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二度目の魔法学園での生活で、元魔王の大切な人と相思相愛になりました  作者: 三羽高明
3章 二度目の魔法学園生活に、忍び寄る九つの頭

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プロムナードでの惨劇(1/3)

 アルファルドの姿が、私の目の前でゆっくりと変化していく。


 体が膨れ上がり、小山のような大きさになる。全身は分厚い黒の毛皮で覆われ、それが辺りに設置された照明の光を受けてぬらりと光っていた。


 肩から足が生え、四足歩行するその姿は、この世のどんな生物よりもおぞましかった。そして、長い八つの首と、その先についている顔。アルファルドのものともサムソンのものとも違う奇妙なその顔が、じっと私を見下ろしていた。


「ギャアァ!」


 不快な声を上げ、魔王はこちらに向けて足を振り下ろそうとした。私を踏み潰そうと考えたんだろう。


 私は動けなかった。


 卒業式で見た光景がまた私の目の前で繰り返されてしまった。アルファルドを助けたかったのに、彼を化け物にしてしまった。


 そんな絶望が重い鉄球のように私の体を地面に縛り付けていた。こんな気持ちを抱えて生きるくらいなら、このまま彼に殺された方がよほどマシだと思ってしまう。


「ルイーゼ!」


 私の体は宙を舞っていた。でも、アルファルドに吹き飛ばされたんじゃない。破滅願望をかき消すような大声に驚いて見てみれば、私を小脇に抱えたニケ副学級長が箒の上で体勢を立て直すところだった。


「おい、何なんだよ、あれ!?」


 私を自分の前に座らせ、アルファルドの攻撃が届かないところまで上昇しながら、ニケ副学級長が引きつった声を出す。


「まさか魔王か!? でも、百年前に死んだはずだろ!? 何でこんなところに……」


 私は答えられない。アルファルドが魔王になってしまったなんて言いたくなかった。私自身、まだこれが現実だと思いたくなかったから。拾ったアルファルドの杖を握りしめながら、夢なら早く覚めて欲しいと願わずにはいられない。


「ああ、まったく、会場はめちゃくちゃになるわ、魔王は出るわ……一体どうなってんだよ!」


 ニケ副学級長が悔しそうに髪を掻き上げる。私は思わず「会場がめちゃくちゃ?」と聞き返した。


「そうだよ、変な奴らが襲撃してきたんだよ!」


 アルファルドがまさにその会場の方へ向かって走り出した。ニケ副学級長は「クソッ!」と握りこぶしを作る。先回りをするように箒の速度を上げた。


 まもなく、プロムの会場が見えてくる。そこに広がっていた光景に、私は息を呑んだ。


「恐れろ! 今日は魔王が再びこの地に降り立つ日だ!」

「泣こうが喚こうが、もう遅いのだ! せいぜい苦しむがいい!」


 天幕が引き倒され、椅子がひっくり返り、ダンスホールの床に大穴が開いた会場は、先ほどまでの華やかで楽しげな空気が嘘のようだった。


 そんな荒れ放題になった場所で、杖を片手に辺り構わず呪いをかけている者たちがいた。プロムの参加者は何が起きているのか分からないまま、悲鳴を上げて逃げ惑っている。それに混じって、先生たちが「校舎へ早く避難を!」と叫んでいた。


 その必死さをあざ笑うように、襲撃者たちは甲高い声を出す。


「思い知ったか! 我ら九頭団の力を!」

「九頭団!?」


 ニケ副学級長が素っ頓狂な声を出す。


「九頭団って、そんなの、とっくの昔に解散した組織だろ!?」


 ニケ副学級長は混乱しているみたいだった。


 私もまさかの事態に困惑していた。私の記憶が正しければ、卒業式で魔王が復活したときには、九頭団が会場で暴れ回ったりしていなかったのに。それなのにどうして、今回はわざわざ彼らが表に出てきたんだろう。


 答えを求めるように、私は視線を地上にさまよわせる。その目が、見慣れたクリーム色の髪の女子生徒を捉えた。ミストが九頭団員に追われている。そう気が付いた瞬間に、ミストは落ちていた天幕の支柱に足を取られ、転んだ。


 団員はそんなミストに向けて呪いをかけようとした。私はとっさに杖を取り出す。


「反射!」


 だけど私が魔法をかけるよりも早く三方向から呪文を唱える声が響き、団員の体が吹き飛んだ。


 術を放ったのはデューとヨシュア、それにフューケ学級長だった。


「姉ちゃん!」


 ニケ副学級長が箒から降りて、三人に駆け寄る。フューケ学級長はべそをかいているミストを抱き起こしながら、デューとヨシュア、それに私に向かって「背中合わせで周囲の警戒を」と命令を下した。


「姉ちゃん、これ、どうなってんの!?」

「分からない。とにかく、先生たちが言っていたように早く校舎へ……」

「うわ! 来たっ!」


 震える手で杖を握るデューが、こっちへ向かってくる九頭団員を発見した。ヨシュアが障壁を張って、飛んでくる呪いから皆を守る。


「上手いじゃないか。……陥没せよ!」


 フューケ学級長が九頭団員の足元に魔法をかけ、地面をへこませた。彼らはバランスを崩して無様にひっくり返る。


「早いとこ逃げようぜ」


 ニケ副学級長が焦ったような声を出す。


「舎弟コンビとミストとルイーゼ、この箒を使いな。あたしと姉ちゃんはここに残って、全員の避難が完了するまであの九頭団のバカ共を……」


 おぞましい鳴き声が聞こえてきて、ニケ副学級長が言葉を切る。庭木で作られた散歩道から、真っ黒な巨体がぬっと姿を現わした。


 魔王と化したアルファルドの姿を見て、九頭団から逃げ回っていた参加者たちの間からいくつもの鋭い悲鳴が上がる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一度目では卒業式を狙ったように、二度目ではパーティーを狙って魔王の惨劇を……というのはわかるけど、確かになんで今回はこいつらも出てきたんだろう? 下手すると自分も魔王に攻撃されるから出てきた…
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