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プロローグ



 頭が痛む、生暖かい血が流れている感覚がして気持ち悪い。

 遠くでサイレンの音がする、視界の端には赤いパトランプの点滅する光、事件? 事故? あぁそっか……俺は死ぬのか……。たしか……営業先に行くために、後輩の運転する社用車に乗ったところまでは覚えている。昨日も残業で徹夜だったせいで助手席でウトウトしていたら……これか。よく見たら隣で倒れているのは運転していた後輩の姿、ピクリとも動きやしない。こいつも駄目だな。大丈夫かうちの会社、俺とアイツがいなくなったら営業部はガタガタだな、部長の慌てる顔を想像したらちょっと笑えてくる。って死ぬ間際になんで俺は会社の事を考えているんだ……もっと考えることあるだろ普通、最後の最後まで染みついた社畜根性まる出し。自分で嫌になっちゃうぜ……あーぁもし生まれ変われるなら来世では社長になって……運転手付きの高級車に、美人秘書、有能な部下を馬車馬のようにこき使って、楽して儲けて暮らしたいなー……なんて無理か……ははは……でも、でも、もし生まれ変われるなら……次の人生社畜だけは……勘弁だな。







「……パイ」

 聞き覚えのある声が俺を呼んでいる? 誰だっけこの声?


「先輩、先輩」

 確か……会社の後輩の佐久間? でもアイツは俺と一緒に事故に巻き込まれて死んだはずでは……? というより、俺は死んでいるはずだ。


「先輩、起きて下さいよ。先輩」

 目を開けて起き上がると、目の前には見慣れた後輩の顔があった。目元はウルウルしていて、今にも泣きだしそうな能天気な弱虫君である。


「よかったー。先輩が起きなかったらどうしようかと思いましたよ。こんな変な所に一人は嫌っス」

「変なところ……」

 佐久間の言う通り、周りを見渡してみると辺り一面真白な世界。あるのは白だけ、壁もなく天井もない、かろうじて床はあるのだろう。それでもタイルなのか木なのかまったく分からない。

 床の上にお尻が乗っているのに、まるで浮いているようにも見えた。


「どこだここ、確か俺たちは死んだはずだろ」

 最後の記憶はくすんだ空を見上げたまま、倒れている光景だった。


「そうなんですよ。すいません、寝不足で運転ミスしちゃいました。まさかトラックと正面衝突するなんて。ははは」

「バカ。はははじゃないだろ。お前が勝手に事故死するのはいいけど、俺を一緒に巻き込むなよ」

「そんなー先輩冷たいっス。僕たち山口商事(株)営業部第3課のNo,1コンビじゃないですか。死ぬ時も一緒にして下さい」

「勝手にコンビにするな。あと抱き着くな気持ち悪い。うん? いや、 待てよ……」

 泣きながら抱き着く佐久間を払いのけ、自分の胸や頭、腕や足を順番に触っていく。交通事故にあったはずなのに怪我もなければ、血もでていない。


「お前も怪我してないみたいだな?」

「はい。事故ったのにぴんぴんしてます。奇跡っスかね」

「奇跡って……漫画すぎるだろ」

 確かに頭から血が流れていく感覚があったのをはっきり覚えている。人が死ぬラインなんて知りたくもないけど、あの感覚は絶対に助からないレベルだったはず。となるとここは死後の世界? 天国か? 地獄?


「佐久間、この辺に三途の川なかったか?」

「さぁ?」

「さぁってお前な、先に目覚めてただろ」

「そんなこと言われても……少しだけ早く起きただけですって。起きたらここで先輩が倒れてるから、一生懸命起こしてたんですよ」

 どうやら死んでも能天気さは変わらないようだ。


「なんじゃ、三途の川で泳ぎたかったかの?」

 突然、俺のでも佐久間のでもない声が聞こえてくる。

「誰だ?」

 声が聞こえたはずなのに……周りに誰もいない。


「幽霊っスか? 僕そっち系は苦手で」

「バカ、死んでんだぞ俺達。どっちかといえば俺たちが幽霊だ」

「あ、そうっスね確かに、じゃあ誰の声が?」


「フォフォフォ。ここじゃ、ここじゃよ」

 またしても声が聞こえてくる。耳をすませば上から聞こえてくるような気がする。見上げてみるとクリーム色の雲に乗った小柄な爺さんがゆっくり降りてくる。サンタのような白い髪に白い毛むくじゃらな髭、灰色のローブを纏い、手には先端が丸い木の杖が握られている。

