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ニセモノだらけ(1/4)

 アルファルドもどきに変身した犯人捜しも照魔の水薬作成も上手くいっていない私は、その日の夜、気落ちしながら食堂へ向かった。


 そこで偶然アルファルドと鉢合わせる。人気のない食堂の片隅で、彼はカボチャスープを前にぼうっと座っていた。一応スプーンをお皿の中に入れてはいるけど、全然食欲がなさそうな顔だ。


「……アルファルド?」


 昼間ニセモノと会った影響をまだ引きずっていた私は、警戒しながら彼の目の前に座る。私の姿を見た途端に、アルファルドはぎょっとしたような顔になって席を立った。


 ……何? もしかして、また『もどき』なわけ!? そう思った瞬間にさっきまでの暗い気持ちが消え去り、代わりに闘志がみなぎってくるのを感じる。


 私は食堂の出口にいるアルファルドもどきの背中に向けて魔法を放った。


「吹き飛ばせ!」


 だけど術が直撃する瞬間にアルファルドもどきは身を反転させ、巨大な障壁を張って身を守る。そして、信じられないような顔になった。


「ルイーゼ……何で私を攻撃するんだ?」


「あれ、本物……? ……この間の黄金杯争奪戦のときに、あなたが初めて見つけた杯はどこにあった?」


「どこって……大広間のシャンデリアだろう? どうしてそんなことを聞くんだい?」


 アルファルドは困惑しているみたいだった。私は杖を下ろし、ローブの中にしまった。彼は本物のアルファルドだ。


「ごめんなさい。人違いだわ」


 私は湖で起きたことを話した。アルファルドは目を丸くする。


「ルイーゼ……大丈夫だったのか!?」


 アルファルドは青ざめながら尋ねてくる。


「そんな……まさか……九頭団が……」

「違うわ」


 どうやらアルファルドも私と同じ勘違いをしているらしい。私は首を振って、その思い違いを正そうとした。


「あのね、ノイルートに会って話を聞いたの。そしたら彼……」

「ノイルートと会っただって!?」


 アルファルドは飛び上がりそうなくらい驚いた。


「ダメだよ、ルイーゼ! どうして君はそんなに危ないことをするんだ!」


「どうしてって言われても……それに、そんなに危ないかしら? 確かに彼は九頭団の……」


「奴らは君の命を狙ってるんだよ! だから……!」


 アルファルドはハッとなって口を閉ざした。明らかに言ってはいけないことを話してしまった顔だ。


 一方の私は、氷を背筋に押し当てられたような気分になる。


「……アルファルド、今何て言ったの?」

「……」

「九頭団が私の命を狙ってるってどういうこと!?」


 思ってもみなかった言葉に、私は動揺する。思わずアルファルドの肩を掴むと、彼は諦めたようにそっぽを向きながら「そのままの意味だよ」と言った。


「九頭団は君が魔王復活を阻止しようとしているのを知ってる。邪魔なんだよ、君のことが」


「だから私の存在を葬り去ろうって?」


 私は額に手を当てた。


「どうして言ってくれなかったの」

「それは……ごめん……」


 アルファルドは何かを言いかけて黙り込む。多分悪意があって秘密にしていたわけじゃないんだろうけど、ちょっと失望を覚えずにはいられない。


「言っても無駄だって思ってたの? それで事態がどうなるわけでもないからって」


「それもあるけど……」


 アルファルドはいつになく煮え切らない態度だ。私は訳もなく腹立たしくなって、「最近あなたが引きこもってたのも、それと関係があったのかしら?」と尋ねた。声がとげとげしくなってしまうけれど、どうしようもない。


「人との接触を避けたって、九頭団が魔王復活を諦めるわけじゃないでしょう? だったら私と一緒にあなたの魔王化を止める方法を探す方がずっといいわ!」


「……照魔の水薬か?」


 アルファルドの緑の目に影が落ちる。


「ルイーゼ、もう諦めた方がいいよ。あれは幻の薬だ。その証拠に、今までの実験、一度も上手くいってないんだろう?」


「そ、そんなことないわ。後一歩で完成しそうよ」


 思わず嘘を吐いてしまったけど、アルファルドには私が虚勢を張っているのが見え見えらしい。その証拠に、彼の瞳は暗いままだ。


「私の魔王化を止めるのはもう不可能だ。ルイーゼ……九頭団は計画実行を早める気なんだよ」


「な、何ですって!?」


 衝撃的な言葉に、私は固まってしまった。


「それってつまり、もう時間的余裕がないってこと……!?」


 私はローブの胸元を強く握った。自分の命が危ないって言われたときよりも、よっぽどショックな事実だった。


「ああ、そんな……! どうしましょう!」


 かつて卒業式で見たものを思い出し、私は震え上がる。転がる死体の数々と、血まみれの大広間。


 その光景は私にとっては怒りを覚えるものであると同時に、恐怖の対象だった。頭の中に思い浮かべるだけで、体がこわばり冷静な判断ができなくなってしまう。

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