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金持ちの行きつく先は、結局どこも同じかもしれない


 ベッドから起き上がり久しぶりに地面に足をつけてみる。フラつきもなくダルさもなさそうだ。完璧にいつもの状態に戻っている。改めてヒーラーとかいう人の魔法の凄さを実感させられる。

 扉を開け部屋の外を覗くと、長い廊下が伸びていて、人の姿がなかった。白い無機質な壁が広がる空間、まるで元いた世界の病院にそっくりだ。思わず身震いがしてくる。子供の時に盲腸で入院した俺は、病室をコッソリ抜け出し、夜の病院で迷子になったことがある。今思えば自業自得だけど、子供に抜け出される看護師さん達もよくない。おかげでそれ以来病院が怖くなり、大人になった今でも重度の病院嫌いだった。


「さっさと出よう……こんなとこ。やれやれ、佐久間に見せられないなこんな姿」

 奮い立たせるように自分に言い聞かせると、出口を求めてとりあえず右手の道を進んでいく。途中、2回ほど分岐点を過ぎた先に目的の出口は見つかった。こういう時の運だけはあるようだ。


 重厚な扉を押し開き、建物を出ると眩しい太陽が出迎えてくれた。直接浴びる日の光が懐かしく感じるのも、入院あるあるかもしれない。

 そんな風に考えていると、少し離れた場所から待っていたとばかりに馬車が一台近づいてくる。茶色い毛並みの馬が引っ張る馬車が赤いレンガが敷き詰められた道の上を、ゆっくりこちらに向かってやってくる。たまたまここを走っていたとは思えないし、周りには俺しかいない。間違いなく俺の為に用意された馬車なのだろう。

 ずっと見張っていたのだろうか? あまりにタイミングが良すぎる。まるで俺が今日、この時間に出てくることが分かっていたかのようにだ。


 俺の前に馬車の入口がくるようにピタッと止まると、御者席から男性が降りてきた。

「ハヤシ様ですね?」

 全身黒一色の服を着た老紳士が尋ねてくる。暑さなど気にならないかのように眉一つ、指先一つ微動だにせず立っている。


「そうですけど……貴方は?」

 これも元営業マンの性だろうか、相手が敬語だと思わず言葉づかいが余所行きの言葉になる。


「私はジール様に仕えておりますセンガンと申します。ジール様よりハヤシ様をご自宅までお連れするように申し使っております」

 どうやらジールって人はかなりのやり手らしい。こっちから伺う予定だったけど、しっかり迎えをよこしてくれたようだ。


「分りました。じゃあ遠慮なく」

 センガンさんが開けたドアから馬車の中に乗り込む。乗合馬車違って、中は装飾が施され腰掛ける座席もクッションのように柔らかかった。


「それでは出発致します」

 御者席に戻ったセンガンさんの声で、馬車は動き始める。

 街中を走っていることもあって、スピードは自転車よりも少し遅いくらい、まぁ歩くよりは早くて楽そうだ。

 馬車は補装された道の上を進んでいく。開いた窓からはクリプトンの街並みを眺めることができる。さすがに元いた世界の高層ビル群とまではいかないけど、たくさんの住宅や店が立ち並んでいる。確かにセレンの村に比べれば大都会である。

 街中を歩く人々も多く、顔つきも田舎っぽさがなく洗練されているように見えた。怒られそうだから、こんなこと村長さんの前では絶対言えなさそうだ。


 しばらく進むと、馬車はスピードを緩めて止まる。どうやら目的の場所に着いたようだ。

 御者から降りて来たセンガンさんがドアを開く、俺はそのまま馬車から降りた。

 目の前には豪邸というのが相応しい程の建物がある。街の中心部から少し外れた広大な土地に、財力にものをいわせた宮殿のような建物だ。なんとなく分かっていたことだけど、改めて豪邸を見てしまうと、ジールという人物の財力の大きさに感服するしかない。田舎町の空き家に事務所を借りているうちの会社とは大違いである。くそ……悔しいけど、いつかは絶対に追い越してやる。変な闘争心が芽生えてくる。


「ハヤシ様、こちらどうぞ」

「あ、はい」

 門の入口で待つセンガンさんに促されるまま、豪邸の敷地内へ。門の中も豪邸に繋がる庭が両脇に広がっている。噴水まである始末だ。


「それでは、こちらの部屋でお待ちください。主を呼んでまいります」

 豪邸に入ると、入り口横の部屋に通される。ここが来客用の応接室なのだろう。よく分からない置物や、おそらく純金であろう金色の像が飾られている。俺の感覚では趣味がいいとは言えないけど、こっちの世界ではこれが金持ちのスタンダードなのかもしれない。

 何もすることがないので、一通り部屋の中を一周し終えると革張りのソファーに腰掛ける。元いた世界に比べると少し硬めのソファーに身を任せていると、扉をノックする音が聞こえてくる。どうやら謎の人物がやっと登場するようだ。


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