「さっきの声はあんたか?」

「いかにも、ワシはゼウス、お主らが神と呼ぶ存在じゃ。あがめよあがめよ」

「神様……?! ははぁー」

 時代劇のように自称神様の前でひれ伏す後輩が一名、ノリがいいのか……アホなのか、佐久間のせいでどっかのテレビのコントのようにも見える。まさかドッキリじゃないよな?


「ドッキリではない。神を疑うとはよくないぞ」

 しゃべっていないはずなのに、タイミングよくツッコまれる。

「心が読めるのか?」

「神じゃからの」

 そう言って誇らしげに胸を張る。信じられないけど……目の前の爺さんが神様であることは本当のようだ。


「あんたが神様なのは信じてやろう。で、その神様が俺たちをどうするきだ? こんな訳の分からないところに連れてきて」

「そこじゃ。ワシもいろいろ悩んでの」

「悩む? 悩むって何をだ」

「お主らの処遇じゃ」

 処遇って……違反を犯した社員でもあるまいし、なんで不慮の事故で死んでしまった俺たちが、勝手に処遇を決められないといけないんだ。


「お主が疑問に思うのはしょうがない。死んだ者は普通、三途の川を渡って天国か地獄に行くのだが、実は天国も地獄も定員オーバーで、入るのに1年待ち状態なんじゃ。おかげで三途の川の途中で待っている死人が山ほどおる」


「1年待ちって……なんだそれ」

「人気のマッサージ店みたいっスね」

 佐久間の言う通りだ。天国と地獄に定員があるなんて……信じられないが、神様がいうなら本当なのだろう。


「そこで待っている死人の中で素質がありそうな者をテキトーに他の世界に転生させ、待ち人の数を減らしておるのじゃ」

「つまり……俺たちは天国にも地獄にも空きがないから、どっかの世界に転生させられるってことか」

「その通り、理解が早くて助かるの。フォフォフォ」

「フォフォフォじゃねーよ。勝手に決めるな」

「勝手に決めていいのじゃ。なぜってワシは神様だからの。フォフォフォ」

 急に理不尽な事を言う上司みたいな態度になりやがって……元の世界で俺が一番嫌いだったタイプだ。


「おやおや、もっと話しておきたいが……もう時間のようじゃ」

「は? ちょっと待て、話しは終わってないぞ。誰も転生に納得してねーよ」

「もう決まったことじゃ、男なら諦めなさい」

「ふざけんな。だいたい俺たちが転生する世界って、どんな世界なんだよ」

「それは行ってからのおたのしみじゃ」

 可愛くもないぶりっ子笑顔で言われても……いちいち腹立つ爺だ。


「爺、爺言うな。ワシは神様である。よし、一つだけ教えてやろう。次の世界は社畜という言葉がない世界じゃ。よかったの。あ、ちなみにワシからちょっとしたスキルのプレゼントもあるから喜べ」

「いや、よかったって……最後にスキルってなんだ……聞いてないぞ、ちょ、ちょっとま……て」

 突然体が浮いたよう感覚がしたかと思えば、体を支えてくれていたはずの床は消え、白い世界の中を落ちていく。横では手足をバタバタと鳥のように羽ばたかせて、一生懸命飛ぼうとするアホな後輩の姿もある。クソ―雑な爺め。覚えてろよ。怒りで拳を握りしめながら、そのまま体も意識も白い世界の奈落へと落ちていった。


今回から連載スタートします。ぜひ面白いと思った方は評価&ブックマークお願いします。

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