セミ・プロム開催!(2/5)
「何か食べる? それとも、ダンスにする?」
会場に入ったアルファルドが尋ねてくる。少し声を張り上げているのは、周囲が人でごった返していてすごくうるさいからだろう。
セミ・プロムは学外の人を招待してもいい決まりだったから、今日の学園は普段よりもずっと人が多いはずだった。
「ダンスがいいわ」
アルファルドからの質問に私は即答する。
だって、もう少し長く彼と寄り添っていたかったから。
「分かった」
アルファルドに手を引かれ、私はダンスホールの階段を上る。壇上ではオーケストラが軽快なワルツを奏でていた。
アルファルドが私の腰に手を当てる。そのまま、慣れた足取りでステップを踏み始めた。
「アルファルド、結構上手いのね」
私は少し驚いた。
「学生時代はよく踊ってたの?」
「そんなことないよ」
アルファルドがかぶりを振った。
「教養の一つとして習ったんだよ。小さい頃の話だけどね」
なるほど。さすが名門の出身だ。多分『アルファルド』としても『サムソン』としても、彼は色々な作法を叩き込まれたんだろう。
「そのときは、誰かと踊る機会なんてないと思ってたけど……。ちゃんと勉強しておいてよかったな」
「そう思うなら、授業も真面目に受けたら? この間の魔法史の時間、あなた教科書の影に隠れてパフェ食べてたでしょう?」
「バレてた? 今度は小さい焼き菓子とかにしておくよ」
アルファルドが朗らかに笑う。
楽しげなリズムに合わせて、私たちはお互いの手を握りながらダンスホールの中を軽やかに進む。辺りはランタンの光で眩しく照らし出されて、何だか夢の中にいるような気分になってきた。
ふわふわと体が宙を漂うような高揚感に包まれて、私はいつの間にかはしゃいだ笑い声を飛ばしている。
ああ、セミ・プロムってなんて素敵なんだろう! ずっとこの時間が続けばいいのに!
私の弾んだ気持ちが伝わったのか、会場の様子を念写用の魔法具で撮影していた人が、「一枚、よろしいですか?」と話しかけてくる。
私とアルファルドは了承して、ダンスしているところを撮ってもらった。
箱状になっている魔法具の口から一枚の念写が出てくる。アルファルドがそれを受け取って魔法で二枚に増やし、片方を私にくれた。
「宝物にするわ!」
私は念写を握りしめて微笑んだ。この楽しい時間がこうして形になって残ったことが、何よりも嬉しかった。
アルファルドは「私も」と言って、念写をローブのポケットにしまう。
しばらくして曲が終わり、私とアルファルドは頬を上気させながらダンスホールの外に出た。
「飲み物、持ってくるね。ここで待ってて」
私を近くの椅子に座らせ、アルファルドは料理が乗ったテーブルのある天幕の方へと向かっていく。私は汗でうなじに張り付く髪を掻き上げながら、辺りを見回した。
向こうからゾロゾロと団体が歩いてくる。先頭にいる鼻ピアスの真っ赤なドレスの女の人は……ニケ副学級長だわ。
ニケ副学級長は、少なくとも二十人はいそうな大勢の男子生徒を従えている。しかも、全員背が高くて逞しい体付きのナイスガイだ。一体どこで調達してきたのかしら?
一方、彼女の姉のフューケ学級長は、これまたたくさんの男子生徒を後ろに引き連れて、一人の男子と食事の真っ最中だった。
あれが噂の彼氏かしら? アニマル模様のローブを着ている人だ。今日のフューケ学級長のネイルとお揃いの柄だし、結構仲がいいカップルみたいだ。
次の曲が始まって、また皆がホールに登ってくる。その中にソーニャ先生の姿もあった。そのお相手は筋骨隆々の男性だ。半分オークの血が入っているらしくお世辞にも綺麗な顔とは言いがたいけど、ソーニャ先生は彼のことを恍惚とした目つきで眺めていた。
あの人、ソーニャ先生の夫なのよね。夫妻のことを、近くにいた一年生の男子がショッキングな目で見ている。そんなパートナーに愛想がつきたのか、彼とダンスをしていた女子生徒はさっさとどこかへ行ってしまった。
もうほとんどの生徒が会場入りしたらしく、パーティーはますます賑やかさを増していく。壇上では、ミストがデューやヨシュアと三人で陽気に踊っていた。
アルファルド、早く戻って来ないかしら? 元気いっぱいに跳ね回るミストたちを見ているうちにまたダンスがしたくなってきて、私はソワソワした。