とてつもなく偉大なことだ!(1/4)
「失礼するわ!」
私とアルファルドは地下階へと乗り込む。管理部門の中でも、構内清掃担当のゴーレムを扱う部門へと直行した。
「あっ……」
デスクワークをしていた職員さんたちが、何の騒ぎだろうという目でこっちを見ている。その中の一人に目をとめたアルファルドが、小さな声を出した。
「彼、知ってる」
アルファルドが指差したのは、奥の方にいる背の高い男性だった。
「コウモリ寮の前で、花冠の生徒と一緒にいたんだ。確か『ぱーくん』って呼ばれてたと思うけど」
「あら、探すまでもなかったわね」
私は彼の方へズカズカと歩み寄った。男性はぎょっとしたような顔になっている。名札に目をやると『パーカー』と書いてあった。なるほど、だから『ぱーくん』なのね。
「パーカーさん、お話が」
私は男性を睨んだ。
「あなた、外部者に協力するために、コウモリ寮で何かしていたでしょう」
その言葉を聞いた途端に、パーカーさんは勢いよく立ち上がってドアを目指して突進した。突き飛ばされた私はよろける。アルファルドが杖を振り、先手を打ってドアを閉めた。
だけど、パーカーさんは強引だった。魔法でドアに穴を開け、そこから外に出てしまったんだ。他の職員さんたちが口を開けてそれを見ていた。
私は杖を構えて彼を追う。
パーカーさんは手近な一室に入るところだった。中から重いものを引きずるような音がする。きっと、バリケードでも作ってるんだろう。ドア越しだからくぐもっていてよく聞こえないけど、「皆、逃げて!」という声がした。
「ドアから離れて!」
アルファルドが大声を出す。それと同時に、私は魔法で扉を吹き飛ばした。
私とアルファルドは室内へと乗り込む。どうやら空き部屋だったらしく、そこには何人もの人がいた。皆私を誘拐しようとしたコウモリの学級生たちだ。
いや、正確にはコウモリの学級生の姿を借りた『誰か』なんだろうけど。もちろん、さっきまで私に捕まっていた『私』も隅の方に座っていた。
室内で誰かに変身していないのは、パーカーさんだけみたい。彼は私が壊したドアの下敷きになって気絶していた。
「こんなところに隠れてたのね!」
唯一の出入り口であるドアの前に立って、私は呆然としている彼らを見渡した。
「もう逃がさないわ! あなたたちが何者なのか白状するまで解放しないわよ!」
「まあ落ち着きたまえ」
『もどき』たちの中から、コウモリの学級長の姿を借りた人が前に出た。
「我々は平和的な目的でやむを得ず学園に侵入したのだ。決して怪しい者ではない」
「平和的な目的? 怪しい者じゃない?」
私は眉をつり上げる。
「私のことを誘拐しようとしたくせに、よくそんなことが言えるわね」
「あれは仕方なかったのだ。背に腹は代えられないからな」
学級長もどきは平然と言ってのけた。
「我々には、どうしても成し遂げなければならないことがあるのだ。そう、魔王についての真実を解き明かし、そしてあの化け物を討伐するという使命が……」
まさかの言葉に私は目を丸くした。『もどき』の一人が学級長に変身した人に向かって、「課長!」と叱責の声を飛ばす。
「……あなたたち、何者なの?」
課長って言うからには、どこかの会社の社員とかなのかもしれない。私の質問に、課長さんはよくぞ聞いてくれた! とばかりに目を輝かせた。
「我らは栄えある中央政府に勤めている者である! 治安維持省の魔王対策課の職員だ! 君らには分からんだろうが、知る人ぞ知る精鋭ばかりが集まるところで……」
「……いや、知ってるけど。左遷された人とかが行くところでしょう?」
つまり窓際部署だ。私も官庁勤めの両親から聞いただけだから詳しいことはよく分からないけど、胸を張って『ここに所属しています!』って言えるような職場じゃないことだけは確かだった。
「そ、それは、我々の素晴らしき才能を理解できなかった節穴どもが広めた悪評だ!」
私の指摘に、課長さんは目に見えて狼狽えた。アルファルドは「そんなところがあるんだね」と感心したような顔になる。
「だが、我々を見くびっていた者たちも、すぐにその考えを改め、己の見る目のなさを恥じ入ることになるだろう。何故ならば、我々はこれから、とてつもなく偉大なことをするのだから! そう、魔王復活を企む組織――九頭団が現在も地下で活動を続けていると証明することによって! そして、その野望を挫くことによって!」
私とアルファルドは思わず顔を見合わせた。
すでに滅んだとされている魔王。そんな魔王を現代に蘇らせるための組織の存在を信じる人たちがいるなんて、思ってもみなかったことだ。