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プロムナードでの惨劇(2/3)

「ほら、四人とも早く逃げろ!」


 ニケ副学級長が私に箒を押しつけてくる。止める間もなく、彼女は姉と共に九頭団に向かっていった。


「あれって魔王!? アネゴ、早く避難しましょうよ!」

「そうっすよ! こんなところにいたら、巻き込まれて死んじゃいますよ!」

「ルイーゼちゃん!」


 三人とも不安げな顔で私を見ている。私の脳裏に卒業式でのことがフラッシュバックした。


 あのときも魔王から逃げる生徒たちは皆こんな顔をしていた。怯え、泣き喚き、震え、助けを求めようとする顔だ。そのときと同じ悲劇がまた起きてしまったんだと再認識したような気分になって、私は立ち尽くしてしまう。


 だけど、九頭団員が放った一筋の光線が頬をかすめたことで我に返る。私はニケ副学級長の箒をヨシュアに渡した。


「この箒じゃ四人は乗れないわ。せいぜい三人が限度よ。……デューとヨシュア、ミストをお願いね」


「お願いって……アネゴはどうするんすか!?」


「後で考えるわ! さあ、早く行って!」


 私は三人を無理に説き伏せ、校舎へ向かわせた。小さくなっていくその影を見ながら、私は会場を蹂躙し始めたアルファルドを見つめる。


――アネゴはどうするんすか!?


 デューの質問を思い返す。でも、どうすればいいのかなんて、私にも分からなかった。


 照魔の水薬は結局完成しなかった。アルファルドの変身を解く他の方法も見つかっていない。


 八方塞がりな今の私にできることって、一体何なのかしら?


 だけどその答えが出ないままに、さらに状況は悪化していく。


「魔王め! 我々が相手だ!」


 会場へと、またしても厄介な者たちが乱入してきた。見たことのない人たち……と思ったけど、彼らが「我らこそ、魔王対策課なり!」と名乗りを上げているのを聞いてしまって、目を丸くする。


 何でこんなところにいるの? もうこの学園から手を引いたはずだって、アルファルドは言ってたのに……。


 魔王対策課の人たちは九頭団員と戦闘を始めた。その戦いは熾烈なもので、逃げ遅れたプロムの参列者たちの命の危険がどんどん増していく。


 アルファルドも彼らに無慈悲な攻撃を浴びせて、会場はもはや悲鳴と怒号が響く戦場のようになっていた。


「爆破!」


 私の頭上にもどこかから弾き飛ばされてきたテーブルが降ってきて、慌てて魔法で身を守る。


 頭の上に手をかざして飛び散る木の破片を避けながら、私は安全そうなところへ一時的に身を隠すことにした。


 魔王対策課の人たちは、九頭団だけではなくアルファルドにも攻撃を開始した。でも、全然効いてない……。


「ギャアアアッ!」


 ……いや、そんなことはない。術をかけられたアルファルドは苦しんでいるように見えた。 


 記憶と違う事態に私は困惑する。卒業式での彼は、私の魔法を涼しい顔で受け止めていたのに。なのに今は、あっさりと鎖でグルグル巻きにされてしまっている。


 ふと、近くから切羽詰まったような声が聞こえてきた。


「ああ、遅かったわ。アルファルド……」


 思わず視線をやると、私が隠れている物陰の傍に一組の中年の男女が立っていた。彼らは魔王を見つめている。


「あの、すみません!」


 私は思わず二人の前に飛び出した。二人ともそんなに特徴のある顔立ちじゃないけど、優しそうな雰囲気の人だ。


「今、アルファルドって言いましたか!?」

「君は……ルイーゼ・カルキノスさんかい!?」


 男性が緑の瞳を見開いた。だけど、驚いたのは私の方だ。この人、どうして私の名前を知ってるんだろう。初対面のはずなのに……。


「あの子が送ってきてくれた手紙に、君のことが書いてあったんだ。それに、念写も入っていたからね」


 私の疑問に、男性が先回りして答える。


「ほら、セミ・プロムのときに撮ったでしょう?」


 女性が付け加える。


 念写? 確かにセミ・プロムでアルファルドと踊っているところを撮ってもらったけど……。私はそのときの念写を人に送ったりはしていない。って言うことは、アルファルドが……?


「私たちはサムソン・レルネーの両親です」


 疑問が顔に出たのか、女性が教えてくれる。まさかの発言に、私は呆然となった。


「サムソンの……?」


 私は二人の顔を穴の空くほど見つめる。言われてみれば、彼と似ているような気もした。

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