セミ・プロム間近(2/3)
「……アルファルド、今何て言ったの?」
「私とセミ・プロムに行かないか? って言ったよ」
平然と返され、私は思考が停止した。さっきまでアルファルドが立っていた通路を見つめる。
「で、でも、あの女の子は……?」
「ああ、見てたの?」
アルファルドは苦笑した。
「困るよね。あんな申し出をされるの、彼女で五人目なんだよ」
ご、五人!? 私の知らないところでアルファルド、そんなに声かけられてたの!?
それなのに今さら狼狽えるなんて、私、なんてバカだったのかしら!? もっと早くに危機感を覚えるべきだったんだわ!
「もちろん、皆断ったけどね。ルイーゼと出たいなって思ってたから」
「私と……?」
「うん。……君が嫌じゃなかったら、だけど」
「い、嫌なわけないわ!」
私は思わず立ち上がった。頬が紅潮して、心臓がドキドキしてくるのを感じる。
「私もアルファルドとセミ・プロムへ行けたらいいなって思ってたの! でも、中々言い出せなくて……」
「そうだったんだ」
アルファルドはちょっと目を丸くした。
「ルイーゼは何も言ってこないし、もしかしたら先約があるのかと思ってて……。さっきもダメ元で誘ってみたんだよ」
「そんなのいないわ」
私は顔を手のひらであおぎながら椅子に座り直した。妙に体が熱い。
「私、昔から全然モテないのよ。分かるでしょう?」
「……分からない」
アルファルドは未知の生物と遭遇したような顔になった。
「君みたいに魅力的な子はいないよ。綺麗だし、強いし、格好いいし、頑張り屋だし……。本当に人気がなかったの? 皆、見る目がないんだね」
「別に……それは……」
いつものことながら、アルファルドは堂々と私を褒める。私はまた顔を伏せながら、靴の中で足の指を閉じたり開いたりして恥ずかしさを誤魔化した。
だって私、人目を引くほど美人ってわけじゃないし、強いって言っても勝てない相手もいるし、本当に格好よかったら魔王化を止める方法だってとっくに見つけてるだろうし、頑張ってるのはアルファルドも同じなのに……。
だけど、そんな私をアルファルドは『魅力的』だと感じてくれてるんだ。そう思うと、少しだけ表情が緩んだ。
「アルファルドだって素敵よ」
私はクスクスと笑った。何だかとても幸せな気分だ。
「一緒にいて楽しいわ」
「……私もだよ」
アルファルドは柔らかく微笑んだ。そして、『エルキュール魔法学園のセミ・プロムとプロムの全て』に目を落とす。
「ルイーゼ、セミ・プロムで君に言いたいことがあるんだ」
アルファルドが今度は意味深な目つきで私を見た。
「聞いてくれるかな?」
「そ、それって……」
私は直感した。さっきアルファルドが言っていた『セミ・プロムで告白して、プロムでその返事をもらったカップルは末永く幸せになれる』という言葉。彼はそれを実行に移そうとしているんだ。
しかもその相手は私だった。私は声を上ずらせながら身を乗り出す。
「もちろん聞くわ!」
私は首が取れてしまいそうなくらい激しく頷いた。頭で考えるよりも先に、言葉が口をついて出てくる。
「それに、私も言いたいことができたの! 聞いてくれるわよね、アルファルド?」
「……もちろんだよ」
多分、アルファルドも私が何を話したいのか理解したんだろう。緑の目が艶っぽく潤んでいる。
ああ、どうしよう。カレンダー、用意しようかしら? セミ・プロムまでの日数を数えるのに便利そうだし。
皆が浮かれている理由を肌で感じた私は、これからはあの人たちのことを迷惑だなんて思うのはやめようとこっそりと誓ったんだ。