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言葉が通じなくても気持ちは通じることがある


 事務所に戻ってきて、ふと考えてみると、人材召喚ガチャを一人で引くのは初めてのことである。いつもなら誰かが一緒にいる時に引いていたけど、今は一人。別に寂しいとかではないけれど、ふと初めてのことに違和感があった。といってもそんなことをいちいち気にしていては社長なんて務まるわけもない。さっさと人材召喚ガチャを引いて、さらなる稼ぎを見つけなければ。


「ガチャオープン」

 気を取り直して合言葉を唱えると、久しぶりに見るガチャガチャが姿を現す。一人だろうと何人いようと違いはないようだ。

 手持ちにあるのは支店開業用に持ってきた銅貨が10枚、ジールさんのおかげでかなり開店資金に余裕ができたので、ここは10枚全部使って引いても大丈夫だろう。それにマルスの給料である銅貨50枚も定期的に入ってくるし、10枚くらいでケチケチしててもしょうがない。

 銅貨10枚を投入口に1枚ずつ入れていくと、液晶画面に10枚と表記される。これも松田さんやアズサを引いた時と一緒。これであとはレバー回すだけ。50枚で引いたマルス程の腕前は期待できれないだろうけど、できればギルドに登録して働けそうな職業がいいな。武道家や騎士、魔法使いでもいいかも。もし、戦う系の職業が無理でも、ギルドの依頼の中には薬草を採取したりする地味な仕事もあった、つまり戦えなくても探検家や盗賊、薬を扱うような職業ならなんとか稼ぐことができるかもしれない。お願いします。いい人材を引かせて下さい。

 祈りを込めて重たいレバーを回すと、丸いカプセルが取り出し口に落ちてくる。

 ゴクリ。唾液を飲み込む音が自分の耳にしっかり聞こえてくる。意外と一人でガチャを引いてるほうが、緊張するかもしれない。

 カプセルを開けて、中を見ると、入っていたカードの名前の欄には『大工の甚さん』と書かれていた。


「……」


「……」


「……」

 うん、カードを握ったままフリーズすること約5秒。

 大工の甚さん……つまり、大工だよな。うん、分かりやすいネーミングだけど……大工ってギルドで働けるのか? カードの写真には頭にハチマキを巻いて、金槌を持つ法被姿の角刈りおじさんが描かれている。まさに大工を絵にかいたような姿である。まぁカードに描かれているのだから、当たり前か。しかし、カードに描かれている姿からして絶対に年上だよな。それもかなり上だ。親世代でもおかしくないくらい。うーん、ちょっとやりづらいな。前の世界にいた時にも一度だけ、年上の部下をもった時があったけど……あんまり上手くいかなかったんだよなー……。

 1人で悩んでいてもしょうがない。とりあえず呼び出してみるか。


「『お入り下さい。大工の甚さん』」

 呼び出すといってももちろん時給が勿体ないので、面接としての召喚である。

 呼び出しの合言葉に反応するように白い煙が湧き上がる。その中にシルエットが浮かび上がっていく。


「俺を呼びだしたのは兄ちゃんかい?」

 煙が晴れた最初の第一声がこれである。気のせいか少し喧嘩ごしでもある。


「そうですよ」

「そうかい。ってことは兄ちゃんがこの会社の社長ってことだ」

「そうですね。一応社長です」

「へー随分若い社長だな。ひ弱そうだし。飯食ってんのかちゃんと」

「……」

「なんだよ黙って。敬語もできないおっさんが出てきてウンザリしてんのか。悪かったな。俺は生まれてこの方、敬語とは縁のない世界で生きてんだよ。これが嫌なら雇ってもらわなくてけっこう」

「……」

「ふん。無視か。無視すんなら俺は返るぜ」

「いや、無視する気じゃないんだ。ただちょっと懐かしくて」

「懐かしい?」

 目の前で首をかしげる大工の甚さんには分かるわけもない。

 何を隠そう、俺の実家は小さな工務店を営んでいたのだ。父親が社長、母親が会計担当の小さな家内工業。それでも家の横に建てられた事務所によく出入りの大工や左官職人がやってきては煙草を吸いながら缶コーヒーを飲んでいる姿を見かけていた。もちろんみんな甚さんのようなしゃべり方だった。


「俺の実家にも大工がいっぱい集まって、甚さんのようにしゃべってたなって思って」

「そうだったのか。悪いな。勘違いしちまって」

「気にしないでくれ」

 甚さんにつられるように、自然と俺の話す言葉も砕けてしまう。


「それで面接すんだろ? 何が聞きたいんだ?」

「いや、その必要はないよ」

 召喚するまではキッチリ面接しようと思っていたけど、やっぱりやめた。


「は? 何言ってんだ? お前」

「甚さんは採用することにしたよ。ということで面接はこれで終了」

「いいのかよ。そんなテキトーで」

 面接を受ける側に心配されてしまうとは……。


「いいんだよ。たまには自分の直感を信じてみるよ」

 別の世界で、元の世界の昔の思い出に触れることできた。それだけでも甚さんを雇う意味はあったのだと、何故だか確信できた。


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