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邪竜退治と変な取材(2/3)

 私は授業終了のチャイムが鳴るやいなや、教室を飛び出した。向かった先は、もちろん大剣寮だ。


「ルイーゼか、どうしたんだ?」


 フューケ学級長が出迎えてくれた。私は息を整えながら早口で話す。


「本とか資料とか、何かありますか?」


 私は学級長室の窓から中庭を見つめた。


「邪竜を倒した騎士について知りたいんです!」


 私の顔がよっぽど深刻そうだったのか、フューケ学級長はちょっと驚きながらも大剣寮の書庫にあった邪竜退治にまつわる本をたくさん持ってきてくれた。


「絵本から実用書まで色々あるけど、どれが欲しいんだ?」

「全部です!」


 情報を一つも取りこぼしたくなくて、私はカバンがパンパンになるまで本を詰め込んだ。それでも入りきらなかった分は、フューケ学級長がどこからともなく連れてきてくれた私の舎弟コンビに持たせることにする。


「アネゴ~。冒険にでも出かけるんすか?」


 デューが『君も明日からできる、邪竜退治!』と書かれた本の表紙を見ながら言った。


「また伝説作っちゃう感じですね! お土産話、楽しみにしてます!」

「そういうわけじゃないけど……」


 早く本が読みたくて気もそぞろになりながら返事する。でも私室へ辿り着く前に、コウモリ寮の廊下で先輩に声をかけられた。


「ルイーゼ、お客さんが来てるわよ」

「お客さん? 誰ですか?」

「新聞部のモンテスパン部長よ」

「新聞部……?」


 何でそんな人が私に用があるのか全然検討もつかなかったけど、先輩が「森の結界解除の犯人を捕まえた件で、話が聞きたいそうよ」と教えてくれる。


「えっ、今頃?」


 私がオスカーとノイルートを追い詰めたと皆が知ってから、もう一ヶ月以上経ってるのに? そんな全然新鮮味のないニュース、どうして今さら新聞部が扱いたがるのかしら? しかも部長まで出向いてくるなんて……。


「ひゃー! アネゴ、すごいっす!」

「学園新聞の大見出し、間違いなしですね!」


 訝しむ私に対し、舎弟コンビははしゃいでいる。私は二人に押されて、無理やり応接室まで連れて行かれてしまった。


「じゃあ、俺たちはアネゴの部屋に本を置いてきますんで!」


 デューとヨシュアは意気揚々と去っていった。もうここまで来てしまったんだから仕方がない。私は応接室のドアをノックして、中に入った。


「初めまして、ルイーゼ・カルキノスさん」


 深紫のソファーに座っていた女の人が立ち上がる。栗色の髪を頭の後ろでお団子にしている、詮索好きそうな顔立ちの人だ。花冠の学級に所属しているらしく、緑の腕章をつけていた。


「新聞部のモンテスパン部長ですか?」

「はい。あなたに取材をしに来たの」


 モンテスパン部長は朗らかに笑う。私が着席すると、彼女はその向かいでノートを広げ、ペンを構えた。


「それでカルキノスさん、この間のセミ・プロムのことなんだけど……」


 ……うん? セミ・プロム? この人、私がオスカーとノイルートを捕まえたときの話が聞きたかったんじゃないの?


「あなた、面白い人と踊ってたわよね? ほら、背が高くて綺麗な顔をした黒髪の……」


「はあ……」


 話の方向性が見えないことに困惑して、私は曖昧に頷く。


「あの人、誰?」

「知り合い……ですけど」


 私は適当に言い訳をして誤魔化そうとした。けれど、モンテスパン部長は追求をやめない。


「名前は? うちの学生じゃないわよね? 普段は何をしている人なの?」


 ……もしかしてこの人、取材に来たわけじゃないの?


 私はモンテスパン部長の目的に気が付いて警戒心を強くした。


 多分彼女が知りたいのは、アルファルドについてだ。きっとセミ・プロムで彼のことを見て、一目ぼれしちゃったとかそんな感じだろう。


 だから取材って嘘を吐いて、私からアルファルドの情報を聞き出そうとしているに違いない。


 となれば、最後に出てくる台詞は……。


「よかったらあの人、私に紹介してくれない?」


 ほら来た! 私は椅子から立ち上がる。


「そういう話はお受けできません」


 私はきっぱりと言い切った。


「どうせあの人のこと、彼氏にしたいとか考えているんでしょうけど、無駄ですよ。先約がありますから」


 先約って、もちろん私のことだ。私の他にアルファルドの恋人を作るわけにはいかない。


 だけどモンテスパン部長は、意外なことを言い出した。


「彼氏ぃ~? 要らないわよ。もういるんだもの」


 部長は、私がそんなことを言い出すなんて思ってもみなかったような顔をしていた。


「あのね、すごく格好よくてお茶目で可愛くてぇ……。ぱーくんっていうんだけど!」


 突如、モンテスパン部長は締まりのない顔になって自分の恋人についてのろけ始めた。


「今年、この学園の管理部門で働き始めたばっかりの将来有望な人なの! そうそう! 将来有望って言えば、私の兄さんも官庁勤めのエリートなんだけど……」


 モンテスパン部長、お喋りが好きなのかしら? どうやら変なスイッチが入ってしまったらしく、一人でペラペラと聞かれてもいないことを話している。


 私は椅子から立ち上がった姿勢のまま、どうしていいのか分からずにぼんやりとそれを聞いているしかない。


「ね? 素敵でしょ?」


 最終的には今年又従姉妹にもらった誕生日のプレゼントのことにまで言及し、ようやくモンテスパン部長の話は終わった。何だかすっきりとした顔になっている。


 もしかしなくても彼女、お喋りを周りからうっとうしがられて聞いてくれる人があんまりいないのかしら?


「じゃあ、楽しい時間をありがとう! またどこかで会いましょう!」


 モンテスパン部長は帰っていった。……取材、全然してないけどよかったのかしら?


 ……いいえ。今は他人の心配をしてる場合じゃなかったわね。


 私にはやるべきことがあるんだ。私は隣の椅子に置いていた本で膨らんでいるカバンを抱え、今度こそ自室を目指すことにした。

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