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会社を作るのって、意外と誰でもできること


「それにしても魔族がいるなんてビックリっスね」

 ビックリというわりには嬉しそうに佐久間は言う。村長の家を出てからコイツはずっと魔族の話ばかりだ。どうせそれ以外の話は覚えていないのだろう。頭の容量がキロバイト野郎にはやれやれだ。だいたい漫画の世界やアニメの世界にキャラクターとして魔族がいるのは、話しの幅も広がるし、分かりやすい敵としても使いやすいから納得できるけど。いざ自分が住む世界に魔族が同居してくると……迷惑以外の何物でもない。この村にいれば遭遇する可能性は低いけど、いざという時の為に対処法や利用法を考えておいほうがいいかもしれない。うーん、魔族を上手く利用する手はないものだろうか。徐々に考えよう。とりあえずは目的通り村長の話を聞くことで、なんとなくこの世界のことを知ることができた……できたけど、できたせいで新たな問題が……これからどうすっかなー……それが一番の問題だ。

 異世界に飛ばされたものの、アニメの主人公達みたいに使命を与えられたわけでもない。何かやりたいことがあるわけでもないし。のんびり田舎でスローライフっていうのもな―……性格的に2.3日で飽きてしまいそうだ。もともと社畜になってしまっていたのだって、無趣味な上に仕事人間だったせいでもある。ある意味望んで社畜になっていたのかも。考えただけでも悲しくなる。そんな俺がいきなり自由を与えられても、有効活用できるわけがない。

自由が不自由……なんてすごい名言なんだ。


「あー……なにしたらいいんだー」

 頭の中で考えすぎて、思わず口から言葉がとびだしていた。隣を歩いていた佐久間も目を大きく見開いている。

「びっくりしたっス。急な叫ばないで下さいっス」

「悪い悪い、頭の中がパンクしちゃってな」

「そんな先輩に言い提案っス」

「なんだよ?」

 コイツの提案なんて、あんまり期待できないけど……一応は聞いてやるか。


「簡単っス。気分転換に神様がくれた取説を読むっス」

 取説……あーそういえばそんな物もあったな……思った以上に村長が情報をくれすぎて、神様のくれた取説のことなんて頭の隅の隅に追いやっていた。


「神様がくれたスキルの取説だから、きっと面白いっス。ワクワクするっス」

「そうかなー」

 あの神様だから……余計怪しいけどな。

「まぁいい気分転換にはなるか」

 本当は喫茶店で美味しいコーヒーでも飲みながら読みたかったけど、この世界ではゴメダもスナバもあるわけがない。ないものをねだってもしょうがない、その辺の木陰に腰掛けて読んでみるか……あれ、そういえば肝心な取説はどこだ? あんなに分厚い本をどっかに置てくるはずもないけど……。


「僕は持ってるっスよ。先輩」

「おう悪い、ありがと」

 受け取ってみるとあいかわらず無駄に分厚い。読むのに時間がかかりそうだ。

 とりあえず真ん中らへんを開いて見る。

「……」

 思わず言葉がでない。なぜって……なにも書いてないから。


「あのアホ神様、ほとんど真白じゃないか」

 広辞苑並みに分厚いくせに、めくってもめくっても真白なページ、かろうじで文字が書いてあったのは最初の2ページだけだった。

 どういう意図だ、あとから追加するのか? それもただのノート変わりのページなのか、ノートなら書くものもついでに渡してくれればいいものを。

 一度取説をとじて、最初のページを開きなおした。

 えーっとまず大きく書いてあるのが『第1条 人材召喚ガチャの正しい呼び出し方』……カタい。契約書みたいな堅苦しい書き方だ。なになに……続きを読んでみよう。


(1)ガチャを使用する際、呼び出す時は大きな声ではっきりと【ガチャオープン】と叫ぶべし。

  ※いい大人がガチャオープンって恥ずかしすぎるだろっという気持ちは忘れ、童心に帰ったつもりで叫ぶべし

(2)ガチャを消す際は、呼び出す時と同じように大きな声で【ガチャクローズ】と叫ぶべし。

  ※この時も恥ずかしがらずに、みんなに注目して欲しがっている寂しがり屋のように叫ぶべし。


 とりあえず1ページに書かれていたのはタイトルとこの2つだけ。少な……それに、この※印の補足文章いらないだろ。絶対あの神様がふざけて書き足しやがったな。あの爺なら喜んでやりかねん。

 このページで分かったのはガチャの出し方と消し方、肝心の使い方は次のページだろうか、1枚ページをめくってみる。『第2条 人材召喚ガチャの基本的な使い方』このページも最初にタイトルがでかでかと書かれている。


「ガチャの呼び出し方法の次はやっと使い方か」

「楽しみっスね」

 この状態で、未だにワクワクできるコイツの頭の中を見てみたいものだ。どうしたらこんなに能天気でいられるのか。しょうがない続きを読んでいこう。えーっとなになに……。


(1)ガチャで出るだろう職業一覧

・剣士 ・魔法使い ・神官 ・ハンター ・ナイト ・盗賊 ・暗殺者 ・勇者 ete

※ここに掲載しているのは、ほんの……ほーんの一部です。どんな人材が召喚されてもクーリングオフはできません。ガチャは完全ランダムなので、何が出るかはお楽しみにー。







PS.あー書き忘れていたけど、ガチャは有料なので気をつけて。

以下は料金表だよ。


(初級ガチャ 3種類)

