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27,強まる推測

 二人揃って訪れた騎士団長執務室。そこにいたロベルトはシャルベルから報告を聞き、眉根を寄せた。


「病の原因が建国祭の少し前から広まってた丸薬だと?」


「はい。あのときの古竜の行動や竜の妙な態度から、例の丸薬を口にした竜使いを調べましたが、その全員が病を発症させています。加えて、グレイシア殿下付き近衛騎士レオン・ギ―ヴァントからの話によると、グレイシア殿下やその周囲の令嬢、王女殿下付き騎士の中でも、丸薬を口にした者が病を発症させていると」


「殿下もか?」


「はい」


「ちょっと待て。だとしても、あれは確か調べたんだろう。そんな危険因子の報告はなかったはずだ。ってか、あれは身体の調子がよくなるって代物だっただろうが」


 ラウノアの言葉でもしやと思い、丸薬に関しての報告書を改めて見直した。騎士たちからの聴取も。古竜に攻撃されたり竜に妙な態度をとられた騎士の名簿も。

 丸薬の評判は確かに良好で、評判どおりの物であった様子。


 さすがに思わぬ原因にロベルトも半信半疑の様子でシャルベルを見遣る。しかしシャルベルは毅然としたままだ。


「団長。薬は毒にもなりえます。一時は確かに調子がよくなったと思っても、後にそれが体の負担となることもないとは言えません」


「副作用があったと……? 待て。これまだ出回ってんのか?」


「いえ。建国祭以降から出回っていないようです」


「団長。これはもう製作者を突き止めたほうがいいかもしれません。売り手の彼にも協力してもらって」


 副団長二人の言い分にロベルトも真剣に思案に入った。

 捜査を始めるには弱い推論だ。だがあまりにも当てはまりすぎている。忙しい今は他にもやらねばならない仕事は多い。


 新しく出てきた仕事にはロベルトも頭を掻く。人手を出そうとしても人手不足は変わらない。

 この弱い推理をどう納得させて調査を始めるか……。


「丸薬を飲んだ奴と合致してるってのは、騎士団の竜使いと殿下付き近衛部隊内の話だな?」


「はい」


 シャルベルの報告にロベルトは刹那思案するように視線を下げると、すぐに判断を下した。


「よし。シャルベルは俺と来い。レリエラ、至急これを調べろって発破かけろ。近衛からも聴取しろ。許可は俺をとる」


「「分かりました」」


 団長の鋭い指示に背筋を伸ばし、二人はすぐに行動に移る。

 ロベルトが席を立ちシャルベルを伴って歩き出す。レリエラと分かれて進む足は王城の中。その奥へと進んでいけばシャルベルとてその目的地を理解できた。


「至急、陛下に御目通り願いたい」


 国王執務室。そこまできたロベルトは侍従に言伝を頼みしばらく待機する。その後ろで、シャルベルも国王への報告内容を考えた。


 ロベルトに報告したとおり、病の原因が丸薬であると推測できると報告したとしても、その理由はなんとするか。

 もともとこの疑問はラウノアからもたらされたもの。しかし、それは口を噤むと誓っている。だから、国王相手であろうとシャルベルはその意思を曲げない。

 それが、ラウノアが意を決して伝えてくれた、彼女が言えずにいた苦しさに報いるものだと思うから。


(建国祭資料の見直しと名簿、といったところか……。レオンに協力を頼んで得た情報は伝えられるが、処罰は俺が庇うしかない)


 貴族社会において、その流行の発信になるのはその多くが社交の場だ。そうでない場合にあるのは高位貴族や王族に仕える侍女たちが発する言葉であり、誰が使っていたなどという会話は流行発信源となりえる。

 そういったものは業務上の規律には抵触しないものの、嘘を流しそれが発覚すれば責任は問われ解雇されることにもなる。


 レオンは隊内に関することも教えてくれた。本来こういったことはまず組織の長に伝えて然るべきものだが、まずそれをシャルベルに伝えたことを非難されることもあり得る。


「どうぞ。陛下がお会いになるとのことです」


 侍従から伝えられた言葉にロベルトとシャルベルは視線を合わせ、すぐに入室した。


 国王執務室。奥の椅子に座り悠然と二人を見つめるのは今の王都の危機的状況にも冷静に対処する、マクライ王。


「騎士団長と副団長が揃って何用だ?」


「お時間いただき感謝いたします。実は……現在王都に蔓延する病のことで少し気になることが」


 頭を下げ、続けてロベルトが放った言葉に目を細めたマクライ王はロベルトの口を手を挙げることで制し、呼び鈴を鳴らした。

 すればすぐに隣室から侍従が姿を見せる。どんな用件でもお申し付けをと頭を下げる侍従に、マクライ王はすぐに指示を出した。


「ライネルをここに」


「承知いたしました」


 すぐさま侍従が出ていく。それを見送りマクライ王は背もたれに身を預けた。


「しばし待て」


「はっ」


 室内にいるのは三人だけ。マクライ王の多忙さを表すかのように側近はおらず、今は城中を駆け回っているのだろうと推測できた。

 それでもマクライ王は疲労を顔にも出さない。落ち着いて冷静であるその様子はこんな状況でも頼れる王であるという姿勢だ。しかし娘が倒れていることを知っているロベルトは、そんな姿に胸が痛む。


