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借りるだけよ、永遠にね(3/3)

「でも、十年も待てないもの」 


 それでも私は未練がましく、強制変身解除薬について記述したメモを睨みつけた。


「照魔の水薬は作るのは不可能って思われてるだけで、実は上手くいく可能性もあるかもしれないわ。……だったら、試してみたっていいじゃない」


 私は照魔の水薬の材料欄に目をやった。


「だけど、ちょっとだけ問題があるわ。……作ろうとしたことがあるなら、アルファルドも知ってるわよね? 地竜の鱗を煮て作ったスープを材料の一つとして使わないといけないの」


 照魔の水薬の材料は、購買で買えたり、通販で気軽に取り寄せられたりするようなものばかりだ。


 その唯一の例外が、地竜の鱗を煮て作ったスープ……というよりも、地竜の鱗だった。


「地竜の鱗は、簡単に入手できるようなものじゃないわ。……ただ、学園の魔法薬の材料保管庫にならあったはずよ。でも……」


 私は難しい顔でノートをしまう。


「それが置いてあるのは、保管庫の中でもとりわけ奥の方だわ。六年生が卒業試験で作る魔法薬の材料を取ってくるときくらいしか、立ち入りが許されない場所よ」


「つまり、一年生の私たちじゃ入れないんだね」


 アルファルドは肩を竦めた。暗に諦めろって言ってるみたいだ。


 でも、私はこの問題をどうクリアすればいいのか、ちゃんと答えを出していた。


「ねえ、アルファルド。劇薬研究会が薬の材料をどうやって調達してるか知ってる?」


「……さあ? 考えたこともないけど……」


「一部の入手困難品は、学園の材料保管庫から黙って借りてきてるらしいわよ。ここは私たちも、彼らのひそみにならうべきじゃないかしら?」


「盗むってことか?」


 アルファルドは目を見開いた。私は両眉をつり上げる。


「人聞きの悪いこと言わないでよ。借りるだけよ。永遠にね」


 私は森のそばで、怪しげに内緒話をしている水蛇の学級生を見つめた。


「もうすぐ黄金杯争奪戦だもの。つまり、学園の色々なところでとてつもない騒ぎが起きる一日が来るってことよ。だから……材料保管庫で何かあっても、誰も気にもとめないわ」


「ルイーゼ……森からリンゴを盗んだ犯人を捕まえた君が、そんなことをするのは……」


 アルファルドは私の大胆不敵さに呆れているとも感心しているとも取れる顔になっていた。


「私とあの二人を一緒にしないでちょうだい」


 私は憤然となる。


「あの二人は、自分の欲望のために泥棒をしてたのよ! 特にノイルート! 彼は盗んだ黄金のリンゴで、魔王復活の足がかりを得ようとしてたの! でも、私にはそれとは真逆の目的があるのよ。九頭団の野望を挫くっていう目的が」


 私は固く拳を握って続ける。


「で、無事に材料を入手できたら、今度は黄金杯争奪戦に本腰を入れて参加しましょう! だって、学校行事も楽しむって決めたんだから!」


「本当に君は……仕方ない子だね」


 アルファルドは私の頭をポンポンと撫でた。


「確かにそうかもね。何かをしようと思ったら、ちょっとした犠牲は払わないといけないのかもしれない」


「大丈夫よ。見つかって罰則を食らう、なんてヘマはしないわ」


 私は自信満々に笑った。


「見ててよ、アルファルド。絶対に成功させてみせるから」


 材料確保も、魔法薬の生成も。それで九頭団の鼻を明かして、アルファルドを助けるんだ。


 こうして私も、他の生徒たちとはちょっと違った理由で、黄金杯争奪戦の日をうずうずしながら待つことになったんだ。

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