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二度目の魔法学園での生活で、元魔王の大切な人と相思相愛になりました  作者: 三羽高明
1章 二度目の魔法学園生活は、魔王討伐と共に
8/110

いじめっ子は断罪されるべき(1/1)

「おい、見ろよ。あいつ、入学式のときの……」

「カルキノスだっけ? とんでもない一年が入学してきたもんだよ」


 基礎呪文学の教室から出た私の耳に、周りからのヒソヒソ声が聞こえてくる。


「コウモリの学級に逸材現る、って感じ?」

「さすが問題児組!」


 これ見よがしの悪口に私は唇を噛んだ。何か言い返してやろうかと思った途端に、またしても彼らは小バカにしたような声を上げる。


「レルネーまで来たじゃないか! あいつアレだろ、『魔王』!」


 続いて、ぷっと噴き出す声が聞こえてくる。明らかに彼の正体が魔王だなんて信じていないような口調だ。


 けれど、教科書片手にシナモンシュガーをたっぷりかけたチュロスを食べている魔王は、そんなのどこ吹く風といった顔をして彼らの脇を素通りした。


 そんな反応を見ていたら怒るのもバカらしくなって、私は彼らを睨むだけで許してあげることにする。


「もう学校中が私たちのことを知ってしまっているみたいだね」


 口の周りを茶色い粉で汚しながら、魔王がのんびりとそんな感想を漏らしている。気楽な奴、と私は舌打ちしたくなった。


 あれから何度も先生たちと交渉して、天馬の学級に移してもらおうとしたけど、そのお願いは聞き届けてもらえなかった。結果、私はこうして今も魔王と一緒に変人だらけのコウモリの学級に所属している。


 コウモリの学級は本当に最悪だった。寮内ではしょっちゅう爆発音や訳の分からない騒音が響いているし、この間なんて、談話室でくつろいでいたらいきなり壁が吹き飛ばされて、部屋がガレキだらけになってしまった。


 魔王やミストはそんな事件の数々に早くも順応してしまって、気にせずに日常生活を送ってるみたいだ。でも平和な天馬の学級に慣れている私には、とてもじゃないけど長くは耐えられそうもない環境だった。


 早くここから出て行きたいという思いは、日に日に強くなるばかりだ。


「大体あなた、何で私についてくるのよ!」


 八つ当たりのように、私の後ろを歩く魔王をなじる。


「私はいつかあなたを倒すつもりなのよ!? 自殺したいわけ!?」


「そんなことはないよ。私一人の命じゃないんだし。でも、まだその『倒す』ときは当分先かなと思って」


 訳の分からないセリフを交えながら呆気らかんとした調子で返されて、私はますます苛立ちを募らせる。


 あの入学式の決闘以来、私はことあるごとに魔王に挑んでは敗北していた。しかも、どの戦いも魔王が私を傷つけないように手加減した上での負けだった。


 悔しいやら腹立たしいやらで、私はここ最近、魔王の顔を見るだけでむしゃくしゃした気分にならずにはいられない。


 もっと悪いのは、そんな私の『魔王退治』が、いつの間にかコウモリの学級の名物になってしまっていることだ。


 私が魔王に勝負を挑む度、どこからともなく野次馬が現われる。そして、勝敗を予測したり、整理券を配ったり、『魔王退治弁当』なんかを売り歩いたりするんだ。


 見世物じゃないのよ! って怒鳴ったって、誰も聞く耳を持たない。


「おいおい、どうしてくれるんだぁ?」

「キミがぶつかって来たせいで、オイラの制服、汚れちゃったじゃないっすか」


 釈然としない思いで歩いていると、廊下の壁際から声がした。くたびれたローブを着た気の弱そうな男子生徒が、不良風の二人組に絡まれているところだ。


「あの二人……『大剣の学級』か」


 魔王も物騒な気配を察知したのか、不良コンビの様子を観察している。一人は鹿の角みたいに広がった髪型の小柄な生徒で、もう一人は胸にライオンの形のバッジを着けた精悍な顔立ちの子だった。


「あの学級の生徒は相変わらず……って、どこへ行くんだい?」


 懐から杖を取り出し、彼らの方へと早足で近づく私を見て、魔王は目を丸くした。


 けれど、私はそれを無視して不良たちに険しい声をかける。


「何してるの!」


 二人が振り向いた。そして、私の姿を認めた途端に嫌な笑いをこぼす。


「誰かと思えば、コウモリの学級の期待の新入生ちゃんかよ」

「キミ、二年生相手に身の程知らずじゃないの?」


 私の杖を見て、不良コンビが揶揄やゆしてくる。私は彼らを睨みつけた。


「黙りなさい。弱い者いじめは許さないわよ」


 私が杖先を向けると、二人はますますおかしそうに笑った。さっきからバカにされ続けて、さすがの私も頭に血が上ってくる。


「おっ、やるってのか?」

「コウモリちゃんなんかに、オイラたちは倒せないっすよ~?」


 二人は杖を取り出したけど、私の方が早かった。「吹き飛べ!」と叫ぶなり彼らの体は宙を舞い、シャンデリアを粉々にしながら天井にぶつかる。そして、そのまま伸びてしまった。


「前から思っていたけど、君、ちょっと短気だな」


 それを見ていた魔王が肩を竦めた。


 私は彼を無視して、絡まれていた少年に向き直る。


「大丈夫?」

「う、うん……」


 男子生徒は消え入りそうな声で返事すると、そのまま走り去ってしまった。魔王が「びっくりさせてしまったみたいだね」と言う。


「……まあいいでしょ。助かったんだし」


 私は杖をしまって歩き出した。すると、魔王が「ルイーゼ?」と不思議そうに尋ねてくる。


「コウモリ寮へ帰る道はこっちだぞ?」


 私が正面玄関とは別方向へ行こうとしていることに魔王は気が付いたらしい。私は「図書館へ行くの。調べ物よ」とツンとした声で答えた。その答えに、魔王は少し感心したようだ。


「勉強熱心なんだね。私も行こうかな?」

「……図書館は飲食禁止よ」


 私は魔王が持っているチュロスに一瞥をくれると、彼がついて来ないうちにさっさと背を向けた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 実質三年生相当の実力を持っていたら、年度始めの学生たちに負ける気はしない! でもシャンデリアとか壊しちゃって大丈夫なんだろうか。これには魔王も呆れ顔を隠せない……
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