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借りるだけよ、永遠にね(2/3)

 終業の時間が近づき、キノコ採集が終わった私たちは先生のところに向かう。その途中、私はたくさん採った透明キノコの一部を取り分け、ローブの中にしまい込んだ。


 残りは課題達成の成果として、薬草学の先生――ソーニャ先生の夫の半オークに渡す。


「次回は温室でパックン草の観察をします。今日はこれまでにしましょう」


 先生が宣言したすぐ後でチャイムが鳴って、生徒たちはそれぞれ解散していった。私は校舎へ向かう集団の中にアルファルドを見つけ、走り寄る。


「上手くいったわ」


 私はカバンからノートを取り出し、『必要な材料』と書かれた欄の『透明キノコ』の部分を傍線で消した。


「材料、もう半分以上揃ってるわよ。中々順調ね」

「ルイーゼ……あれ、本当に作るつもりなのかい?」


 アルファルドがノートに目を落としながら言った。


「もちろんよ!」


 私はノートをしまいながら頷く。


「試してみる価値はあるわ」


 私が色々な文献を当たった結果、変身を解く力のある魔法薬について分かったことがある。


「すごく珍しいものだけど、ちゃんと実在する魔法薬は『強制変身解除薬』って呼ばれてるわ。分かりやすい名前よね? その名の通り、相手の変身をすぐに解いちゃう強力な薬よ」


 私は今度はカバンから『世界のバカバカしい魔法薬辞典』という本を取り出した。奇書研究会から借りてきたものだ。


「でも強制変身解除薬は、完成に少なくとも十年はかかるわ。材料も入手困難なものばっかりだし……。しかもそこまでして作れるのは、ティースプーン一杯分くらいの量なのよ!」


 量が少ないのはともかく、完成まで十年もかかるのはいただけない。だって、魔王は六年後に復活してしまうんだから。 あんまり悠長なこと言ってられないじゃない!


 だから私は、別の方法を採ることにした。


「照魔の水薬。これしかないわ」


 照魔の水薬は、相手の真の姿を写すという東方の魔法具、『照魔鏡』に着想を得て作られた薬だ。飲ませた者の正体をあらわにする力があるらしい。


 たった一つの例外を除けば材料も簡単に揃うものばかりだし、私は照魔の水薬を知ったときから、この魔法薬を何とかして作れないかということばかり考えていた。


 でも、それを実行するためには、大きな問題があったんだ。


「ルイーゼ、照魔の水薬は幻の薬だろう?」


 痛い所をアルファルドに突かれて私は黙り込んだ。


「幻の薬……つまり実在しないってことだ。作るのは不可能なんだよ」


 そう、アルファルドの言うとおりだった。どの本を読んでも、照魔の水薬を作るのに成功したという話がなかったんだ。


 だけど、そんな理由で私はこの魅力的な魔法薬を生成するのを諦める気にはなれなかった。


「あなたからそんな台詞を聞くことになるなんて思わなかったわ、アルファルド」


 私は反抗的な気分で唇を尖らせた。


「だってあなた、誰も考えつかなかったような魔法、たくさん発明したんでしょう? だったらこの照魔の水薬だって、『幻』から、『実在』に変えられるかもしれないじゃないの」


「それは無理だよ」


 アルファルドはいつになくきっぱりとした仕草で首を振った。やけに彼が強情を張るものだから、私はちょっと不安になってくる。


 案の定、アルファルドは最悪なことを教えてくれた。


「私が『アルファルド』として在学していた頃の話だけどね。実は一時期、この薬の研究をしていたことがあったんだ。でも、成功しなかった。って言うよりも、上手くいく見込みすらなかった。だから私はこう結論づけたんだよ。『幻の薬』はやっぱり『幻』で、実在しないんだって」


「そ、そうなの?」


 まさかそんな経験があったなんて思ってもみなくて、私は少し動揺してしまう。


 アルファルドの才能については、十分に理解しているつもりだ。


 そんな彼が無理だというものを作るなんて、不可能じゃないかしら?

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