〜プロローグ〜遠い星にて
幻想的でどこか現実味を帯びない、遠い星。
柔らかな黄色を含んだ木漏れ日が、海原のように広がる草原に光を落とす。自然にできた涼やかな匂い香る緑の絨毯の上で、二人の男女は寄り添い合って座っている。
「何を……見ている」
ゆっくりとした口調の男が言う。女は腕に抱えていた分厚い書物のページをめくる手を止めて、太陽のように温かな微笑みを見せる。
「ふふっ。懐かしいものよ。私がつけていた日記」
男に振り向く女は、赤い薔薇を思わせる髪をしていた。サラサラと肩から背中にかけて流しながら、たおやかな仕草で日記帳を閉じる。
先程まで眺めていたその、本のように分厚い日記帳。長い年月が経っているせいか、紙の劣化が激しく、黄ばんでおり、文字のインクもかすれている。もうほとんど読めない状態であるというのに、女は大事そうに抱えている。
「そうか………君との…思い出………」
男は懐かしむような素振りを見せて、何ものよりも大切であるその女を、逞しい腕の中に抱く。
女とは対象的な大きな手で、革の表紙を開き始める。女は嬉しそうに、ページをめくる男の手に、白い手を重ねる。
「見られるのは恥ずかしいけれど、あなたとの初めての出会いがここに、ちゃんと記してあるのよ」
女はガーネットのようにキラキラとした目を細めて、遠い記憶ながらも、真新しいものを思い出すかのように思い返す。
男もまた、頭の上につく丸いクマの獣耳を動かしながら、思い出す。