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二度目の魔法学園での生活で、元魔王の大切な人と相思相愛になりました  作者: 三羽高明
1章 二度目の魔法学園生活は、魔王討伐と共に
6/110

悲劇の少女(1/2)

 ミストに案内され、私は私室へと入った。


 広々としたワンルームには、机やベッド、その他の調度品が二つずつ置かれている。きっと、ここが二人部屋だからだろう。部屋の中央には、パーティションの代わりとして濃い紫のカーテンが垂らされている。


 床には毛足の長い薄紫の絨毯が引いてあるけど、廊下と同じく石でできた部屋だから、やっぱり少し息苦しさを感じずにはいられなかった。


「こっちがルイーゼちゃんのベッドで、こっちがアタシのね」


 ミストがカーテンを紐で引っ張り上げながら言った。どうやら私のルームメイトは彼女らしい。


「そうそう、手紙、届いてたんだった。はい、ルイーゼちゃん」


 やっと一息吐けたことに安堵していると、ミストが封筒を差し出してくる。私が何の気なしに封を破ると、中に入っていた便せんがほんのりと発光しだした。……あっ、これ、立体レターだったんだ。


『ルイーゼ! あなた、とんでもないことをしてくれたわね!』


 便せんの上に、手乗りサイズの幻の女性が現われた。私は思わず「お母様!」と口元を押さえる。


『学園から連絡があったときは、私もお父様も気を失うかと思いましたよ! 入学式の会場で暴れたですって!? きっと明日には、私たちは職場中の笑いものになっていることでしょう』


「お、お母様、違うの! あのね、魔王が……」


『魔王? 何を寝ぼけたことを言ってるの!? 魔王対策課の人みたいなこと言わないで! 罰として、今年度は実家に帰ることは許しません! 休暇中も学園に残って、自分のしたことをよく反省なさい! もし怪我をしたり、箒から落ちて死んでいたらどうするつもりだったの!? もっと自分の身を大切にしなさい!』


 幻のお母様は消え、便せんにはさっきの会話が文字として浮かび上がってきていた。あまりのことに私は頭を抱えたくなる。


「今の、ルイーゼちゃんのママ? 厳しそうな人だね。魔王対策課って何?」


「……大昔にできて今は形だけ残ってる部署よ。左遷された人たちとかが行くところ」


 私はガックリしながら手紙を封筒の中にしまった。


 そんな部署があることからも分かるとおり、現在では魔王の存在なんて誰も信じていなかった。お母様が私の話を否定するのも無理はない。


「ふーん? そんなのがあるんだ。ルイーゼちゃんのママたちの職場にある部署なの? 二人とも、お仕事は何を?」


「中央公安庁の長官と副長官よ」


「わあ、官庁勤め!? すごいんだね!」


「まあ……普通よ」


 謙遜しつつも、ちょっと鼻高々って感じだ。両親のことは好きだから、褒められて悪い気はしない。


 でも、すぐにさっきの会話を思い出してどんよりした気分になる。前回の――時間が巻き戻る前の入学式のときには、お母様もお父様もお祝いのメッセージカードをくれたのに、今回はお説教だ。


 しかも、今年度いっぱいは帰って来るな、なんて……。そんなことになったのも、全部魔王のせいだ。あいつ、絶対に許さない、と私は心に誓う。


「ルイーゼちゃん、大切にされてるんだね」


 私が引き出しの中に手紙をしまうのを見ながら、羨ましそうにミストが言った。ベッドの端に腰掛けて足をブラブラさせている。


「アタシの両親は、田舎で雑貨屋さんをしてるんだ。でもね、あんまり家族仲がよくないの。パパもママもケンカばっかりしてるし、アタシが何かしても、あんまり褒めたりとか、叱ったりとかしないんだよ。アタシ……どうでもいいって思われてるのかもね」


「そんなことないわ」


 私は思わず強い口調で反論して、ミストの隣に座った。


「二人とも、ミストのこと、すごく大事に思ってるわ。絶対そうよ。そうに決まってるわ」


「ふーん……?」


 必死で励ます私を見て、ミストはポカンとした後、少し笑った。


「ルイーゼちゃん、まるで見て来たみたいに言うんだね」


 だって、見たんだもの。


 言いかけて、私は口を閉ざした。こんなこと話しても、多分信じてもらえない。


 ミストは――今私の目の前で元気そうにお喋りしているこの子は、入学から一月もしないうちに死んでしまうことになるなんて。

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