ニセモノだらけ(3/4)
「ありがとう!」
私は杖を出し、「拿捕せよ!」と叫んだ。飛び出してきた見えない壁にぶつかったのは『私』だ。彼女に向かって、私は飛びかかる。
「逃がさないわよ!」
多分人数が多すぎて、全員の確保は無理だろう。それでも、せめて一人だけでも捕まえたかった。
私と『私』は床の上で取っ組み合いになる。でも、中々決着がつかない。まあ、当たり前だろう。力も体力も同じ二人なんだから。
「ルイーゼ!」
アルファルドが杖を振った。私と『私』は、無理やり引き剥がされる。二人とも顔が上気していて、髪もローブも乱れまくっていた。
「……えっと……どっちが本物?」
同じ顔の『ルイーゼ』を見て、アルファルドは困ってしまったみたいだ。私はすかさず名乗りを上げる。
「私よ! 私がルイーゼよ!」
「ち、違うよ!」
もう一人の『私』も懸命に主張した。
「わ……わたし、ルイーゼ・カルキノスだよ! ほ、本物だよ~!」
どうやら『アルファルドもどき』の演技で失敗した反省を生かして、ちょっとは『ルイーゼ』らしく振る舞おうとしているらしい。
でも、やっぱりニセモノっぽいっていうか……。あんまり私らしくないわ。これなら、アルファルドだってすぐに……。
「困ったな……」
でも、私の予想を裏切って、アルファルドは真剣に悩み始めた。あまりのことに、私は愕然となる。
『私』はその反応に付け入る隙を見出したのか、素早くアルファルドにすり寄って、彼の腕を自分の腕に絡めて胸元に引き寄せ、頬ずりを始めた。
「わたし、ルイーゼだよ! アルファルド好き好き!」
きゃああっ! 私と同じ体で何てことしてくれるの! って言うか私、端からはこんなふうに見えてるわけ!?
「う、うーん……」
アルファルドもそこまで嫌そうな顔じゃないし! このままじゃ、私がニセモノって思われちゃうわ!
「私よ! 私が本物よ!」
私も負けじとアルファルドのもう片方の腕を取った。私たちはそれぞれアルファルドを自分の側に引き寄せようとしながら睨み合う。
「ニセモノ! アルファルドを離しなさい!」
「そっちこそニセモノじゃない!」
『ルイーゼ』に左右から叫ばれて、アルファルドは目を白黒させていた。
「アルファルド! 質問よ! 何か私たちしか知らないことを質問して!」
埒が明かなくなって、私は事態の解決をアルファルドに促す。「いきなりそんなこと言われても……」とアルファルドは困ったような声を出した。
「えっと……じゃあ、ルイーゼが私に一番初めにかけようとした魔法は?」
「氷柱の魔法!」
『ルイーゼ』の声が重なる。アルファルドはびっくりしたような顔になった。
「……二人ともルイーゼなのか?」
「そんなわけないでしょう! 別の質問をして!」
「ええと……私がセミ・プロムで君に告白したとき、何て言った?」
えっ、それ答えるの!? もちろんちゃんと覚えてるけど、恥ずかしすぎるわ!
私たち二人は黙り込む。アルファルドは急に不審そうな顔になった。
「もしかして、二人ともニセモノ……?」
「ち、違うわ! ……『私も君が好きなんだよ』って言ってたわね、アルファルド!」
羞恥をかなぐり捨てて、私は叫ぶ。そして杖を『私』に向けた。
「縛り上げろ!」
縄が飛び出し、『私』の体をミノムシみたいにしてしまう。ちょっとやり過ぎのような気もしたけど、恥ずかしいことを聞かれた腹いせだ。
「アルファルド~。本物だよ、わたし~」
それでもまだ『私』は懲りてない。だけど私は冷酷な顔になって、『私』に杖先を向けた。
「その白々しい演技、やめてちょうだい。それとも、体のどこかに一発魔法を放たれないと分からないの?」
「ひぃっ」
『私』は真っ青になった。アルファルドが私をいさめる。
「ルイーゼ、可愛そうじゃないか。縄を解いてあげよう?」
「私と同じ顔してるからって、甘いこと言わないで!」
私は腰に手を当てた。そして『私』を睨む。
「ほら、あなたも私の顔でそんな間の抜けた表情しないでちょうだい! 大人しくしてたら、痛い目には遭わせないわよ。まず、あなたが一体どこの誰なのか話してくれる? 名前と、後は……」
言いかけてハッとなる。
確か『課長』って人がこの人の名前、呼んでいたはずだ。
あのときはそれどころじゃなかったから聞き流しちゃってたけど、確か……。
「……モンテスパン」
私は呟く。そして、もう何ヶ月も前にされた取材のことが脳裏に蘇ってきた。
「あなた、新聞部のモンテスパン部長なの!?」
私は目を丸くした。そして、彼女が取材中もアルファルドに興味津々だったことを思い出す。
「ま、まさかそこまでしてアルファルドのことを知りたかったんですか!? でも、それならあの人たちは……」
「……彼女は俺の妹だよ」
『私』は観念したように呟いた。妹? そう言えばモンテスパン部長、官庁勤めの兄がいるとか何とか言ってたっけ。
「……で、モンテスパンさん。あなたは何でここに……」
ふと、足に何かが当たる感触がした。視線を向ける。その瞬間に、辺りが白い霧で覆われた。
「煙玉!? ……吹き飛べ!」
私は魔法で風を起こす。だけど、視界が良好になる頃にはモンテスパンさんは姿を消していた。