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どうしても駄目な物は誰にでもある


 煙が晴れるとカードに描かれていた二枚目な青年がそこに立っていた。

「こ、こんにちは」


 俺と佐久間の姿を見た途端に、慌てたようにペコっと頭を下げる。どう見ても挨拶というよりも謝っているように見えたのは俺だけではないだろう。


「さっそく面接をするけど、いいか?」

「は、はい」

 かなり緊張しているようで、テーブルに備わった椅子に腰かけるまでに2回躓いていた。イケメンなのに残念なドジっ子でもあるようだ。


「俺がお前を召喚した㈲異世界商事の社長だ。そしてこっちが部下の佐久間」

「よろしくっス」

「あ、はい。よろしくお願いします」

 圧をかけているつもりはないが、話せば話すほど、目の前のイケメン剣士はどんどん萎縮して小さくなっていくようにも見える。大丈夫かなコイツ。不安になってしまう。


「とりあえず自己紹介してもらっていいか?」

「あ、はい。えーっと剣士をしています……マルスといいます。はい…………」

「え……以上?」

「あ、はい」

 カードに書いてある情報だけ言われても、そんなのすでに知っていることだ。元いた世界の面接でこんな奴がいたら即アウトだ。新卒の高校生だってもっとマシな自己紹介をきっと学校で教わっているはずなのに。それ以下とは……ますます不安だ。


「えーっと、じゃあこっちから質問だけどいいかな?」

「あ、はい」

「まずはその……腰に下げてる剣だけど……」

 2回躓いている時から気になっていたことだ。剣士だから腰に剣を装備しているのは当たり前なんだけど……コイツが装備しているのは……。


「あ、木刀のことですか」

 当たり前のことのようにマルスは言う。それもちょっと嬉しそうにだ。


「そうそう。剣士なら木刀じゃなくて剣だろ普通。どうしてお前は木刀なんだ? 剣を買うお金がないのか?」

「先輩失礼っスよ。きっと木刀でも剣と同じくらい相手を切り裂けるっス。手加減の為の木刀っス」

「なんだよ手加減って、漫画の読みすぎだぞお前」

「そうっスかね。異世界の剣士ならそれくらいありそうっスよ。イケメンですし」

「顔は関係ないだろ」


「あ、あの違うんです」

 マルスを放置したまま、俺と佐久間が言い合っていると、振り絞った声でマルスが仲裁に入る。

「「違う?」」

 思わず聞き返す俺と佐久間の声が重なる。


「お二人は僕のカードに書かれている通り名をご存じですか?」

「通り名……あぁこの名前の前についてる嫌血ってやつか」

 カードで召喚する人材の名前についているあだ名みたいな部分は通り名というようだ。


「そうです。嫌血……その名の通り僕は血が苦手なんです」

「……剣士なのに血が苦手?」

「はい。恥ずかしながら小さな頃から赤い血が苦手で……なので剣士になった今も切れ味鋭い剣ではなく木刀を使ってるんです」

「なるほどな……」

 簡単で分かりやすい理由のおかげでマルスが木刀を使っている理由は納得できた……けど、剣士なのに血が苦手って……マジか? 致命的だな……血が苦手なら剣士以外の職を選べばいいものを……わざわざなんで剣士になったんだコイツ。まぁ今さらコイツに言っても遅いだろうけど。


「でも、一生懸命修行して腕には自信があります……木刀ですけど」

「分ったよ。とりあえず聞きたいことは聞けたから面接は終了ってことで」

「はい。ありがとうございます」

 面接の流れから不採用を覚悟したように俯いたままのマルスは……イケメンなのに泣きそうな顔で煙と共に消えて行った。


「はぁーどうするかな?」

 ソファーに倒れ込みながら、思わず口から言葉が漏れてしまう。


「内向的な人っスね」

 そう言って佐久間も向かい合うようにソファーに腰掛けた。


「内向的? どう見ても頼りなさそうだろ。それも嫌血ってそういうことか……」

 今考えてみれば通り名を見た瞬間に気づいてもおかしくなかった。血が苦手だから嫌血……血が苦手だから木刀を使う二枚目剣士か……。どうしてうちで引くガチャの人材はいつも普通じゃないだ。チャラいアズサの姿が思い出される。


「どうするっスか?」

「どうするもなにも……あーこんなことなら銅貨1枚のガチャにしておけばよかったぜ」

 松田さんやアズサと違い、マルスには銅貨50枚を使ってガチャを引いているのだ。


「今からでも引けるっスよ」

 確かに佐久間の言う通り銅貨1枚ガチャなら今からでも引くことはできる。


「いや、それは新規開店用の金だったり社員の給料用だからやめとくよ」

 無茶な散財をしないのも、優秀な経営者に求められる資質のひとつである。


「まぁいないよりましか、顔はいいから護衛として無理だったとしても、新しい支店の受付でもさせるか」

 きっと女性客には大ウケしそうだ。

「そんな人事異動ありっスか?」

「ありあり、社長は俺だからな」

 強引な部署移動なんて元いた世界では当たり前のこと、突然辞令がでたと思えば1週間後には県外で、やったこともない現場仕事をしているくらいだ。

 同じ場所で剣士が受付になるなんてかわいいくらいだ。


「ただし、最初は月に銅貨50枚も払う余裕はないから常勤じゃなくて不規則な非常勤だな。必要な時だけ呼び出すことにしよう」

「それも酷っスね」

「不採用よりは優しいだろ」

 とにかくこれで、護衛兼荷物持ち兼雑用を確保したから……非常勤だけど。あとは旅立ちの日を迎えるだけである。


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