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慎まし令嬢が目立ちたくない理由  作者: 秋月
第六部

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217/240

21,交わす契約

 ♦*♦*




 王城を歩く。さほど慣れているわけではない廊下を歩き、その部屋へとやってきた。

 重厚な扉は両脇を騎士が固め守っている。事前に謁見許可は願ってあったので、礼の一つで通された。


 侍従の間で少し待機し、隣室へと通される。

 扉の傍には護衛騎士。部屋のソファに腰掛けるライネルと、奥にある執務机を前に座るマクライ王。


 部屋に入って緊張感を抱きながら、シャルベルは扉の前で礼をした。


「御目通りを許可いただき、感謝いたします」


「よいよい。社交のため謁見を願い出る列には少々疲れておったところだ」


 二日後には社交期の始まりとなる王家の夜会が待っている。そのために王都へ来る貴族たちの中には、国王への謁見を願い出ている者も多い。

 連日そうした行列の相手もしているマクライ王だ。心なしかライネルも少々疲れているように見える。


 忙しい時期を前にライネル誘拐事件が起こった。無理もない。忙しい上にさらに面倒事の処理が重なる。

 そして今、二人はまた別の大事を背負おうとしている。


 マクライ王は扉の傍の護衛に一瞥を向けた。その視線を受けて護衛は退室する。

 そうは言ってもおそらくは隣室に待機しているだろう。今の状況で完全に王から離れるとは思えない。


 室内に三人だけになったことでマクライ王は席を立つと、ライネルと同じテーブルを前に一人掛けソファに座る。そしてシャルベルを手招いた。


「用件は先の手紙か?」


「はい。返事を受け取って参りました」


 例の手紙の差し出し人はマクライ王だ。それをライネルに渡し、さらにシャルベルを経由させてある。

 このタイミングで自分がくれば察することはできただろう。驚くこともなく、シャルベルはライネルの向かいに腰掛ける。


 手に持っていた大きな封筒をテーブルに置き、まずは首から下げた指輪を取り出した。

 ラウノアから預かっていた御守りだ。幸いなことに使うことはなかったが、昨夜いつものように部屋へやってきたギルヴァが何やらこれに触れて細工をしていた。加えてあれこれと指示を受けた。


『やっぱりおまえには無理か。外部……外からの発動となるとこれともう一つ要るな。となると使えるのは……。ああ仕方ねえなあ。準備があ……。おまえ竜使いだろうが。できろよ動けよ』


 なぜか若干貶しながら、目の前でギルヴァは一人あれこれと唸っていた。さらには一旦「ちょっと準備に出てくる」と言って出ていって、また戻ってきた。


 とりあえず、昨夜指示を受けて、ついでに少し練習もさせられたそれを実行することにする。

 ラウノアの指輪をテーブルに置き、さらにポケットから一枚の竜の鱗を取り出す。言葉なく何かをしだすシャルベルに、マクライ王もライネルも怪訝としながら視線を向ける。

 シャルベルは手に持った鱗を指輪の石にそっと近づける。カンッと軽く当たる音がして――石が僅かな光を放った。


「? シャルベル。それは?」


 鱗が触れた石が僅かに光を放ち続けている。鱗と石を離さないよう気をつけつつ、シャルベルは光を確認してから口を開いた。


「漏れては困る話ですので、一切音が漏れないようにするという仕掛け、だそうです」


「詳細は?」


「生憎、私も存じ上げません」


 ライネルがじっと自分を見る。

 あのとき同席していた身だ。ラウノアのなにかと関係あるのだろうと思われて当然。今の自分はライネルにとって友ではなく、半信半疑の臣下だ。それが分かっても自分も引くことはない。

 マクライ王だけはその口許に笑みをつくった。


「シャルベル。おまえは、どこまで、なにを知っているんだ?」


「なにも。私がなにかを問うことは禁じられておりますので」


「それはラウノア嬢に? それとも、ギルヴァという者に?」


「どちらと問われるならば、後者です。ただ、婚約者が話したがらないことを無理に聞きだすつもりは毛頭ありません」


 返事を持っていってほしいと頼まれた。しかし、それを自分に託すということは、当然事情を聞かれるということ。


『すべて知らぬふりをする。……そうしてほしいと、思っています』


 だから、その頼みに首を横に振った。ラウノアはただ泣きそうに微笑んでいた。

 ギルヴァはなにも言わなかった。「好きにしろ」とだけ言っていた。


 ここまできた。以前は知らぬふりをすると言ったけれど、信頼を得た今、それはできない。

 いくならば共に。そう決めた。


「陛下。殿下。ラウノアから預かり物がございます。出してもよろしいでしょうか?」


「ああ」


 陛下の了承を受け、シャルベルは持参した封筒を取った。

 中に入っているのは一枚の書面。シャルベルは、それを二人の前に提示した。


 一番上に書かれているのは『契約書』という文字の羅列。

 それを見たライネルが怪訝とした顔でシャルベルを見る。しかしその視線をすぐに書面へ戻し、マクライ王と共に内容を読み取る。

 読み終えた二人は、どこか納得したような顔をみせた。


「彼女は、陛下の「公にするつもりはない」とのお言葉がどこまで本気であるのかを確かめなければ応じられないと言っています」


「だろうな」


「……故に、この契約を交わしたいと」


 最初はなんと大それたことをするのかと驚いた。しかし、それだけ大事であり秘匿性の高いことなのだと、理解した。

 マクライ王は怒るかもしれないと思っていたが、目の前では至極当然のような顔をしている。それにはシャルベルも少々驚かされた。


(陛下はすでになにか知っているのか……?)


