セミ・プロム開催!(5/5)
「でもルイーゼが変なのは、私のことを皆が見てるからじゃないよね?」
アルファルドが踏み込んだ質問をしてきた。図星を指されて私は思わず文句を言う。
「アルファルド……何でその見た目になっちゃったのよ」
「えっ、嫌だった? 好みじゃない?」
「好みだから困ってるんでしょ!」
最初に出会ったときからずっとこれならある程度耐性もついたかもしれないけど、いきなりこの姿で出てこられるのは衝撃が強すぎた。どう対処していいのか分からなくなってしまう。
「そんなに格好よくなっちゃって! 緊張するじゃない!」
サムソンの容姿は可もなく不可もないって感じだ。でも、アルファルドはかなりの美形なんだ。いきなりベタベタ触れ合えって言われても、はい分かりました、なんてすぐに順応できるわけがない。
「そう言われてもね……。魔法の効果は一晩ずっと続くし……」
アルファルドが眉間にシワを寄せて唸る。ああ……そんな表情をしてても綺麗だわ。
「変身しているものをまた別の姿に変えるのは、すごく難しいんだよ。君なら知ってると思うけど……」
困り果てていたアルファルドだったけど、不意に「そうだ」とあることを思い付いたみたいに私をもっと引き寄せてきた。
「ちょ、ちょっと!」
「いいから」
私は掠れた声で抗議したけど、アルファルドは聞く耳を持たない。
そんなこと言われたって……! 私は動揺しすぎてアルファルドの足を踏んでしまう。アルファルドは「痛いよ」と小さく不満を漏らした。
「ご、ごめん……」
謝りつつも、私はちょっと変な気分になった。だってさっきの言い方、私がコウモリ寮の玄関ホールで、彼のことを間違えて吹き飛ばしちゃったときと同じだったから。
……ああ、そうか。そうよね。同じなんだわ。ふいに、私は重要なことに気が付いた。
見た目がどんなに変わってしまっても、彼は『アルファルド』なんだわ。そのことは私が一番分かってたはずなのに。
だって、私はアルファルドが怪物みたいな存在――魔王になるかもしれないのに、彼を見捨てないって決めていたんだから。どんな化け物になったって、中身はアルファルドなんだから、って。
「ルイーゼ。見た目なんて飾りだよ」
そんな私の心境の変化を後押しするように、アルファルドが静かに言った。
「本当の私はここにしかない。この体の、ここにしか」
アルファルドが自分の胸元に私の頭を抱き寄せた。
聞こえてくる心臓の音。私は大剣寮の中庭でのことを思い出していた。これもあのときと同じだ。今のアルファルドもすごくドキドキしてる。
やっぱり、アルファルドはアルファルドだ。私の大好きな人。傍にいると、こんなにも胸が高鳴る相手。
だったら、変に意識する必要なんかないんだわ。
私は顔を上げ、アルファルドを見つめた。
「好きよ、アルファルド」
恋心を打ち明ける言葉は、ごく自然に口から出てきた。
「……奇遇だね」
アルファルドは艶のある笑みを浮かべた。
「私も君が好きなんだよ」
やっと聞けた、と思った。
私は驚きよりも歓喜に包まれていた。だって、そんなことは前から知っていたから。ずっと肌で感じていた。アルファルドがこんなにも私を大事にしてくれる訳を。その裏側に恋心があるってことを。
彼の優しい眼差しも、触れてくる指先の熱さも、そしてこの心臓の鼓動も、全部私への愛情の現われだ。それ以外の何物でもない。
「アルファルド……」
幸福のあまり頭の中に霞がかかったように、ぼうっとなる。私は自分でも気付かないうちに背伸びをしていた。そして、ゆっくりと彼の口元に近づいて……。
「ルイーゼ」
アルファルドが私の唇に人差し指を添える。その感触にハッとなった。
「私の言ったこと、覚えてる? セミ・プロムで告白して、プロムでその返事をもらうと幸せになれる、って」
アルファルドはイタズラっぽく微笑した。
「私は君を好きだと言ったけど、その返事をもらうのはプロムまで待つつもりだよ。それに、君の告白に私が返事をするのもね」
「……何よ、それ。まどろっこしいわ」
大胆なことをしようとしていたのが今になって恥ずかしくなり、私はアルファルドの胸に顔を埋めた。近くで踊っていた生徒に口笛を吹いて囃され、顔が赤くなる。
けれど、アルファルドはそんなに動揺した様子はない。
「だって、楽しみがある方がワクワクして過ごせるじゃないか」
平然とそんなことを言われ、私は口をすぼめる。そういう考え方もあるのかしら?
「……分かったわよ」
私は小さく頷いた。たまにはこういう遊びも楽しいかもしれないと思うことにする。
「じゃあ、プロムでさっきの告白の返事、聞かせてちょうだい」
「君も、私のことをどう思ってるのか教えてね」
お互いに見つめ合い、どちらからともなく笑い合う。体がほんのりと熱を持ってきた。
……確かにアルファルドの言ったとおりかもしれないわね。
今だってこんなに楽しいんだ。プロムでお互いの告白に返事をし合って、アルファルドと恋人同士になれたら、きっともっと素敵な気分になるに違いない。
優雅な音楽に身を任せながら、私たちのダンスは続く。まだ何ヶ月も先だけど、早くもプロムの日が楽しみでしょうがなかった。
けれど、今この瞬間も甘い夢を見ているみたいに心地よくて、それはそれで素晴らしいと思えてしまったんだ。