縁は異なもの、困るもの?
玄関に行ってみると、呆然と立ち尽くすマルスの前に2mはあるだろう長身の男が、白銀の鎧を身にまとい背筋をピンと伸ばして立っていた。
鎧の上からでも鍛え上げた肉体の隆々しさがハッキリと分かる体付きだ。
「ここにハヤシなる者がいると聞いたのだが、お主か?」
「…え? ……あのー……」
男の問いかけに、いつも以上にテンパった様子のマルスがいる。
「あの、ハヤシは俺ですけど」
助け舟を出すように、マルスと男の間に割り込んでいく。
すると男の視線はマルスから俺へと移り、まるで品定めをするかのように大きな両目でジロジロとなめまわしていく。正直、男に見つめられてもうれしくもない。
「ふん。そんな細い腕で本当に山賊を倒したのか?」
山賊…………。なるほど。この男はあの事件のことを知っていて、山賊を倒した剣士に会いにきたようだ。
「あーそれね」
相手が無作法な言葉で話してくるなら、こっちもわざわざ敬語で話してやる必要もないだろう。
「それは俺じゃなくてこっち。うちの部下のマルスがやったんだ」
俺の言葉を聞き終わると、男の視線が俺から再びマルスへと移った。
「この男が? 嘘ではないのだな」
「ほんとだって。嘘つく理由がないだろ」
確かに三角巾を被ってエプロンを着た今の姿を見ると、10人近くいた山賊を一人で倒した剣士には全く見えないけど、本当なのだからしょうがない。
それに剣士には見えなくてもスラっとした体形と甘いマスクのおかげで、エプロン雑誌のイケメン広告モデルには見えるはずだ。まぁ見えた所で、この世界では意味はなさそうだけど。つい自分で自分にツッコんでしまった。
「コイツが山賊を倒しただと。くぅ……侮辱するな。そんな恰好をした奴が剣士だと、剣士であるなら常日頃から剣を持て。そして鎧を着ろ。それが剣士という者の責務だ」
「え……あ、すいません」
別に悪いことをしているわけでもないのに、あまりの圧にマルスは謝ってしまう。それにしても随分お堅い奴だなコイツは。営業マンをしていた経験から考えるに、こういう自分の意志を持った頑固な奴が一番面倒なタイプなのだ。だいたい何をしに来たんだコイツは。
「あのさ、ご立腹なところ悪いけど。うちは基本、職業に関係なくなんでもやる会社なの。こんなこと中小企業なら当たり前、うちは専門職だけでやっていける大企業とは違うの。わかる?」
「チュウショウキギョウ? ダイキギョウ? 意味の分からないことを言うな。私が言いたいのは剣士としての心構えについてであって」
「だからお前の勝手な意見を押し付けるなって言ってるだろ。お前も分かんない奴だな」
「な、お前とはなんだ、お前とは。失礼だぞ。これでも私はクリプトンの街を守る騎士団の副団長を務めている者だ」
そう言うと自慢げに鎧に刻まれた鷹のエンブレムを見せつけてくる。
「ふーん。知らないね」
クリプトンに来たばっかりの俺達に言われても知るわけもない。
「馬鹿にしおって。そこになおれ。厳粛に成敗してくれる」
「あぁできるものならやってみろ。善良な市民に手を出すのか」
「言ったな貴様」
激高した男が腰の剣に手をかけた瞬間
「何をしているのだ。ホルス」
男の後ろから、凛とした女性の声が聞こえてくる。
「だ、団長」
そこにはホルスと呼ばれた男と同じ、白銀の鎧を着た女性が立っていた。鎧には同じ鷹のエンブレムが刻まれていて、この女性が騎士団であることは間違いなさそうだけど。それ以上にブロンドの髪を後ろで結び、くっきりとした目鼻立ちは騎士というよりもランウェイを歩くモデルのような美しさであった。
「だ、団長……お越しでしたか……お、お見苦しい所をお見せしました」
先程までの威勢が嘘のように、ホルスの体が小さくなっていく。
それだけ団長と呼ぶ女性が恐ろしい相手ということになる。
「申し訳ない。部下の非礼は団長である私の失態でもある。許してくれ」
一歩前に出ると、女性は俺とマルスに向かって頭を下げる。
「だ、団長。こんなやつらに頭を下げる必要は」
「いいかげんにしろホルス」
「は、申し訳ありません」
叱責を受けたホルスは、敬礼をしたまま静止する。
「あの……こっちもつい言葉が過ぎてしまって。顔を上げて下さい」
急に丁寧な対応をされると、こっちまで罪悪感に包まれてしまう。
「そう言ってもらえるとありがたい」
「それでその……団長さん達がどうしてうちに?」
「ホルスも伝えたと思うが、山賊を一人で倒したという人物に会いに来た。今回の場合はハヤシ殿ではなく、そちらのマルス殿ということになるな」
騎士団の団長と副団長がわざわざマルスに会いにくる。何の用だ。
「そういうことなら玄関で立ち話もなんですので、中にお入り下さい。まだ引っ越したばかりで片付いてないですけど」
「ありがとう。それでは遠慮なく」
団長に続くように、ホルスも事務所の中へ進んでいく。
「マルス。お茶を追加で二つ頼む」
「了解しました」
マルスが台所に消えていくのを、苦々しい様子でホルスは見ていた。
うーん、剣士が給仕係をやるのも納得いかないようだ。
「どうぞ」
しばらくしてお茶を淹れてマルスが戻ってくる。
二人の前にカップを並べ終えると、マルスは俺の横に腰掛けた。
「冷めないうちにどうぞ」
「かたじけない。それでは」
俺がすすめると、団長の女性はカップを手にとる。ただ隣に座るホルスは一切手をつける様子がない。団長の前で抑えているのだろうけど、剣士の淹れたお茶など認められないことなのだろう。本当に固い奴だ。今時、元の世界でも男子厨房に入らずなんて古いのに。
「それでマルスに用とは?」
ホルスにばかり気をつかっていてもしょうがないので、話しを進めることにした。
「その前に自己紹介がまだであったな。私はクリプトンの街を守る騎士団の団長を務めているセレスティアだ。よろしく頼む」
「こちらこそ……」
「さて、今日はマルス殿の腕を見込んでお願いがあってやってきたのだ」
「僕の……ですか?」
「あぁ。一人で山賊を倒す貴殿の腕はかなりものだ。そこでよければ我が騎士団に助力をお願いできないかと……」
「やはりやめましょう。団長」
セレスティアさんの話を遮るように、横からホルスが口を挟む。
「何を言うホルス。お主も賛成していたではないか?」
「ですが、ここに来て考えが変わりました。こんな剣士のプライドもない奴らに騎士団の手伝いなど務まりません」
奴らって……俺も一緒にされているけど。俺は剣士じゃないし。
「では、どうしたらお主は納得できるのだ」
「騎士がお互いの力を確かめる方法は決闘しかありません。団長、私に決闘の許可を」
「……はぁ。お主も頑固だからな」
やれやれと言いたげにセレスティアさんは頭に手をあてる。どうやらホルスが頑固なのは周知の事実のようだ。それにしても決闘? 勝手に話が進んでいるように見えるけど。
「どうだろうマルス殿。こちらのホルスと決闘ではないが、手合わせをしてくれないか。それで彼も納得すると思う」
「え? あのー……それは……」
困った様子のマルスがしきりにこっちを見つめてくるけど、こうなってしまっては俺にもどうしようもない。すまんマルス。諦めて戦ってくれ。
俺にできるのはマルスが怪我をせず無事であることを祈ってやることだけであった。




