小瓶の中の希望(2/2)
「アネゴ~! 助けてください!」
遠くから私を呼ぶ声がした。夫妻との話に夢中になっていた私は駆け寄ってくる人たちを見て、ぎょっとしてしまう。
「デュー、ヨシュア、ミスト……!? 何でまだ会場にいるの! 避難しなさいって言ったじゃない!」
「したよ、アタシたち! でも、出られなかったの!」
ミストが真っ青な顔になって事情を説明する。デューが「魔王対策課の奴らっすよ!」と口元を曲げた。
「この会場、温度調整用の結界が張られてるでしょ? あいつらそこに手を加えて、中にいる人たちが外に出られないようにしちゃったらしいんすよ! つまり、オイラたち閉じ込められちゃったんです!」
「な、なんですって!?」
私は呆然となった。
「あいつら、何考えてるのよ! きっと九頭団や魔王を逃がさないためなんだろうけど、それじゃあ避難もできないじゃない!」
相変わらず魔王対策課はやることがめちゃくちゃだ。私を誘拐しようとしたこととか、いつも手段が強引すぎる。
「ああ、大変なことになっちゃったわね……」
私たちを取り巻いている状況は絶望的だった。
アルファルドの変身を解けば九頭団の威勢を削ぐことができるかもしれないけど、それにはまず彼の八つの頭のうち、正しい顔を見つけて薬を飲ませないといけない。
だけど、当然九頭団はそれを阻止しようとするだろう。
彼らに邪魔されないところまでどうにかアルファルドを誘導できればいいんだけど、会場に結界が張られているんじゃ、それも無理だ。第一誘導なんて言っても、一体どこへどうやって……。
「……あっ」
ふとあることを思い付いた私は、頬に手を当てる。
「そうよ……あるわ、方法。一つだけだけど……」
私の頭がめまぐるしく回転する。そして、急ごしらえだけど、ある起死回生の策を思い付いた。
「ミスト、デュー、ヨシュア、レルネーさん、協力して」
私は四人に向かって早口でまくし立てた。
「危険な作戦だし、怪我人が出るかもしれないけど、他に手はないわ。私たちで九頭団と……それから魔王を止めるのよ」
「魔王と九頭団を止める? ……アネゴ、やっぱり大胆なこと考えますね」
ヨシュアが目を丸くした。デューは「アネゴなら何とかしてくれると思ってたっすよ!」と大きく頷いている。
けれど、私は小さく首を振った。
「私だけの力じゃ無理よ。だから協力してくれる人が要るの。……デュー、コウモリの学級生に声をかけて、私に力を貸してくれる人を探してきて。危ないから、レルネーさんたちと一緒にね」
「分かりました! 任せてくださいよ! ……ところでこの二人、もしかしてサムソンさんのご両親っすか?」
「ええ、そうですよ」
「よろしくお願いします」
デューの素朴な疑問に、二人は人当たりのよさそうな笑みで応じた。
私は次に、ヨシュアに話しかける。
「ヨシュアはニケ副学級長を探してきて。それからその箒、なくさないように」
私はニケ副学級長が彼に渡した箒を指差しながら言った。ヨシュアは「はい!」と元気に返事する。胸のライオンバッジも、自分を鼓舞するように吠えていた。
「ミストは一旦待機よ。でも、後でお友だちを連れてきてもらうわ」
「お友だちって誰?」
「それはそのうち教えるわね」
皆にやることを伝えた私は、「さあ、行って。終わったらここに集合よ」と促した。
ヨシュアは箒に乗ってニケ副学級長のところへ飛んでいき、デューとレルネー夫妻はさっそくコウモリの学級生を見つけたのか、すっかり壊されてしまったダンスホールの方へと向かっていった。
「よし、私も……」
私も自分のやるべきことのためにこの場を離れようとする。待機と言われて近くにあった天幕の残骸の裏に身を寄せていたミストが、「どこへ行くの?」と尋ねてきた。
「最後の協力者を探すのよ」
私はそれだけ言って、杖を片手にその場から立ち去った。