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とてつもなく偉大なことだ!(4/4)

「さあ、帰りましょう? 今後のことについて考えないと。九頭団が計画を早める気なら、こっちもそれ相応の迎え撃つ準備を……」


「もう考えてあるよ」


 アルファルドは自分の肩から私の手を引き剥がして、静かに言った。


「九頭団は私が潰す。私が、この手で」

「アルファルド……?」


 殺気のこもった顔に、私は鳥肌を立てる。こんな表情のアルファルドは初めて見た。


「潰すってどうやって?」

「私が九頭団の本部に乗り込んで行くんだよ。それで彼らを……」


 いつもは澄んだ色をしているアルファルドの目が、急に黒く濁ってしまったように見えた。私はアルファルドが彼らを血祭りに上げようとしているんだと察してしまって、思わず「ダメ!」と叫ぶ。


「危ないわ、そんなの! よくは知らないけど、九頭団のメンバーってきっとたくさんいるんでしょう!? そんなところへ一人で行くなんて……! 確かにアルファルドは強いけど、逆にやられちゃうわ!」


 必死でアルファルドの考えを変えようとしたけど、彼の表情は硬いままだ。私は絶望的な気分になった。


 誰よりも優しくて繊細な心の持ち主のアルファルドがそんなおぞましい決断をしないといけないなんて、異常事態だ。皆殺しなんて、まさに『魔王』のすることなのに。


 何とかしないといけない。そうじゃないと、たとえ九頭団を葬り去ることができたって、アルファルドの心に深い傷が残ることになってしまう。


「……じゃあ、私も連れて行って」


 他に方法が思い付かなくて、私は頭を抱えながらそんな提案をした。


「私も一緒に行くわ。あなたと一緒に九頭団を……」

「……断る」


 アルファルドが首を振った。


「君なら多分そう言うと思ったけど……でも、ダメなんだよ、ルイーゼ。彼らにとって私は大事な兵器だ。だから多少痛い目に遭うことはあっても、殺されたりはしない。だけど、君はそうじゃないだろう。彼らはこの機会に君を亡き者にしようとするに決まってる」


 アルファルドは固く目を瞑った。


「本当は、前から分かっていたんだ。九頭団を止めるには、その構成員たちを殺してしまうのが手っ取り早いって。でも、私にはそれができなかった。私は……臆病だから」


「違うわ! そういうのは臆病って言わないわ!」


「……いいや、臆病なんだよ」


 アルファルドの顔が歪む。


「でも、今回のことでそれじゃいけないって分かったんだ。君がどこかへ連れて行かれそうになったとき、心臓が止まりそうになった。君がいなくなってしまうなんて、自分が魔王になってしまうのと同じくらい、私にとっては避けたい事態なんだよ。だから、九頭団を止めないと」


 アルファルドは私を見て悲しそうに笑った。


「ごめんね、ルイーゼ。君の命を九頭団が狙ってるってもっと早く伝えられなくて。言ったら、後戻りができなくなると思ったんだ。もう九頭団を滅ぼす以外の選択肢は選べなくなる、って。……ほら、私って意気地なしだろう?」


 そんな弱気な発言をしながらも、アルファルドの目には強く暗い決意の光が宿っている。


 アルファルドを止めるのは無理だ。


 私はそう直感した。


 アルファルドはもう決めてしまっている。九頭団と戦うことを。戦って、彼らの存在を消し去ることを。自分自身と私のために。


 かつてのアルファルドなら、きっとそんな決断はしなかった。頭で思い描いても、行動には移さなかっただろう。だからこそ、卒業式で魔王が復活してしまったんだ。


 でも、アルファルドは変わった。……ううん。私が彼を変えてしまったんだ。


 その手を血で汚すことに、彼はもう躊躇わない。私が彼にそんな選択をさせてしまったんだ。


「……じゃあ、せめて学期末のプロムまで待って」


 私は辛うじてそれだけ言った。


 優しいアルファルドが好きだった。思いやりに溢れていて、私が無茶をすると本気で叱ってくれるアルファルドが。


 でも、そんなアルファルドはもういないのかもしれない。私は今、初めて魔王ではなく『アルファルド』が怖いと思った。彼ならあの恐ろしい化け物になってしまうのも納得できる、と。


「……分かったよ。プロム、一緒に出よう」


 返ってきたそんな言葉だけが、怯える私の心を慰めてくれる。


 でも、とてもじゃないけど、アルファルドの顔を見る勇気はなかった。

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