とてつもなく偉大なことだ!(3/4)
「行こう、ルイーゼ」
だけど、アルファルドは全然違うことを考えていたらしい。私の肩を抱いて、その場を後にしようとする。
「ちょっと、アルファルド!」
「……ダメだよ」
アルファルドは首を振った。多分、私が何を考えているのかは彼にも分かったんだろう。
「彼らは君の抹殺も選択肢に入れているような人たちなんだよ。近づいたらダメだ」
「でも……!」
「待ちたまえ」
課長さんが私たちの行く手を阻んだ。
「君たちに選ぶ権利はないのだよ! さあ、我々に身を委ねるのだ!」
「お断りする」
アルファルドは眉根を寄せた。
「ルイーゼは渡さないし、私も君たちに協力はしない」
言うなりアルファルドは杖を振って、課長さんを失神させてしまった。
そのあまりの早業に、彼の部下たちがざわめく。彼らが動揺している隙に、アルファルドは私を連れて部屋を出た。
「ちょっと、アルファルド! 何でこんな強引なことするの! あの人たちと協力できたらきっと……」
「……協力者なんていらないよ。説得に失敗したら君は殺されるかもしれないんだぞ。それにこれは私の問題なんだから、自分の手で片を……」
言いかけてアルファルドは口を閉ざした。廊下の隅に一人の少年が立っている。
「不審者事件は解決したみたいですね」
ノイルートだった。アルファルドが彼を睨みつける。
「私たちをつけていたのか?」
「そうとも言えますし、違うとも言えます」
ノイルートは平然とした顔だ。
「昼間、僕はカルキノスさんから興味深いお話を聞いたんですよ。『アルファルド』について知りたがっている人がいるようだ、と。こんな情報、九頭団員としては見逃すわけにはいかないでしょう? だから少し探りを入れていたんです。そうしたらコウモリ寮の地下で何か起こっているようだと判明したので、来てみました」
私は九頭団のメンバーに『アルファルドもどき出現事件』についてペラペラと喋ってしまった自分の迂闊さを呪いたくなった。
今回のこと、九頭団はどう受け止めるんだろうとハラハラしながらノイルートの次の言葉を待つ。
「おかげで大変なことが分かりましたよ。どうやら僕たちの邪魔をする組織が存在するようですね。魔王対策課なんて皆から軽んじられているような職種ですが、それでも見逃しておけば後々後悔することになるかもしれません」
「……彼らをどうにかしようと?」
アルファルドが静かな声で尋ねる。ノイルートは「それを決めるのは僕ではありません」と言った。
「ですが、彼らの存在が僕たちの計画に影響を与える可能性は否定できませんね。もしかしたら、さらに時期が早くなるかもしれません。あなたが魔王になる時期が」
ノイルートはアルファルドに一瞥をくれた後、今度は私を見た。
「あなた、やっぱり困った人ですね。ちょこまかと動いて、遂にはあんな人たちまで引き寄せてしまって……。早いところいなくなってくれないと、ろくなことにならないかもしれません」
ノイルートは行ってしまった。私はしかめ面になる。
「九頭団やら魔王対策課やら、皆、そんなに私の命が欲しいのね。まるでお尋ね者だわ」
私はアルファルドの方に視線をやる。彼の顔色が悪いことに気が付いて、慰めるようにその肩に手を置いた。
「大丈夫よ。私はあんな奴らなんかに殺されたりしないわ」
確かに初めは自分の命の危機という状況を聞いて焦ってしまったけど、その動揺はもうすっかり収まっている。
だって、思い返してみれば私の二度目の学園生活は、命の危機の連続だったから。そもそも『時間を巻き戻して魔王を倒す』っていう最初の目的自体、かなり命がけな行為だ。
それなのに今さら恐怖するなんておかしいじゃないと、少し達観してしまっているようなところさえもあった。