レア①銅貨10枚版 レア②銅貨50枚版 レア③銅貨100枚版


(中級ガチャ 3種類)

レア①銀貨10枚版 レア②銀貨50枚版 レア③銀貨100枚版


(上級ガチャ 3種類)

レア①金貨10枚版 レア②金貨50枚版 レア③金貨100枚版


※初級の方がレア度が低く、上級の方がレア度が高い仕様になっています。

 頑張ってお金を集めて、上級ガチャでレア度の高い人材を召喚しましょう。 By神様


「やっぱりコイツが書いてたのか」

 なにがby神様だ。余計な事ばっかり※印で書いて誤魔化しやがって、神様がくれたスキルのくせに欠陥だらけじゃないか。あーもう、余計腹が立ってきた。


「ここに書いてる人材のレア度ってなんスかね? 漫画やゲームだとレア度が高い方が強いっスけど」

「ゲームと同じだろ。ただし人材だから、たぶん元の世界でいうところの上級ガチャなら即戦力のエリート社員、中級ガチャなら中途採用の社会人経験者、初級ガチャが学校卒業したばかりの新卒ってところだろ。金額によって持っている能力の差がでるんだろう。簿記持ってるとか、危険物、フォークリフトの資格があるとか、同じ業種のバイト経験有とか、そんな感じだろ」

「なるほど、そういうことっスか」

「どちらにせよ、金をつぎ込めば最強の人材が手に入るってわけだ……うん? ……ガチャを回して簡単に人材が手に入る……そうか……うんうん。いいこと思いついたぞ」

 このスキルを使って、俺が異世界でやりたいことがあるじゃないか。


「佐久間、俺達で会社を作るんだ」

「会社っスか?」

「あぁ人材派遣会社を設立してガンガン稼いでやる。もちろん働かせる人材は全部ガチャで手に入れてな」

 社畜だった俺にも最初は小さな野望があった。でも社畜に慣れすぎて忘れていた。それを異世界が思い出させてくれた。このスキルがあれば0からやっていけるはずだ。

 もしかしたらここまで考えて、俺にこのスキルを与えたのか? それなら凄いけど、あのテキトー神様に限ってありえないな。


「まずは魔族相手に戦える強い人材が欲しいな。それを各地に派遣して稼いでいく。魔族の攻撃に困っている地域は山ほどあるはずだ。金も稼げて人助けで会社のイメージもアップする、一石二鳥作戦。これはビックビジネスの匂いがする」

 こみ上げてくる高揚感で顔のニヤケが止まらない。まさしくウハウハだ。


「さすが先輩っス。それで最終的に魔王を倒すんですね。世界平和のために働くなんてカッコいいっス」

「バカ。なんで俺が世界を救う英雄みたいな事をするんだよ。めんどくせ」

 ガラでもない。それにそんなことをしてはおまんまの食い上げだ

 なにも人類相手にだけ商売しようってわけではない。せっかく人類と争ってくれる魔族がいるのだ、有効活用できる手があるではないか。俺の会社のためにどちらかが全滅するまで戦い続けてもらおう。


「ふふふ、お得意先は大切にしないとな。営業マンとして、いや社長として。ははは」

「お得意先って……先輩まさか魔族と取引をするつもりっスか?」

「当たり前だ。2つの大企業があるなら、どっちとも取引するに決まっている。そうすれば売り上げだって倍になる。それに会社経営においてリスクヘッジは大切なのだよ。佐久間君」

 王国と魔族の国デスガイヤ。ふふふ、どちらとも太いパイプを作り取引が回り始めれば、あとは簡単なルート営業先に早変わり。どんな新入社員が行ったって売り上げを獲得できる、安パイな取引先の出来上がりだ。

 さっきまで悩んでいたのが嘘のように頭の中にビジネスプランが浮かび上がってくる。悔しけど俺はきっと仕事が好きなのかもしれない。じゃあ好きなら好きで好きなだけ異世界でも仕事してやるぜ、ただし社畜ではない、ガチャで召喚した社畜をこき使う社長になってやるのだ。


「でも、ガチャを回すお金はどうするっスか?」

 佐久間にしては珍しく的確な質問だ。せっかくテンションが上がってきたのに水を差しやがって。目の前の問題を突き付けられて現実に叩き落とされてしまう。


「お金なんて持ってないに決まってるだろ。俺たちは別の世界から飛ばされてきたばかりだぞ。当たり前のことを聞くなバカ」

「すいませんっス。でもこのままじゃガチャ回せないっスよ」

「だ・か・ら、まずは小金を稼いで少しづつガチャを回す。手に入れた人材でさらに金を稼ぐ、これを繰り返してまとまった金を稼ぎ、さらにいいガチャを回す。俺達小規模事業者はまずこのやり方で資金を稼ぐしかない」

「そんなに上手くいくっスか」

「やる前から諦めるな。そうと決まれば、まずは事務所探しだな。俺達には新しい拠点が必要だ」

 会社立ち上げには事務所開設がつきものだ。会社あっての事務所、事務所あっての会社、とにかくいい物件を探さないと。


「異世界に不動産屋はなさそうっスね」

「分かってるよ。ないならないで村長に頼んで、空き家でも紹介してもらおうぜ」

「そうっスね。了解っス」

 やりたいことが決まればあとは行動あるのみ。

 村長の家を出てから30分もたっていないけど、すぐさま村長の家に戻ることにした。


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