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安易な発想は身を滅ぼすことがある


「さっそく第2回㈲異世界商事作戦会議を始める。準備はいいか?」

「いきなりっスね」

 テーブルの席に向かい合うように座る佐久間は言う。


「いきなりでもやらないと不味いんだよ」

「アズサさんがあんなことになったっスからね」

「入院中ですもんね」

 当たり前のように作戦会議に参加してもらっている松田さんも、心配そうに言う。


「確かにアズサの怪我は心配だ。だけどな、俺達はもっと心配しないといけないことがある。なにか分かるか佐久間?」

「え? 僕っスか……えーっと……お金っス」

「正解。さすがは我が社の古株平社員」

「褒めてるっスか、それ?」

「褒めてる褒めてるって」

 妙にカンが鋭くなってきたなコイツも、佐久間を誤魔化すのも面倒になってきたな。


「でもお金を稼ぐなら、またガチャを引くんですか?」

「うーん……その手もあるけど」

 正直、村長さんから借りたお金はまだ銅貨10枚残っている。これでガチャを引いてアズサのような職業の人材を召喚すれば、なんとかなる気もするけど……。


「ガチャは……やめとこう」

 あの神様のことだから、そう何度も思った通りのガチャが引けるとは思えない。そうなるとみすみす溝に銅貨を捨てるわけにはいかない。


「なにか他に、いい案はないかな……」

 会議あるあるだけど……いい案が浮かばない時に限って、飲み物だけはどんどん飲んでしまう。今日も松田さんの淹れてくれた紅茶モドキをすでに3杯も飲んでいた。


「紅茶モドキは上手いのに……上手い話は思いうかばな……い……そうだ、この手があるじゃないか」

「どの手っスか?」

 自分の手のひらを見ながら佐久間は言う。コイツは本当に人が真面目に考えている時に限ってふざけた奴だ。


「アホなこと言ってないで、急いで村長さんの家に行って村長さんとアニーさんを連れて来い」

「え?」

「いいから行ってこい。社長命令だ」

「は、はいっス」

 慌てた様子の佐久間は、ソファーに足をぶつけながら事務所を出て行った。


 それから10分後、村長さんとアニーさんを連れて佐久間が戻ってきた。なんて言って二人を連れてきたのか分からないけど……村長さんとアニーさんの表情は苦笑いだったので、深くは聞かないことにしておこう。面倒になるだけだ。


「急に来てもらってすいません」

「それはかまいませんが、どうしました?」

「実は……まずはこれを飲んでみてください」

 俺が言うと、すぐさま打ち合わせ通り松田さんが紅茶モドキの入ったカップを二つ持ってくる。


「おや、お茶ですか。それにしてもいつもよりいい香りがしますね」

 目の前に置かれたカップから香る匂いに、二人は目を細める。

 どうやら滑り出しは順調のようだ。


「冷めないうちに飲んでください」

「そうですか……では遠慮なく」

 そう言って村長さんはカップを手に、一口紅茶モドキをすする。


「……おいしい。凄くおいしいです」

「うん。体がポカポカしてくる」

 予想以上の美味しさに二人は顔を見合わせる。そうだろうそうだろう。俺達も最初はそうだった。松田さんの紅茶モドキを飲んでしまったら、他のお茶なんてただの茶色い水にしか感じられなくなる。