 ラウノアが事前に用意した契約書。それに書かれている内容はシャルベルも聞いた。



『契約書


 その一、ライネル王太子誘拐事件において報告された真実の内容を一切他言しないこと。その場で見聞きしたことを一切他言しないこと

 その二、他に情報を持つ者がいた場合、処罰や拷問など、当事者以外をこの件で責めないこと

 その三、当事者を罰する際、罪状は表に出さぬこと

 その四、ギ―ヴァント公爵家及びベルテイッド伯爵家、両家の者たちに一切責と非はなく、当事者を罰する際には王家の力をもって彼らを守ること

 その五、他者の耳目ある場所で決して口にしないこと


 その六、話に応じ、そこで知り得たことも上記に倣って扱い、他言せず死ぬまで己の胸に秘めること

 その七、以上の契約内容を反故した場合、その命をもって贖うこと


 以上のことを守り誓うと約束できるならば、話に応じる』



 それを聞いたとき、物怖じしない内容と彼女の優しさに困ってしまった。

 命をかけさせておいて、どこまでも彼女は優しいから。


 書面の内容を読み終えたマクライ王は静かに頷いた。ライネルはどこか険しい表情をしたまま。


「契約内容は、応じて行う今度の話し合いの結果に関わらず有効だ。契約しなければ、彼女はさてどう動くか……」


「……彼女が、先の首謀者と同じ考えならば俺を助ける理由が分かりません。それにシャルベルとの婚姻も間近ですし、これまで彼女たちに大きな動きはなかったのでしょう? 目立たず控えめに、であるなら、話し合いの余地はあります」


「おまえは彼女を斬るのは反対だろう?」


「!」


「当然です。罪状のでっちあげに貴族社会の混乱、ギ―ヴァント公爵家にベルテイッド伯爵家の反感と影響……いろいろ不要な面倒が起こりますし、あちらがあの……魔法というものを使えば国中が混乱します。あちらにもそのつもりはないでしょう。今回の件もせっかく抑えているのに水の泡になってしまう」


 流れるように交わされる親子の会話。それを耳に入れながらシャルベルが僅か驚いた表情を浮かべる。

 それを認めたマクライ王は微かに息を漏らした。


(やはり、そこは知らぬか。彼女がそこまで教えるとは思えぬ。それに……彼女もこちらが掴んでいるとは思っていないだろうな。でなければ話し合いに応じることもない)


 しかし多少は知っているのだろう。だから彼女は、契約事項でシャルベルを守ろうとしている。

 他言するなということは、つまり、彼女も公になることを望まないということ。今のまま、秘されたまま、それが望み。


(命をかけるのは互いに同じか……)


 公にして対立するか。片側から攻めるか。

 ここで歴史を、変えてしまうか――……。


 マクライ王は再び契約書に視線を落とした。そこには契約内容に対するラウノアの署名がすでにある。その下にはシャルベルの署名も。

 名を書く欄は後二つ。自分とライネルの名で完成する契約書だ。


「陛下。俺は契約しましょう。これを結ぶということは彼女にも大事にしたくない意思があるということ。俺も同じですし、俺たちが知らないこともあの人物は多く知っているなら聞きたいことはまだあります。犠牲の上に成り立つものを……彼が彼女を通して助力してくれるなら、応えぬわけにはいきません」


「元より公にするつもりもない。波乱しか呼ばぬものを好き好んで呼びこみはせん」


 二人の意思にシャルベルは封筒から一本のペンを取り出した。それを契約書の傍に置く。


「インクではなく血をもって書するように、と」


「おどろおどろしい契約だな……。第七項が記される理由がよく分かる」


 少し表情を引き攣らせつつもライネルは指先を突いて、その血で署名する。同じようにマクライ王も署名したことで、パッと契約書が消えた。

 跡かたなく消えた契約書に三人も少々驚きを見せる。


「……シャルベル」


「聞いてはいたのですが……驚くな、これは……。彼女が言うには、契約が完了したことでその遂行を見定める者の手に渡る、のだそうです。破ったとみなされればそれに命をとられるとか……」


「なるほど。死神が契約書と鎌を片手に常に背後に控えている、と」


「そのようなものでしょう」


「第七項は瞬殺という形だな。これは撤回が効かないな……」


 想像してしまったのか、ふるふると頭を横に振るライネルにマクライ王は喉を震わせた。

 若い息子には長い先も監視されるとのことだが、なにせ自分は譲位もそれほど遠くないだろう身だ。悠々隠居となればそれほど恐ろしくはない。「頑張れ」と応援すると「俺に丸投げしてッ……!」と恨めしそうに睨まれた。心外だ。


「さてシャルベル。では早速、日時と場所を彼女に伝えてくれるか」


「はい」





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