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黄金杯争奪戦(2/3)

「あんまり暴れないで! そんなにすぐには消化されないから!」


 先輩たちは呑み込まれた後輩にアドバイスしつつ、地面を杖で突きながら安全なルートを探って歩き始めている。箒を持っている者は地面を蹴って、安全圏へと逃げ出した。


「魔法で爆発させちゃいなさい! ……えっ? 爆発呪文、まだ習ってないって? じゃあ、外から切り込みを入れるから……」


 そのとき、空からバンバンと魔法を打ち合う音がした。見れば、箒に乗ったコウモリの学級の上級生と、他のクラスの生徒が呪いを掛け合っているところだった。


「天馬の学級生、見参!」


 その争いから離脱し、仰々しい台詞と共に箒やペガサスに乗った天馬の学級生が私たちの前に現われた。あっ、もしかしてこの人たち、園芸部の……。


「どうだ! 我々が丹精込めて育てたパックン草は!」

「だが、まだ終わりじゃないぞ!」


 空から草を編んで作られた大きな網が降ってくる。私は思わずそれを避けそうになったけど、あることに気が付いて「皆! 不用意に動いちゃダメ!」と怒声を飛ばした。


 だけど、このアドバイスもちょっと手遅れだったみたいだ。網から逃れようとした生徒たちは足元への注意がおろそかになって、地面から飛び出してきたパックン草に食べられてしまった。


「ふふん! 一網打尽だ!」


 天馬の学級生たちはペガサスに乗ったまま、器用にパックン草の外皮をナイフで切っていく。かなり手際がいい。これは相当練習したわね。


 天馬の学級生は中から出てきた一年生たちの腰帯を回収していった。皆パックン草の舌で絡め取られていて、ろくな抵抗もできないらしい。


 腰帯を取られた一年生たちは、あらかじめ帯に仕込まれていた転移魔法によって、校舎の地下へと送還されていった。試合終了まで、彼らはずっとそこで待機することになる。


 空の掲示板の、天馬の学級の獲得点数がどんどん増えていく。六点、七点、八点……。


「もう!」


 私は体に絡みついてくる網を魔法で吹き飛ばした。先に進むには、どうにかここを無事に突破しないといけないみたいだ。他のコウモリの学級生も、パックン草に群がっている天馬の学級生たちを魔法で打ち落とし始めていた。


 ……よし、私も!


「アルファルド、やるわよ! 私たちも天馬の学級生を撃退して、ここから離脱……アルファルド!?」


 このとき初めて、私はアルファルドの姿が見えないことに気が付いた。


「ここだよ」


 近くのパックン草の中から、冷静な声がした。


「何て言うかここ、あんまり居心地がよくないね。ベトベトしてて気持ち悪いし……」


「何呑気なこと言ってるの!」


 私は地面に注意しながら、慎重にアルファルドの方へ向かった。でも、私よりも天馬の学級生の方が早かった。アルファルドの入っているパックン草を慣れた手つきで切り裂く。


「ア、アルファ……!」

「うん? 何?」


 だけど、心配はいらなかった。アルファルドは自分の腰帯を取ろうとした天馬の学級生を難なく失神させて、悠々と外に出てくる。


「……そうよね。あなたはそんな簡単にやられたりしないわよね」


 呑気でいられるのは、彼が自分の実力をちゃんと分かっているからだ。アルファルドはさっきの天馬の学級生が乗っていた箒を手に取って、「見て!」と嬉しそうにしている。


「ルイーゼ、これに乗っていこう。いつまでもこんなところにいるのは……」


 つむじ風のように何かが傍をかすめた気配がした。私はとっさに腰帯に手を当てる。


「ははは! 混戦中に失礼するよ!」


 超低空飛行で私たちの間に突っ込んで来たのは、水蛇の学級の青い腕章をつけた生徒たちだった。その手に握られているのは、腰帯ではなく何本もの杖だった。


「まずは相手を無力化するのが定石だからねえ!」

「さあ、次は腰帯をもらおうか!」


 そう言いながら水蛇の学級生たちは突進してくる。


「こいつら、漁夫の利を狙ったのね!」


 私は腰帯と杖の両方に注意を払いつつ、足元にも意識を向けながら唇を噛んだ。


「コウモリの学級と天馬の学級が戦いで混乱している隙に現われて、一番美味しいところを持って行く気なんだわ! いい度胸ね! 一人残らず私が吹き飛ばしてあげるんだから! アルファルド、手伝って!」


「……そのことなんだけどさ、ルイーゼ」


 さっき奪った箒に乗りながら、アルファルドがちょっと申し訳なさそうに言った。


「いい知らせと悪い知らせがあるんだ。どっちを先に聞きたい?」


 ……あれ? デジャブかしら? こんなこと、前にもあったような……。


「いい知らせから教えてちょうだい」

「君の見せ場が増えたよ」

「悪い知らせは?」

「杖、取られてしまったみたいだ」


 嘘でしょ! またなの!?


「何でアルファルドはいつも肝心なときにそうなのよ!」

「何でって言われてもね……」


 私はアルファルドがまたがる箒の後ろに飛び乗った。


「いいわ! 私がやる! ……コウモリの学級生、全員伏せて! 吹き飛べ!」


 アルファルドが浮上を開始するのと同時に、私は竜巻を起こして空中にいる者たちをなぎ払った。箒やペガサスから敵たちが転げ落ちる。


「よくやったぞ、ルイーゼ!」

「お返しだ!」


 地面に叩きつけられた者たちに、コウモリの学級生が襲撃をかけ始めた。私とアルファルドは上空で魔法の応酬をしている生徒たちの間を抜けて、校舎へと向かう。

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― 新着の感想 ―
[一言] アルファルドの見せ場が終わってしまった! おっとりしている彼らしいといえば彼らしいけど……。
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