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邪竜退治と変な取材(3/3)

「ふーん? 変わった人だね?」


 その日の夜、アルファルドにモンテスパン部長のことを話すと、彼は食べていたクレープから顔を上げて、小首を傾げた。


「何だか、私に興味があったっていうよりも、アルファルドのことが知りたかったって感じだったわ」


 私は本のページをめくりながら言った。


「でも、別にアルファルドとお近づきになりたかったわけじゃないみたいだし……。一体何がしたかったのかしら?」


 最後の一文に目を通した後、私は本を『読破済み』の方の山の上に置いた。


「そんなことより、今はこれよ」


 私は次の本をカバンから取り出す。


「あの物語に出てきた邪竜の血について、色々と分かったわ。あのお話自体は多分架空のものなんだろうけど、邪竜の血は実在する魔法薬がモデルになってるかもしれないの。つまり、変身解除の薬ね。でもそれの作り方は、やっぱり奇書研究会へ行かないと……」


 私の言葉を遮って、談話室の片隅からドカン! と爆発音がした。


 コウモリ寮では毎日のようにこんなことが起こっているからもう慣れっこだったけど、今日のはひときわ音が大きく、びっくりしたアルファルドは食べていたクレープのクリームで口の周りを白く汚してしまう。


「劇薬研究会ね」


 私は『幻の大剣を探して』というタイトルの旅行記に目を落とした。


「もうすぐ研究発表会でもあるのかな?」


 アルファルドが口の周りのクリームを指ですくってなめる。私は「違うわ」と返した。


「黄金杯争奪戦の準備でしょ。この時期の学園は、いつにも増して物騒になるわ」

「ああ、なるほど……もうそんな時期か……」


 アルファルドは納得したように頷いた。私はそんな彼の様子をチラッと見る。


「それはそうと、そっちはどうなの? 何か発見はあった?」

「いや、別に……」


 アルファルドはクレープの最後の一口を呑み込んで首を振る。「もう!」と言いながら、私は眉をひそめた。


「またそんな悠長に構えて! って言うか、最近のアルファルド、何か変よ!」


 セミ・プロムが終わった辺りからかしら? 何だか彼、ぼんやりとしていることが増えた気がする。


 確かにあれは楽しい一時だったけど……。でも、いつまでも浮かれたままでいてもらうのは困る。


「そうだな……」


 アルファルドは少し首を傾げた後、微かに笑った。


「恋の病……かな?」


 アルファルドが手を伸ばして、私の頭を軽く撫でた。


「どこかの黒髪で緑の目の背の高い男がルイーゼを狙ってるみたいだから、心配で……」


「……まったく」


 私は頬を染めて、アルファルドの手のひらの上に自分の手を重ねた。


「本当にそれだけ?」

「後は……ダグラスが君を見ている目が、少し気になった」

「ダグラス? 私たちがセミ・プロムで会った、九頭団のリーダー?」


 頭を撫でてくれるアルファルドの手に感触にうっとりしながら、私はゆっくりと瞬きした。少し甘い雰囲気になってしまっているせいで、敵の親玉の名前を聞いても大して心がざわつかなくなっている。


「彼がどうしたの?」

「うーん……何て言うのかな……」


 アルファルドはしばらく悩んだけど、自分の考えを上手く表現する言葉が見つからなかったようだ。「やっぱり何でもない」とかぶりを振った。


「私はもう寝るよ。おやすみ、ルイーゼ」


 アルファルドは私の手を取って甲に軽くキスをし、談話室から去っていった。


 ちょっとしたときめきを覚えつつ、私はアルファルドの唇が触れたところを強く握る。


 やっぱりアルファルドを魔王なんかにさせるわけにはいかない。ぼんやりしているアルファルドの分まで、私が頑張らないと!


 そんなふうに意気込んだ私は、消灯時間ギリギリまで談話室で本の山相手に粘ることになった。

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