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「そ、それでは、始め!」
クリアさんのおどおどとした掛け声と共に野次馬たちの声が大きくなる。
ちなみに治癒魔法を使える人が何人か居るため、殺さなければどこまでやってもいいそう。怖いな。
「手加減はしないぞ」
そう言ってジェンは、一直線に私の脇腹らへんに剣を刺そうとしてくる。
……遅いな。
ジェンの攻撃を避けると、まわりが一気にうるさくなった。
今は野次馬たちはどうでもいい。
ジェンは剣の出し方的におそらく右利き。また、右肩をよく動かしているから、右肩が強い。
まあ、それに気付けたら、右肩狙うしかないよね。
ジェンの右肩を短剣の持ち手で叩くと、ジェンはバランスを崩して躓きそうになる。
更に、ジェンの右肩に魔法をかける。
〈重力〉
すると、ジェンは右肩の重さに引っ張られ、前に倒れる。
私が今かけた『重力』は、使い手の想定した重さを、指定した相手の身体の一部などにのせることが出来る...もしくは相手から想定した重さを減らすことも出来る。
一応、Bランク魔法。私も習得するまでに2週間かかった。
今は、私が豚一匹くらいの重さを想定し、ジェンの右肩にのせた。
豚一匹がどれくらいの重さか分からないが、使い手が重さを指定すれば使えるため、そこはあまり気にしない。まあ、すごく重いことは確かだ。だって右肩にのっているのを目の当たりにしてるんだもん。
「重っ...!?」
前に倒れ込んでしまったジェンは、あまりの重さに立ち上がれていない。
ちょっと可哀想。
周りはずっとザワザワしている。
まさかあのジェンさんが負けるとは...という感情だろう。
野次馬たちは放っといて、審判していたクリアさんに聞く。
「クリアさん、ジェンは倒れちゃったし、もういいですか?」
まさか自分に振られるとは、と驚いた反応をするクリアさんは、戸惑いながらも答えた。
「えっ!?は、はい、ではこの勝負、ミライ様の勝ちです...」
審判のクリアさんが勝敗を決めると、周りがさっきよりうるさくなり、皆が騒ぎ始める。
というか勝負が始まったときより人が増えてない?一部の人は賭けもしていたそう。
勝手に勝敗、賭けんなよ。
「み、ミライ...早く、魔法を...」
あ、ジェンの魔法とくの忘れてた。
ごめんな、ジェン...
そんなことを考えながら、早急に魔法をといた。