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ニセモノだらけ(2/4)

「九頭団の野望を止める方法は……もうないの?」


 私は呼吸を荒げながら自分の体を強く抱きしめた。こうしないと、今にもこの場で崩れ落ちてしまいそうになる。


「あいつらを止める方法は……」

「……ないわけじゃないよ」


 絶望していた私は、アルファルドの言葉に我に返る。彼はまだ暗い顔のままだったけど、はっきりと希望のある台詞を口にした。


「まだ手は残されてる」

「それ、何!?」


 私はアルファルドがもたらした奇跡のような報告に飛びついた。彼の腕を握って揺さぶる。


「教えて! 一緒にそれを実行に移しましょう!」

「……無理だ」


 だけどアルファルドは私の手を引き剥がし、ぎこちない動作で後ろを向いた。


「こんなこと、私には……。それに、君を巻き込むのだって……」


 アルファルドはそのまま去ろうとする。私はとっさに彼を追いかけた。けれどアルファルドの魔法によって、縄でグルグル巻きにされてしまう。


「アルファルド!」


 私はバランスを崩して床に倒れた。アルファルドは申し訳なさそうな顔になる。


「ごめんね、ルイーゼ」


 アルファルドは今度こそ本当に踵を返し、廊下の向こうへと消えていった。暗に一人にしてくれって言ってるんだろう。


 でも、私は納得できない。


「一人でいるの、辛かったんじゃなかったの!?」


 私は縄を解こうと懸命にもがきながら、大声を出す。聞こえないと分かっていても、何か言ってやらないと気が済まなかった。


「私と一緒に学園生活を送れて楽しいって、アルファルド、言ってたじゃない! だったら最後までずっと一緒にいましょうよ! また一人になろうとしないで! 私はずっとあなたの傍にいるから……!」


 しんと静まり返った廊下に私の声が反響する。それを聞いているうちに無性に悲しくなって、私は顔をうつむけた。


「アルファルド……。私を一人にしないでよ……」


 見捨てられたわけじゃない。彼はきっと、考えあって私の手伝いを拒否したんだ。


 そう理解しているのに、虚しくてたまらない。アルファルドにとって私はしょせん、その程度の存在だったんだろうか。頼りにならないって思ってる? 一緒に九頭団に立ち向かう相手として力不足だって?


 もう暴れる気力すら残っていなくて、私はその場に力なくうずくまった。


 これじゃあ、何のために時間を巻き戻ってきたのか分からない。アルファルドを助けたいのに何もできない。私は二度目の学園生活でも、また彼が魔王になって皆を殺してしまう光景を見ないといけないんだろうか。


 そんなこと、絶対にあってはいけないのに。皆のためにも、アルファルドのためにも。


 そのとき、音が聞こえてくるのに気が付いて、私は反射的に顔を上げる。


「アルファルド!? 戻ってきてくれたの!?」


 私は顔を輝かせた。だけどそこに立っていた人が誰か分かって、目を見開く。


「ミスト……?」


 何でこんなところにいるの? と私は呆然となった。だって彼女、帰省中なのに。


 でも、その疑問に答えを出す前に、またしてもおかしなことが起きる。私の前に次々と人が現われたんだ。皆コウモリの学級の生徒たちだった。十人以上はいるだろうか。


 彼らを見て、ますます私は混乱する。


「皆……何で学校にいるの?」


 ミストだけじゃなくて、皆実家に帰っているはず。こんなところにいるわけない。


 困惑していた私は、その集団の中にある人物を見つけて、今度は硬直した。


 私だ。


 明るい金髪も、水色の目も、顔かたちも、私とそっくりな人。何が起きているのか分からず、私は思考が停止した。


 ……私、もしかして変になっちゃったのかしら?


 私は真っ先に自分の正気を疑った。こんな訳の分からない現象に巻き込まれるなんて、正気の沙汰とは思えなかったからだ。


 だけど、彼らの声が私を現実に引き戻す。


「課長、どうしましょう。何かもうグルグル巻きですよ」

「手間が省けていいじゃないか。よし、連れて行くぞ。モンテスパン、足を持て」

「はぁい」


 皆が私の体を持ち上げる。何が起きているのか分からなかったけど、このままだと大変なことになってしまうということだけは理解できて、私は全力で暴れた。


「離して! 何するのよ! どこへ連れて行く気!?」

「静かにしててよぉ!」


 私の足を持っている『私』が迷惑そうにした。すでに私の中からは、彼らが幻覚であるという疑惑は消えている。それに、この間延びした話し方には覚えがあった。


「あなた、昼間の『アルファルド』ね!? 私をどうするつもりなの!?」


 身をよじりながら、私はローブの中の杖を取り出そうとする。それに気が付いたミストが「マズイですぜ」と、普段の彼女からは考えられないような野蛮な口調で注意を促した。


「こいつ、魔法を使う気でさぁ! 杖を取り上げちまいましょうよ!」


 ミストもどきの手が私のローブの中に伸びてきた。私は鳥肌を立てながら甲高い悲鳴を上げる。


「ルイーゼ!」


 後方から声がした。アルファルドだ! 多分、本物の!


「け、計画変更!」


 コウモリの学級生もどきたちは大声を上げると、私を放り出して四散した。アルファルドが杖を出し、魔法をかける。私の縄が解けて、自由になった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アルファルドー!!!! 戻ってきてくれてよかったー!!!! (ただし縄でぐるぐる巻きにした本人) [一言] 何事だ!? ホラージャンルになったのかと思った((((;゜Д゜)))
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