「騎士病院では回復者が少し出ているそうだな。いい知らせが聞けてなによりだ」


「はい。ですが、城下では相変わらずと聞きます。こっちで余裕ができそうならばすぐに人手を出そうかと」


「そうしてくれ。対処の仕方が異なっている場合もある。未知には対処が難しい」


 この病に罹ればまず助からない。それが現在の民の共通認識だ。

 城下でも回復できる者はまずおらず、稀に一人いるかどうか。騎士病院では城下の割合よりも少し多い程度。


「城下と騎士病院の違いは……シルバークか。あやつは日頃から色々と薬を試作しているからな」


 小さく笑うマクライ王にロベルトも「そうですね」と頷いた。


 シャルベルもシルバークの私室の資料や書物の山を思い出す。あれらの中には異国の病や薬についてという貴重なものもあるのだと本人がさらっと言っていたのを思い出してしまった。

 だとしても、シルバークに調薬と治療を同時に行えとは言えない。これだと確信できる薬があれば、シルバークならすぐにマクライ王に報告して調合方法も全て渡しているだろうから。


 騎士病院にはシルバークがいてくれる。しかし、そうでない場所では有効手段はまだまだ模索中だ。


「陛下。失礼します」


 執務室に新たな人物。

 呼び出されたライネルは少々疲れた顔を見せながらロベルトとシャルベルを見た。


「お呼びとうかがい参りました」


「よく来た。まあ座れ」


 マクライ王に促されるままにライネルはソファに座る。そして小さく息を吐くと、普段のお喋りを感じさせぬ様子でマクライ王を見た。


「ライネルも来たことだ。ロベルト、続けよ」


「はい」


 国王陛下と王太子を前に、ロベルトは堂々とした態度のまま報告を始めた。


「現在流行中の病ですが、患者に共通点が発見できました。シャルベルの調べによると騎士団で発症した者は全員、建国祭の少し前から流行していた丸薬を口にしています。以前の調べでは成分等に不審は見られなかったのですが、再調査を研究機関に要請しています」


「丸薬……あれか。不調に効くと評判の」


「はい」


 思わぬ共通点にマクライ王もライネルも真剣に報告を聞く。しかし、その表情には疑念も隠れているのをシャルベルは感じ取った。


 当然だ。

 身体にいいと評判で口にしたものも多いだろう薬。まさにそのとおりのものだったそれが今度はこれだけの被害を出す病になりました、などと信じるのも難しい。


 ロベルトの後ろで黙っていたシャルベルは、ロベルトの報告が途切れたのを見計らい口を開く。


「グレイシア王女殿下付き騎士であるレオン・ギ―ヴァントにも確認をとりましたが、同隊の患者にも同様の傾向とのこと。それに、グレイシア殿下もそれを口になさったと……。ご友人方も同様の症状で倒れているとのことです」


 疑いが確信に近づく。

 ライネルも顎に手をあて、マクライ王も鋭い視線で空を睨む。


「……以前は確か、竜の反応から調べたんだったな?」


「はい」


「それに焦点を当てていたから見つからなかったのか……? とはいえ、使用されているものに不審があるというわけではなく、調合方法や副作用の問題である可能性が高いな」


「その丸薬、売り手はいたが製作者は消息がつかめていないとのことだったな?」


 建国祭では古竜の独断から売り手であった青年に遭遇し、話を聞くこともできている。

 青年は製作者と知り合いで頼まれたから売っていたと言っていたが、製作の様子は見たことはないらしい。だから原材料も知らないと。


 その薬に何が使われているか。どういう方法で作られているのか。調べられる範囲は王城の研究機関が調べてあるが、そういうことや微量すぎる材料が判明できていないこともある。

 そういったものかと考え、シャルベルも眉根を寄せた。


「仮にこれが本当にその丸薬によるものであるならば、製作者を見つける必要があるな。――ロベルト。すぐに売り手という者と協力して捜索にあたれ。研究室にはこちらからも声をかける」


「はっ」


「余計な混乱は起こすな。こちらでも引き続き調べは続けておく」


 これが原因であるという断定は早計だ。あくまで可能性の話であるからこそ、他の調査も終わりではない。


 報告を終えたロベルトとシャルベルはマクライ王の前を辞そうとしたが、待ったをかけられ頭を上げた。


「神殿や病院への見舞いと手伝いに人手を出してくれ。人選は任せる」


「分かりました」


 仕事は増える一方だ。しかし、それは皆同じ。


 マクライ王の前を辞したロベルトとシャルベルは、すぐさま騎士団棟へ戻る足を速めた。






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