「こんなに美味しいお茶は初めてです。ご馳走様でした」

 村長のカップはいつの間にか空になっていた。


「それで私達を呼ばれたのは? 美味しいお茶を頂けるだけではないですよね?」

 さすがは元国家公務員の村長さん話が早い。


「もちろんです。実はこの美味しいお茶を販売しようと思うんです」

「販売……ですか」

「はい。ということで、村の広場で露店を出す許可を頂けないかと」

「露店……それはかまいませんが、おすすめはしませんよ」

「どうしてっスか?」

 俺の代わりに佐久間が尋ねる。


「確かにこのお茶は凄く美味しいです。でも前にお話しした通り、この村でお金を払って物を買う習慣はほとんどありません。なので出店されても儲けは出ないと思いますが」

「な、なるほどっスね」

 残念そうに、佐久間は一人納得する。単純な奴だ。

 村長さんのいう事はもっともである。ただし、俺もそれは分かっていたことだ。


「大丈夫ですよ村長さん。広場で出す露店は試作店舗みたいなものですから」

「シサクテンポ……?」

 村長さんは首をかしげる。この世界にはない言葉なのかもしれない。


「練習みたいなものです。無料で村の皆さんに提供して、いろんな意見を聞こうと思ってます。それでうまくいけば、大きな街で出店しようかと」

 もともとこんな小さな村で喫茶店を始めたところで、売り上げを期待できるわけもない。そうなると、目指すは大きな街に決まっていた。


「そうだったんですね。それでしたら安心しました。先日のお肉のお礼もありますし、どうぞ自由に広場を使ってください」

 先日の猪肉の効果はまだ絶大のようだ。今頃ベッドの上で眠っているアズサにも聞かせてやりたいものだ。


 ということで、さっそく広場に試作店舗を作ることにした。店舗っていってもあくまで実験店舗なので、テーブルに椅子と簡易的なかまどを用意するだけでOKだ。


「天候よーし。場所よーし。準備よーし。松田さんは大丈夫ですか?」

「もちろんです。あとはお湯が湧けばお茶を淹れられます」

「お湯待ちか……」

 自然と目線はかまどの前でしゃがむ佐久間の背中に向けられる。


「どうしたっスか?」

 視線に気づいたのか、佐久間は振り返る。


「火はおこしたのか?」

「バッチリっス」

 そう言う佐久間の手にはライターが握られていた。文明の利器に頼るなんて……楽してるな。コイツめ。


「先輩、お湯が湧いたっスよ」

「おぉそうか。じゃあ松田さんお願いします」

「かしこまりました」

 そう言うと、いつもように紅茶モドキを淹れだす。よし、ここまでは作戦通りだ。あとは誰でもいいから、テキトーな村人にお茶を飲んでもらうだけ。どっかにいないかなーちょうどいい村人は……。休憩の時間なのか家の外や畑に村人の姿はなかった。


「よし、佐久間行ってこい」

「行ってこいっスか?」

「村人集めにだよ」

「な、なるほどっス。了解っス」

 駆け出していった佐久間は、思った以上に早く戻ってきた。その後ろには10人の村人の姿がある。さすがは毎日、畑仕事を手伝っていたことはある。かなり村人たちと親しくなっているようだ。


「お茶が飲めるってきいたのよ。サクちゃんに」

「さくちゃん?」

「あ、ぼくの事っス」

 横から恥ずかしそうに佐久間は言う。あだ名で呼ばれる関係にまで懐に入り込んでいるようだ。ある意味営業マンとして合格点以上の成果だ。そう言えば元の世界のころから、おばちゃんキラーだったような気もする。こっちの世界でもキラーの腕前は変わらずのようだ。


「どうぞどうぞ。飲んでみてください」

 淹れたての紅茶モドキが入ったカップを渡していく。

 フフ、あまりの美味しさに驚く村人の顔が想像できてしまうぜ。


「……?」

 一口紅茶モドキを飲んだ村人たちの表情が曇る。あれ? 思っていた反応と違うな。予定では美味しさで意識が飛んでしまう人がいてもおかしくないと思っていた。


「どうっスか?」

「どうって……ねぇ」

「うん……そうねー……」

 味の感想を聞かなくても、言いあぐねた様子と仕草でなんとなく想像ができてしまう。


「ちょ、ちょっと一旦撤収しまーす」

 集まってもらった村人を強制解散させ、簡易店舗の裏に集合する。集合といっても3人しかいないのだけれども。


「どうして微妙な反応だったんスかね」

「さぁ俺にもサッパリだ。何かいつもと違いましたか?」

「同じように淹れたつもりです」

「ですよねー……うーん」

 悩んでいてもしょうがない。ここは俺達も飲んでみるだけ。

 村人が飲んだ紅茶モドキと同じヤカンからカップに注ぎ、飲んでみる。


「あれ……」

 思わず声が出てしまった。それくらい……。


「佐久間、お前もちょっと飲んでみろ」

「え? はいっス」

 俺が渡したカップを受け取ると、佐久間はグッと一気に飲み干した。


「どうだ?」

「普通っス……いつもの美味しい松田さんのお茶じゃないっス」

「だよな……なんでだ?」

「何でっスかね」

 いつもと違うところ……松田さん曰く淹れ方は一緒とのこと、茶葉も一緒、道具も一緒だ。違うのは……。


「ここってことか……もしかして」

 違うのは紅茶モドキを淹れる場所だけである。

 そう言えば思い返してみると松田さんのカードには会社の給湯室でお茶を淹れている姿が描かれていた。


「まさか……給湯室(事務所の台所)で淹れたお茶しか美味しくならない……のか」

 そう考えてみれば、すべての辻褄が合う。でもそんな限定能力では街中で喫茶店を開業するなんて無理に決まっている……。あーせっかくの儲け話が。


「とほほほ……」

 やっぱり……楽して儲けることはできないのか……。あー……優良企業の夢が遠のいていく。ガックシ。


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