こんなチャラい人、私、知らないわ!(2/3)
驚いた顔をするアルファルドを見ているうちに申し訳なくなってきて、今度は彼に優しく話しかけた。
「何か私に用だったの?」
「……えっとぉ、君に聞きたいことがあってぇ」
相変わらず軽いノリのまま、アルファルドは用件を告げた。
「実は、俺のことなんだけど……」
「アルファルドの?」
「ちょっと疑問に思ってさー。何で君は俺のこと『アルファルド』って呼ぶのかなって。だって俺の名前、サムソンじゃん? それに……君がセミ・プロムで踊ってた男いたよね? アレって誰?」
「へ……?」
不可解すぎる質問の数々に、変な声が出てしまった。
私がどうして『サムソン・レルネー』を『アルファルド』って呼ぶのかなんて、そんなのサムソンの正体がアルファルドだからに決まってるじゃない! しかも、セミ・プロムで私と踊ったのはあなたでしょう!
アルファルド、やっぱりおかしいわ。絶対に変。こんな分かりきった質問をするなんて、どうかしてる。自分のことなのにまるで他人事みたいに……。
……いや、本当に『自分のこと』なの?
ある疑惑が芽生えて、私はアルファルドをじっと見つめた。
確かに見た目はアルファルド……って言うよりも、サムソンそのものだ。でも、その中身はと言うと……。
「じゃあ、私の方からも一つ質問よ」
私は杖を取り出して、まっすぐ『アルファルド』に向けた。
「私があなたに向けて最初に放った呪文は何?」
「えっ……」
目の前の少年は動揺して答えられない。私は彼を睨みつけた。
「あなた、アルファルドじゃないわね! 答えはこれよ! 氷柱!」
少年の足元から、氷の柱が飛び出てきた。彼は素早い動作で杖を出し、「爆破せよ!」と唱える。
飛び散る氷の破片。私は障壁を出してそれから身を守る。小さな声で、「やっぱり俺には、演技は無理だよ……」と聞こえてきた。爆発で生じた白い煙の中で、アルファルドもどきがその場から逃亡しようとする姿が見える。
「待ちなさい! あなたには聞きたいことがあるわ!」
私はアルファルドもどきの背中に向けて魔法を放った。
彼はそれを避けながら、傍に転がっていた箒に飛び乗る。どうやら彼もここまで空を飛んで来たらしい。空中に逃げる気ね! それなら私も……。
「炎よ!」
アルファルドもどきは私が掴もうとした箒に魔法をかけた。あっという間に箒は大炎上する。でも、それで終わりじゃなかった。
彼は懐から金色の糸のようなものを取り出すと、それを杖に巻き付ける。そして、浮上しながら燃えている箒に杖先を向けた。
「追尾せよ! 地の果てまで!」
炎をまとった箒が、私に向かって突っ込んで来た。急いで障壁を張ったけどその勢いは殺しきれず、私はすぐ後ろにあった湖の中にダイブする。
冷たい水に包まれ、刺すような痛みが体を走り抜けた。だけど箒はまだ諦めてくれず、私を追って水中まで飛び込んでくる。
「切り裂け!」
私はそう叫んだつもりだったけど、水が肺に入り込んできただけだった。でも、ちゃんと魔法は発動して、こっちに向かってきていた箒は粉々になる。
それを見届けた私は、無我夢中で手足をばたつかせた。だけどローブの下にたくさん着込んでいる服が水を吸ってしまい、中々水面まで上がれない。呼吸が段々と苦しくなってくる。
そのとき、何かが水の底から伸びてきて私を岸まで押し上げてくれた。やっと息ができるようになった私は、咳き込みながら湖の方を見る。クラーケンが大きな目玉でこっちの様子をうかがっていた。
「……ありがとう」
私が礼を言うと、クラーケンは吸盤のついた大きな触手を軽く水面に出して、また水の底へと戻っていった。
多分、人間で言うところのサムズアップって感じのポーズだろう。材料採集で湖に来る度にエサやりをしておいてよかったと、私は過去の自分に心底感謝した。