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こんなチャラい人、私、知らないわ!(3/3)

 寒さのせいでガタガタと震えながら、私は何とかコウモリ寮まで帰り着いた。お風呂に入って服を着替え、人心地つくと、やっと先ほどのことを冷静に見つめ直す余裕が出てくる。


 あれは一体誰だったんだろう?


 アルファルドじゃないことはもう分かっている。きっと誰かが彼に変身したんだ。魔法薬を飲んだりすれば、不可能なことじゃない。


 けれど、何の目的であんなことをしたのかしら? 他人に変身してまでアルファルドのことを知りたがっているというのが、妙に引っかかった。


 そんな手段に出そうなのは……。


「九頭団?」


 他に誰がいるっていうんだろう。私はセミ・プロムで見た九頭団のリーダー――ダグラス・レルネーの顔を思い出す。


 また彼が何か企んでいるんだ。そうに決まってる。


 怒りを覚えた私はコウモリ寮を出ると、校舎の地下へ向かった。


 学校の地下階は、基本的には管理部門のテリトリーだ。私はその中の、休暇中も学校に残る学生たちの生活をサポートしている部門へと足を踏み入れた。


「冬休み中も学園に残ってる生徒たちのリストを閲覧させてちょうだい」


 私は人のいない受付に向かってそう告げた。すると奥から返事がして、誰かがこっちへやって来る。その姿を見た途端に、私は口をポカンと開けてしまった。オスカーだ。


「あっ、カルキノスさん……」


 向こうも私を見て、ちょっとびっくりしたみたいだ。でもすぐに気を取り直したように、一枚の紙を私に差し出してくる。


「これ、休暇中に学園に残ってる生徒の名簿だよ」

「ありがとう」


 きっとオスカーがここにいるのは、学校からリンゴを盗んだことに対する罰則の最中だからだろう。


 私は礼を言って、彼の様子を横目で観察した。何だかオスカー、顔色が悪いわ。それに、ちょっと痩せたみたい。何かあったのかしら?


「あなた、帰省しなかったの?」


 私はリストに書いてある名前を上から順番に眺めながら、オスカーに話しかけた。オスカーは気まずそうに、「うん」と答える。


「ボクが学校の植物を盗んで売ってたって学園から家に連絡が行った後で……家族から『当分うちへ帰ってくるな』って言われたから……」


「そう……」


 どうやら私と似た状況らしい。オスカーがひどくしょげ返って見えるのも、そのせいかしら?


 ……あら? でもセミ・プロムのときは普通だったような……。


「ああっ! やっぱりそうだわ!」


 ちょっとだけオスカーのことが気になったけど、リストの中に気になる名前を見つけて、それどころじゃなくなってしまった。


「ヘルマン・ノイルート! やっぱりあいつもこの学園に残ってたのね!」


 この学園は外部からの侵入がほぼ不可能なくらい、周囲が厳重な結界で覆われていたはずだ。


 となると、外から不審者がやって来た可能性は低い。アルファルドに変身していたのは、この学園の関係者と見てまず間違いないだろう。


 そんなふうに憶測を立てていたから、リストにノイルートの名前を見つけた私は、勝ち誇った気分になっていた。さあ、早く彼を締め上げて、今度は何を企んでいるのか白状させないと!


「オスカー、ノイルートはどこにいるの!?」


 私は興奮しながら尋ねる。


「きっと彼も罰則の最中でしょう!? あなたなら彼の居場所を……」


 私は言葉を切る。だってオスカー、真っ青な顔になってたから。


「ヘ、ヘルマンくんなら、水蛇寮の窓拭きを……」


 オスカーの声が段々と尻すぼみになっていく。その目に涙が溜まり始めた。


「ど、どうしたの?」


 何か彼の心を傷つけるようなことを言ってしまったかしらと思いながら、私は焦った。


「私……何かしちゃったかしら?」

「ち、違……」


 オスカーは壊れた機械みたいに首をぶんぶんと振って、うなだれた。すり切れたローブの袖で、目元を乱暴に擦る。


「ただ、悲しいことを思い出しちゃって……。ヘ、ヘルマンくんが、ボクのことなんて、と、友だちじゃないって……」


 それ以上は口にするのが耐えられなくなったみたいで、オスカーは胸元を押さえて黙り込んでしまう。どうやら彼は、ノイルートの本心を知ってしまったらしい。


 その痛ましい姿を見ていられなくなって、私は彼の肩を軽く叩いた。


「それは……辛かったわね」


 端から見ていたらそんなこと丸わかりの事実だったけど、オスカーにとっては青天の霹靂へきれきだったらしい。その衝撃の大きさを受け止めきれず、彼は苦悩しているようだった。


 私はどう慰めようかと懸命に頭を回転させながら、とりあえずは当たり障りのない言葉をかけておくことにした。


「あんな嫌な奴のことなんか、もう忘れちゃいなさいよ! 新しい友だちを見つけましょう?」


「ヘルマンくんを忘れる……」


 オスカーは虚ろな声で呟いた。


「そんな……だって……ボクは、ボクは……!」


 オスカーはまたしても泣きそうな顔になると、身を翻し、受付の奥へと走り去ってしまった。


 いくら待っても戻ってくる気配はない。ちょっと気がかりに思ったけど、そっとしておく方がいいのかもと思って、その場を離れることにした。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] たぶんへルマンじゃないと思うナ☆ [一言] もしかして、意外とオスカーとルイーゼって相性悪くないのかも。 悪事を暴いてからは、互いに普通に話してるし。 もう友達になってるんじゃないのか…
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