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不特定多数の情報よりも一つに絞ること


 部屋に戻るなり、ホルスはマルスの淹れたお茶を一気に飲み干す。あれだけ激しく動いていれば喉も乾くだろう。

「うん、美味い。決闘の後の一杯は格別だな。すまんが、お代わりをもらえるか」

「あ、はい」

 突き出されたカップを受け取ると、家政婦のように謙虚に台所へと向かっていくマルス。これではどっちが決闘こと模擬戦で勝ったのか分かったものではない、さっきまで剣士なら茶を入れずに剣を持てとか言っていたやつが、堂々と剣士に茶のお代わりを頼むなんて信じられない変わり身のはやさだ。


「お代わりです。どうぞ」

「うん。すまんな」

 戻ってきたマルスからカップを受け取ると、再び豪快に飲み干す。どんだけ喉が渇いていたのだろうかコイツは。逆にケロッとしているマルスもマルスでちょっと恐ろしくもあるけど。

 俺と団長のカップにもおかわりをそそぐとマルスは、先ほどと同じように俺の隣の席に座った。


「ありがとう。ホルスとの模擬戦でも、マルス殿の腕が確かなのははっきりと証明された。本題だが、どうだろう? 街を守るためにも騎士団に力を貸してはもらえないか?」

 待っていたかのように団長の熱い視線がマルスに向けられる。人見知りのマルスとしては、少し……いや、かなり居心地が悪そうに見えた。


「力って言われてもいったいマルスは何をするんです?」

 話しだす様子のないマルスに変わって、俺が尋ねる。


「まずは騎士団に仮入隊してもらい。隊員とともにさらなる研鑽につとめてほしい。あとは街や近隣の村、街道などの警備が主な使命となる。もちろん頻繁にあるわけではないが、先日のような族退治も騎士団の仕事だ」

 なんとなく想像していた通りの内容である。元の世界の警察みたいなことだろう。でも、街の治安のためにマルスを貸し出すなんて、貧乏で弱小なわが社にとっては大きな損失でしかない。利益のないことに手を出すほどの余裕もないし。これは断ったほうがよさそうな……。


「もちろんお給金も出る」

「何?」

 給金という言葉に思わず、テーブルから乗り出てしまう。まずいまずい、落ち着け俺。まずは大きく深呼吸だ。冷静になるんだ。今のままでは金の亡者と思われたかもしれない。


「ゴホン。失礼した。ちなみに……どのくらいの?」

「給金の金額か……。我が騎士団も潤沢な資金があるわけではないので、彼だけに大金を払うわけにはいかないが。おそらく月に銀貨1枚程度は支給できるものと思ってくれ。あとは働きによって追加があることもある」

「へー……銀貨1枚ね」

 落ち着け落ち着くんだ俺。考えろ、銀貨1枚だって……騎士ってそんなに儲かるんだ。

 銅貨50枚ガチャで召喚したマルスの給料はそのままガチャの金額/月となるわけで、月に銀貨1枚も貰えるなら、赤字どころかマルスが働けば働くほど毎月銅貨50枚の黒字ではないか。嫌血なんて二つ名がついている時はどうしたものかと思ったけど、やるじゃないかマルス。いや、まてよ。そんなにうまい話があるのか……騎士団で働けば、もちろん危険やケガする可能性は高くなる。つまり労災の可能性も高くなるわけだ。もしマルスが怪我でもすれば……アズサの時のようにわが社の財布は火の車に……でも、せっかくならここで攻めて、貯蓄も欲しいし……どうしたものか。


「マルス。お前の仕事だ。お前が選んでいいぞ」

 俺が悩んでいてもしょうがない。迷った時は本人に決めさせるのも一つの手だ。それに一度危ない目に合わせてる手前、罪悪感もあるので勝手に決めるのも忍びない。といっても内心ではお金のために騎士団に入ってほしいのが本音だけど。


「……少し考えてもいいですか。家族にも相談します」

「わかった」

 うんうん。仕事をするときは家族に相談したほうがいい。家族みんなが賛成してくれるような仕事なら……。

「ってお前、家族いたのか?」

「いますよ。両親と妹がいます」

「へー……」

 カードには記載されていないから、召喚した人材の個人情報なんてほとんど知らなかった。そういえば松田さんには子供がいたっけ。


「ちなみにだけど、もしマルスくらいの腕前を持つ社員が他にもいたら騎士団で雇う予定はありますか?」

 一つ気になっていたので聞いてみる。近い将来、ガチャでいい人材が手に入った時のためにだ。


「そんな者がまだいるのかここには」

「いや、今はいないけど……先々スカウトしようかなーっと思いまして」

 団長の食いつきがあまりにもよかったので、ちょっと逃げてみる自分がいた。騎士団はよほど人材不足のようだ。


「ふむ。もしそんな者がいるならば、我らが騎士団にも紹介してほしいが……先ほども言った通り騎士団の財源にも限度がある。マルス殿のような待遇の者を何人も雇うことは正直難しいのが現状だ。もし腕がたって、お金を稼ぐのが目的であるのなら、もっと大きな中央の王都まで行って傭兵をするか、ギルドで冒険者登録をして冒険者やトレジャーハンターになったほうが一攫千金の夢はあるかもしれない」

「ギルドとは?」

「なんだギルドも知らないのか?」

 団長のかわりに、横からホルスが呆れたように言う。なんとなくだけどコイツに言われるのは、馬鹿にされているようでちょっとだけムカつく。マルスにコテンパンにやられたくせに。


「俺が住んでいたセレンの村にはなかったからな」

「小さな村には……ないか。ギルドっていうのは、簡単にいえば冒険者と依頼者の交流所だ。依頼を出したい人はギルドに依頼書を出す、そしてギルドは依頼を達成できそうな冒険者に依頼を伝える。これだけだ。お互いにわざわざ相手と話す手間がいらないってわけだ。依頼内容によっては報酬が桁違いのものまである。まぁ報酬が高い依頼にはリスクがつきものでもある。その辺は自分の腕との相談になるな。簡単に説明するとこんなもんだ」

「なるほどな」

 ホルスにしてはわかりやすい説明だ。しかしギルドという組織は少しだけ人材派遣会社であるわが社に似ているところもある。敵情視察もかねて一度、見に行ったほうがおもしろいかもな。


「話が脱線してしまったようだな。長居をしすぎた。それでは私たちはこれで帰るとしよう。マルス殿よい返事を期待しているぞ。そしてお茶もおいしかった」

 そう言うと団長は立ち上がる。それに合わせるようにホルスも急いで立ち上がった。


「ちょっと待って下さい。そういえばまだ名前を教えてもらってないような」

 団長であることはわかっていたけど、自己紹介がないまま、気が付けば聞き漏らしていた。


「そうか、すまない。まだ名のっていなかったな。これは失礼した。私はクリプトン騎士団団長のセシリー・ベネディクトだ。以後よろしく頼む」


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