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プロムナードでの惨劇(3/3)

「こんなところへ何をしに?」


 アルファルドの話では、サムソンの両親は息子に化け物の魂を入れた九頭団を憎んでいるようだったし、きっとこの襲撃に参加しようとしたわけじゃないんだろう。


 私の質問に、レルネー氏は「もちろん、九頭団を止めるためです」と言った。


「我々は少し前に、このプロムの会場を九頭団が魔王復活の舞台に選んだことを知ってしまったのです。何とかしてそれを皆さんに伝えようと、こうして来てみたのですが……」


 間に合わなかったんだろう。アルファルドはもう魔王になってしまった。


「二人とも、逃げた方がいいですよ」


 私たちの傍に飛んできた椅子が落ちる。そこには誰かの血がベッタリとついていた。


「ここは危険ですから」


「そういうわけにはいきません」


「魔王出現は止められなかったけれど、私たちは九頭団の野望を挫き、アルファルドを救わないといけないんですから」


 レルネー夫妻は決意のこもった顔をしていた。私は違和感を覚える。


「サムソンじゃなくて、アルファルドを救いたいんですか?」


 アルファルドの話では、レルネー夫妻は息子の死を受け入れられず、彼を蘇らせる方法を夢中で探しているとのことだった。


 それってつまり、サムソンの肉体に入っているアルファルドを嫌悪しているということだろう。少なくとも、私はそんなふうに思っていた。


 でも今の彼らの発言を聞いていると、二人はアルファルドを心配しているように感じられてしまう。


「カルキノスさん、どうやらあなたは何もかもご存知のようだ」


 レルネー氏は障壁を張って、飛んで来た大きな岩から私たちを守った。


「アルファルドから何かを聞いたんでしょうか。彼は私たちのことを何と? 息子の死をきっかけにおかしくなってしまって、時々彼を自分の子どもと混同してしまうような狂った夫婦だと?」


「いや、そこまでは言ってませんでしたけど……」


 お茶を濁しながら私は目を泳がせる。だって、私の中のレルネー夫妻のイメージは、それに近いところがあったから。


「カルキノスさん、もう隠しておくようなことではないからはっきりと申し上げますが、それは全て演技です。九頭団を騙すための」


「演技……?」


 思ってもみなかった台詞に、私は目を剥いた。


「演技って、どこからどこまでがですか?」

「全てです」


 レルネー夫人がきっぱりと言い切った。


「我々はきちんと分かっているのですよ。死んだ人はもう生き返らないと。そして、私たちの息子とアルファルドは別人だということも何もかも」


 レルネー夫人の目に、今度ははっきりとした敵意が浮かぶ。


「分かっていながら私たちはおかしくなったフリをして、九頭団の目を欺いていたのです。全ては復讐のため。彼らは死者を冒涜したのです。私の息子の亡骸を野望のために弄んだ……」


「我々が探していたのは息子を蘇らせる方法ではなく、九頭団を止める方法だったのですよ」


 怒りをあらわにする妻に対し、レルネー氏はとても悲しそうな目をしていた。


「そうだったんですか……」


 意外な真実を知ってしまい、私は神妙な顔になる。アルファルドが二人はおかしくなってしまったと思い込んでいたくらいだし、きっと九頭団も夫妻の目論見には気付いていないに違いなかった。


「でも、手遅れでしたね」


 私は辺りの惨状を見て暗い気持ちになる。


 私が会場へと戻ってきたときよりも、周囲はかなり荒れていた。ここでパーティーが行われていたなんて言っても、もう誰も信じないだろう。


 気絶しているのか死んでいるのかも分からない人たちが地面に転がり、あちこちから上がる悲鳴はますます大きくなっていく。


 アルファルドはまだ鎖に縛られたまま動けずにいたけど、それが解けたら敵味方の区別なく破壊活動にいそしむに違いなかった。


 九頭団は自分たちの兵器を一刻も早く解き放とうとして、邪魔をする魔王対策課の人たちや抵抗するプロムの参加者と呪いを掛け合っている。


「九頭団は魔王を復活させてしまいました。もうどうしようもないんです。彼らを止める方法なんて、何も……」


 私は顔をうつむけた。


 アルファルドを助ける。そのために時間を巻き戻した。


 それなのに私は、目的を達成できなかったんだ。


 アルファルドは私の目の前で魔王になった。もう元に戻ることはない。そして、悲劇は繰り返される。彼は大量殺戮を起こす化け物になってしまうんだ。


 今はまだ鎖に縛られた状態だけど、それが解かれたら瞬く間に卒業式と同じ光景が広がるに違いなかった。


 なのに、私はただそれを見ていることしかできないんだ。

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