ガラスの向こうのトロフィー(1/2)
次に私が耳にしたのは、どこからか聞こえてくる騒がしい声だった。絨毯にうつ伏せになる形で倒れていた私は、我に返って慌てて起き上がる。
反射的に時計を見ると、もう夜だった。コウモリ寮へ帰ったのは朝方だったはずだから、随分と長い間眠っていたらしい。
……それにしても、この騒ぎは何なんだろう?
部屋の外から聞こえてくるざわめきに、私は少し関心を引かれた。コウモリ寮が賑やかなのはいつものことだったけど、今回はそれに輪をかけてうるさい気がする。
何とはなしに部屋の外に出て、私は音のする方に向かった。……談話室かな? それにこれって……もしかして歓声?
「アルファルド!」
階段を降りて談話室に足を踏み入れた瞬間に、ルイーゼに抱きつかれた。何故か学級旗をマントのように体に巻き付けている。
「優勝よ! 私たちが勝ったの!」
何故彼女がこんなにはしゃいでいるのか分からずに困惑していると、ルイーゼはさらに意味の分からないことを言い始めた。
でも、談話室に掲げられた横断幕の『黄金杯争奪戦、第一位はコウモリの学級!』の文字と、机に置かれたトロフィーを見て、ようやく事情を呑み込むことができる。
どうやらコウモリの学級は、黄金杯争奪戦で他のクラスを押さえて栄冠を手にしたらしい。
学級生全員が集まっているんじゃないかと思うくらい室内は混雑している。各テーブルにはご馳走が山盛りに乗った皿がいつくも置かれていて、皆はそれをつまみながら勝利の余韻に浸っていた。
「いやー、アネゴ、すごかったっすよ」
「本当! とんでもなかったです!」
コウモリの学級を挙げてのお祝いなのに当たり前の顔をして参加しているのは、デューとヨシュアだ。
「温室に隠されていた黄金杯を巡って十人以上の天馬の学級生と戦ったり、花冠の学級の寮の屋上に置いてあった杯を取ろうとして間違って屋根ごと吹き飛ばしたり……」
「水蛇の学級生たちに追いかけ回されて窓から落ちそうになっていた一年生を、地面に落ちるギリギリのところでキャッチしたり……」
二人とも自分の学級が負けたというのに、あんまり気にしていないみたいだ。嬉々としてルイーゼの武勇伝を披露してくれる。
「でも一番ヤバかったのは、最後の黄金杯を賭けての、うちのボスとの一騎打ちっすよね! あれ、絶対に黄金杯争奪戦史に残りますよ!」
「そうそう、最後にはボスのお手製シチューまで飛び出す始末だもんな。あんなの食らったら一撃必殺されるっていうのに……」
「いや、あれは戦いとは関係ないでしょ。フューケ学級長が、健闘を称えてプレゼントしてくれただけだし……」
ルイーゼは苦笑いしながら、ちょっと不満そうに私の肩を小突いた。
「それにしてもアルファルド、一体どこへ行ってたの?」
ルイーゼは少し頬を膨らませた。
「一緒に黄金杯争奪戦を楽しみましょうって言ったのに、勝手にいなくなっちゃうんだもの! 探したのよ!」
続けて、こっそりと耳打ちする。
「地竜の鱗も無事に手に入れたわ。これで照魔の水薬が作れるわよ」