話をしておりました」


「ははっ。親にとって、この会は懐かしくも感じるものだ」


 伯爵と公爵が固く握手を交わす傍らで、夫人同士もすでににこやかに楽しい会話に華を咲かせている。それを見て自然と子どもらが集まった。

 子同士も挨拶を交わし親を見るが、すっかり仲良しで楽し気な様になにも言うことはない。


「ふくだ――……じゃなくて、シャルベル様も兄貴みたいにデビュタントのときにあんまり緊張してなさそうですよね」


「デビュタント? ……まあ、アカデミーの頃から殿下とは知り合っていたからな」


「おうっ……。そうだった。レオン様はどうでした?」


「私ですか? んー。兄上が傍にいてくれたので、特に緊張はしなかったと思います」


 すでに王族と面識のあったシャルベルといつも穏やかでにこやかなレオンの言葉にケイリスはどこか悔しそうに顔を歪める。それを見たクラウが呆れの息を吐いた。


「ほら見ろ。はしゃいでいたのはおまえくらいだ」


「いや、いやいや。きっといるから」


「ケイリス殿ははしゃいでいたのですか? 緊張して食事も喉を通らないという話は聞きますが、ケイリス殿も緊張はされなかったんですね」


「図太い神経だな。今とさして変わらない」


「ちょっと副団長それどういう意味ですか」


 心外と言わんばかりにケイリスが頬を膨らませる。そんな兄としれっとするシャルベルを交互に見て、ラウノアは思わず笑ってしまった。

 子らの気心知れたやりとりに、いつの間にか親たちもにこやかな視線を向ける。


「副団長。いいんですか俺にそんなこと言って。副団長、俺の義弟になるんですよね?」


「そうだな。――クラウ殿。今後ともよろしくたのむ」


「こちらこそ」


「俺! 俺もいますけど!?」


「もちろんだ、義兄殿は公私にわたり存分にしごいてやる」


 冗談なのだろうシャルベルだが「いやああ」とケイリスが悲鳴を上げている。シャルベルは小さく笑ってクラウも口端を上げて「よかったな」と助け船を出すつもりはない。

 そんな面々に、ラウノアはレオンと共に笑いを堪えた。


 どうにもケイリスは仕事でも普段でもシャルベルにはどこか気安い。こう見えて仕事はきっちり真面目なケイリスなので締めるところは締めているが、そうでないところではあまり硬くなることもない。

 いっぱいいっぱいにならない余裕なところはいいところであるが、気安い態度はクラウからすればため息を吐くものである。


「もっときっちり、態度を含めて指導いただいたほうがいいんじゃないか?」


「兄貴ひどい!」


 ラウノアが楽しそうにしている様子を見て、シャルベルはベルテイッド伯爵に視線を向けた。


「ベルテイッド伯爵。少しラウノアと離れても?」


「ええ、どうぞ」


 にこやかに送り出され、シャルベルのエスコートを受けて二人はそっと場を離れる。

 その足で吹き抜けの上階に向かい、寛げるよう置いてあるソファに座る。そっと腰を下ろし、シャルベルは気遣うようにラウノアを見つめた。


「疲れていないか?」


「はい。大丈夫です。ケイリス様たちとご一緒だと疲れなんて感じないくらい楽しいので」


「あれは賑やかだからな。騎士団でもルインと一緒になって騒ぐから、殺伐としすぎないいい安定剤になるというか……」


「ふふっ」


 想像できてしまうから笑ってしまう。

 その笑みを見てシャルベルも頬を緩め、そして周りを確認して誰もいないと見るとそっと声を潜めた。


「殿下方の例の件、いそうか?」


「少々お待ちくださいね」


 そう言ってからそっと目を閉じる。

 魔力を操作して意識の深くに、ギルヴァに繋ぎをとる。


 魔力感知を使えば魔力を持つ者は分かる。訓練を続けたから感知した魔力の強さも少し分かる。とはいえ、


『呪いの魔力と比較しなきゃならねえ。曖昧は解決策にならねえし、俺が約束したことだからな。俺がやる』


 と、普段あまり自主的に動こうとしないギルヴァからの申し出だったので、この件はギルヴァにお願いすることにしてある。

 王族の存亡に関わる案件だ。ギルヴァにも思うところがあるのかもしれない。


 閉じた瞼が開かれたとき、その空気はラウノアではないとシャルベルにはすぐに分かった。自然と背筋が伸び、心が緊張を覚える。


(代わるときに居合わせればラウノアではないと分かるが……。ラウノアを模倣されるとこの空気を消すからな)


