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二度目の魔法学園での生活で、元魔王の大切な人と相思相愛になりました  作者: 三羽高明
3章 二度目の魔法学園生活に、忍び寄る九つの頭

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小瓶の中の希望(1/2)

「大丈夫ですよ、カルキノスさん。私たちが想定していた最悪の事態にはならなかったんですから」


「九頭団は、私たちが思っていたよりも早く魔王を復活させたんです。そのせいで彼は全盛期の力を持たないまま蘇ってしまいました。九頭団が見つけた魔王復活の方法は、まだまだ不完全なものだったんです」


 ああ、そういうことか、と私は納得した。


 この会場で蘇ってしまった魔王は、私が卒業で見た彼と比べて弱体化しているように感じられたんだけど、それは気のせいじゃなかったんだ。


 九頭団は自分たちを邪魔する者が存在することを知ってしまい、焦ったんだろう。だから不完全でもいいから、野望を挫かれる前に無理やり予定を繰り上げてしまったんだ。


 きっと卒業式のときと違って今回は九頭団が表舞台に出てきたのにも、その辺に理由があったんだろう。彼らは魔王の戦力だけじゃ不十分だと判断したに違いなかった。


 でも、以前より弱くなっていたからといって、喜ぶことはできなかった。だってそれって、アルファルドが殺されやすくなってしまったってことだから。


 私はアルファルドを止めたかったけど、彼が殺されてもいいなんてこれっぽっちも思っていなかった。


「……カルキノスさん、顔を上げて」


 どんどん暗い表情になっていく私を見かねたのか、レルネー氏が優しく肩に手を置いてきた。


「あなたも我々と同じなんだね。あの子を何よりも大切に思っているんだ」


「あなたたちと、同じ……?」


「そうだよ。あんなに脆くて優しい子は他にはいない。確かに初めは私たちも、息子の体に化け物を入れられた、と憤らずにはいられなかったけどね。でも、あの子と過ごすうちに、そんな考えは消えてしまったよ。彼も被害者だ。そして、私たちの二人目の息子みたいなものさ」


 レルネー氏の告白に、私の胸は震えていた。


 アルファルドは自分を孤独だと思っていたし、私もそうだと決めつけていた。周囲に誰も理解者なんかいなかったんだって。


 でも、それは違ったんだ。夫妻はアルファルドを通して息子を見ていたんじゃない。きっと九頭団の目を誤魔化すために面と向かって言えなかったんだろうけど、彼自身をちゃんと愛していたんだ。


「……ねえあなた、あれをこの子に託すのはどうかしら?」


 レルネー夫人が夫に静かに問いかける。レルネー氏も「そうだね。この子なら、きっとできる」と頷いた。


「これを、あなたに」


 レルネー夫人は私に小さな瓶を渡した。中には、ティースプーン一杯分くらいの透明な液体が入っている。


「これは、強制変身解除薬というのです」

「えっ、これがあの……!?」


 どんな変身でも瞬く間に解いてしまうという強力な魔法薬。作ろうとして諦めたものを目の前に出され、私は目を丸くした。


「ど、どうやって……? だってこれは、作るのに十年はかかるって……」


 言いかけて私は気が付いた。


 二人は言っていた。『ずっと九頭団の野望を止める方法を探してた』って。きっとこういうことだったんだろう。彼らは九頭団に隠れて、この薬を作っていたんだ。もしもアルファルドが魔王になってしまっても、すぐに助けられるように。


「九頭団は我々が食い止めます。その間に、あなたがこれをアルファルドに飲ませてください」


 すっかり消えてしまった希望の炎が、風を受けてゆっくりと大きくなっていくのを感じる。


 アルファルドを助ける方法はまだある。まだ彼と一緒にいられる。


 そう思っただけで、さっきまでの絶望が嘘のように吹き飛んでしまった。


 やらないといけない。私がこの手でアルファルドを助けなければ。


 そう思うと、じっとなんかしていられなかった。


「ただし、注意事項が一つ」


 落ち着いてなんかいられなくて駆け出そうとする私に対し、レルネー氏が注意を促してくる。


「魔王には、八つの首とその先についた顔があるでしょう? 当然、その顔の分だけ口もあります」


 レルネー氏は拘束が緩みつつあるアルファルドを見つめた。


「知っていますか? あの首は、切ってもまた再生するんです。見せかけだけで本物じゃないから、復活させることも容易なんですよ。彼を本当に倒そうと思ったら、その中から本当の顔を探して、そこを攻撃しないといけません。魔法薬を飲ませるときもそれと同じです」


「つまり……本物の顔についている口から飲ませないと、変身は解けないと……?」


「ええ、その可能性は高いです。最大の効果を得るには、まずは正しい顔を見つけないといけません」


 最大の効果、と聞いて、私はあることを思い出した。


 私が卒業式で対峙した魔王化したアルファルドについてだ。


 あのアルファルドは無差別に辺りを攻撃していたように見えて、実は少しだけなら理性も戻っていたんじゃないかしら。


 だってあのときのアルファルド、私に話しかけてきたんだから。『君なら、こんな未来を変えられるかもしれないな』って。


 完全に魔王になってしまったのなら、意思の疎通なんてできないはずだ。


 私はそれを九頭団が何かミスをして完全な魔王を作り出せなかったからだろうと考えていたんだけど、夫妻の話を聞いているうちに別の可能性もあったということに気が付いた。


 きっと二人はあの卒業式の場にいて、魔王化したアルファルドを助けるために薬を飲ませたんだろう。


 だけど、上手くいかなかった。恐らく、ニセモノの顔についている口に飲ませてしまったから。だから私に話しかけ、遡行の魔法をかけることくらいはできたけど、変身や破壊衝動は止められなかったんだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アルファルドを救えるかもしれない! 十年以上の時間をかけてこっそりと頑張り続けてくれたレルネー夫妻ばんざい!!!!ヽ(・∀・)ノ
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