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借りるだけよ、永遠にね(1/3)

 段々と冬の気配が濃厚になり、コウモリ寮の談話室の暖炉にも火が入れられる季節がやって来た。そんな寒さを吹き飛ばすように、学園は来たる学級対抗黄金杯争奪戦に向けて熱気が高まっている。 


 劇薬研究会以外にも怪しげな薬を作る者が後を絶たず、調合に失敗して怪我をした生徒で、医務室は連日バーゲンセール中の購買並みに混雑していた。


 どの辺りに黄金杯が隠されるんだろうとか、どこにトラップを仕掛けようかとか、色々なことを皆が検証し始めて、授業が終わってもまっすぐ寮に帰らない生徒も増えた。


 しかもそれだけでは終わらずに、他学級の有力な生徒にこっそりと呪いをかけようとする者まで現われる始末だ。


 闇討ちされるのを防ぐため、上級生たちは集団で行動するようになる。


「ねえ、ルイーゼちゃん、黄金杯争奪戦って、そんなに怖いのかな?」


 日を追うごとに好戦的になる先輩たちに、一年生は怯えていた。ついには、いつものんびりとしているミストまで不安そうな顔をする始末だ。


「まあ、学級対抗だしね」


 私は倒木をひっくり返しながら返事する。今は薬草学の授業の真っ最中だ。今回の課題は、クレタの森で透明キノコを探すことだった。


「この学園の生徒たち、皆自分の学級に愛着があるから、それは真剣にもなるわよ」


 私は見つけた半透明のキノコを手早く刈り取り、黒く塗ったフラスコに入れる。透明キノコは暗所に保管しておかないと、すぐに消えてしまうからだ。


「ところで、黄金杯争奪戦って何するの?」


「ああ、そっか……。詳しい説明はまだだったわよね。……大丈夫よ、そんなに怖くない行事だから」


 私は不安そうな顔で石をひっくり返すミストの肩を叩いて慰めた。


「黄金杯争奪戦は、簡単に言えば、金色の杯を生徒たちが奪い合う競技よ」


 私は落ちていた枝で、地面にワイングラスくらいの大きさの杯を描く。


「杯の数は百個。それを全部見つけ終わった時点で、争奪戦は終了よ」

「見つける……ってことは、どこかに隠されてるの?」

「ええ。各学級の寮を含む、立ち入り禁止の場所以外のところにね」

「つまり宝探しだね! よかった、そんなに危ない行事じゃなさそうで……」


 ミストがほっとしたように肩の力を抜く。私は心の中で、毎年大量に怪我人は出るけどね、と付け足した。


「杯をたくさん見つけた学級が優勝するの?」

「それは……そうとも限らないわ」


 私は首を振った。


「この行事で勝つのは、たくさん点を取った学級よ。杯一個につき十点、他の学級生の腰帯を奪えば、それも点になるし……」


 腰帯って言うのは、黄金杯争奪戦のスタート前に参加者全員に配られる布のことだ。


「一年生のは一点にしかならないけど、学年が上がるにつれて点が加算されていって、六年生の腰帯を取れば六点も入るのよ。それで、腰帯を取られた生徒は争奪戦から離脱するの」


「じゃあ黄金杯だけじゃなくて、腰帯争奪戦にもなるってことだね。……でも、それじゃあアタシたち、あっという間に行事に参加できなくなっちゃわない? だって上級生には絶対に勝てないし……」


「ハンデがあるわ。四年生以上は杖の使用が禁止されてるの」


「そっか……それなら安心……かな? でも、思ったより危なそうなんだね」


 さっきまでの安心感が吹き飛び、ミストは不安げな顔になっている。


「でも、これで皆が妨害工作をしてる理由が分かったよ。強そうな人を先にやっつけておこうっていう作戦だね。……もしかして、あれもそうなのかな?」


「あれって?」


「ルイーゼちゃん、知らない? 今、コウモリ寮でドッペルゲンガーが目撃されてるって話」


 ミストが深刻そうな顔で言った。


「同じ人が別々の場所に同時に存在したり、伝えたはずの話を聞いてないって言われたり……。アタシ、変だなって思って、『エルキュール魔法学園の七不思議研究会』の研究員さんにお話を聞いたの! そしたらね、それはドッペルゲンガーだって言われたんだ!」


 エルキュール魔法学園の七不思議研究会……? そんな部活、あったんだ。って言うよりも、この学園に七不思議があるなんて初耳だ。六年以上在学してても知らないことも多いのね。


「研究員さん、どこからドッペルゲンガーが来たんだろうって不思議がってたけど、アタシ、今のルイーゼちゃんのお話を聞いてて、ピンと来たよ! きっと他の学級の子がコウモリの学級を混乱させようとして、寮にドッペルゲンガーを忍び込ませんたんだよ!」


「なるほど……でも、大した害はなさそうだし、放っておいてもいいんじゃない?」


 ドッペルゲンガーは人の姿を真似をする魔物だ。自分の姿に変身している個体と遭遇したら死ぬ……なんて都市伝説もあるけど、あんなのは迷信だし、別に悪い生き物じゃない。


 それに姿が同じなだけで喋ったりはできないから、偽物だってすぐに分かっちゃうしね。もっと危険な生き物が侵入してくるより、ずっとマシだわ。ミノタウロスにゲリュオンに……もう魔物との戦闘はこりごりよ!

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