 だから非常に見分けるのが難しくなる。

 隣に座るシャルベルにはなにも言わず、顕現したギルヴァは数度瞬くと視線だけを会場に向けた。留まることなく流れるように視線が動く。


「……窓に近い場所、女たちの輪の中にいる、白金色の髪と翡翠の目の女。……会場の左側、男と話をしてる黒髪に茶目の女……。王子の相手になりそうなのはその二人だな」


「強いのか?」


「この場ではな。だがやはり足りない。王女のほうは……あいつだな」


 決定したかのようにこぼした言葉が漏れたとき、シャルベルの視線が動いた。

 階段を上がりやってくるのは、泰然とした国王マクライ王その人。シャルベルとギルヴァは慌てることなく流れるように礼をした。


「よい。今日は晴れの日だ。二人の時間を邪魔してすまんが、少々世間話にでも付き合ってくれ」


「はい」


 マクライ王が後ろに連れる侍従に視線を向けると「お部屋はこちらに」と意を察してすぐに案内を始める。それを受けて動くマクライ王の後を、シャルベルとギルヴァも歩く。

 王の休憩用にと用意されているのだろう部屋。そこまで来ると、マクライ王はシャルベルとギルヴァのみを部屋に入れた。


 侍従が頭を下げて扉を閉じる。廊下側の扉の両脇には騎士が控えているので、中の声がもれることがないようギルヴァはすぐに防音魔法をかけた。続けて念の為、監視や他者がいないかを魔法で探る。

 問題なし。そう判断してギルヴァは腕を組んで背もたれに身を預けた。


「おい」


「もういいだろ」


「よい、シャルベル。しかしそのドレスに皺が出来てしまわないか心配だな」


 軽く笑うマクライ王の言葉にギルヴァはむっとした表情を浮かべると、姿勢を正して座り直した。

 ドレスというものは苦しいし歩きづらいしいいことがない。ラウノアはよくやっていると感心する。


「着飾ってやりたい気持ちは解るが、もっと簡素にならねえもんかな。なんとかしてくれ国王陛下」


「私がドレスに手を出すと妃だけでなく世の貴族女性たちを敵に回してしまう。それは勘弁願いたい」


「どの時代も女は強いからなあ」


 女性の強さを知る同士といっても過言でない二人のしみじみとした言葉にシャルベルはなにも言えない。なにせシャルベルだってそれは感じているものだ。

 軽い世間話を楽しみ、マクライ王は本題へと移る。


「さて。例の件だが、めぼしい候補者はいたか?」


「ラウノアの婚約者。俺が言った女二人の家は?」


 マクライ王とギルヴァの視線がシャルベルに向けられる。それを受けたシャルベルはギルヴァの言葉が示した女性を思い出す。

 ……そして、少々苦い表情をした。


「一人は、ノッサ子爵家のミレル嬢です」


「彼女なら先日内々に婚約が内定した。私のもとへもその挨拶に来ている。もう一人は?」


「……クロンベリア侯爵の三女、レリエラ殿です」


 ギルヴァが最初に候補に挙げた特徴、その視線の先にいたのが彼女だった。それが分かって少し頭痛を覚えた。

 シャルベルが出した名前にマクライ王は顎に手をあて、ギルヴァは「ああ…」と思い出したような声を出す。


「あれがおまえと同じ副団長か。確かに白竜が選びそうな魔力だが、騎士という職にすぐに結びつかない令嬢振りだな」


「そう見えてかなりの手練れだ。騎士団内では最も厳しい鍛錬を課すことで毒花将軍とも言われている。女神の微笑みが悪魔の微笑みに変貌する瞬間だそうだ」


「それは面白い!」


 遠慮なくギルヴァが笑う隣でシャルベルは額に手をあてた。それを見てマクライ王はシャルベルに視線を向ける。笑うことなく真剣な目を見せるのは、やはり一国の存亡を考える王の顔だ。


「家格も教養も問題ない。騎士として培った忍耐力もあれば妃教育も問題なく行えるだろう。……ふむ」


「……陛下。一点だけ問題が」


「なんだ?」


「……レリエラ殿は己の好きなことを大切にする人です。あのクロンベリア三姉妹らしく、己の意思を大事にしています。それに……レリエラ殿は――……」


 ギルヴァが扉に視線を向けた直後、コンコンコンッと扉がノックされる。「ライネルです」と聞こえた声にマクライ王は入室を認めた。

 扉を開けてライネルが入ってくるが護衛も側近もすでに離してあったのだろう、見えるのはライネルだけ。


 そんなライネルに視線が集まり、ライネルは怪訝としながら扉を閉めた。そして――……シャルベルがこぼす。


「……自分より強い相手と結婚すると、すでに決めています」


「「あー……」」


「なんですかいきなり。なんですかその顔!」






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