コウモリの学級の救世主に乾杯!(2/2)
「アネゴ、すごいですね。俺たちのボスと仲良くなっちゃうなんて」
ヨシュアが感心したように言う。彼のライオンバッジもしっぽを振っていた。
「それに今回の犯人検挙で、また伝説が一つ増えたじゃないですか! きっと新聞部からも取材が来ますよ!」
「インタビューの練習、今からしといた方がいいんじゃないっすか?」
「そんな大げさな……」
私は苦笑いしてヨシュアたちにキーレムの頭を押しつけた。でも、フューケ学級長は真剣な顔で「そんなこともないだろう」と言う。
「君は今回の件で注目を浴びたんだ。セミ・プロムには皆君を誘いたがるんじゃないか?」
「セミ・プロムって?」
私の隣で話を聞いていたミストが首を傾げる。
えっ、知らないの!? と私は目を丸くしたけど、よく考えたらミスト、まだ一年生だもんね。この学園の行事とか把握してなくて当然だ。
「エルキュール魔法学園の『三大皆が楽しみにしてる催し物』の一つっすよ!」
デューがはしゃぎながら説明してくれる。
「夏休み終わりのセミ・プロムナード! 冬前の黄金杯争奪戦! それから学期末のプロムナード!」
「セミ・プロムとプロムはパーティーみたいなものだな。黄金杯争奪戦は……探し物大会だろうか。開催間近になったら学園から知らせがあると思う」
フューケ学級長が補足する。
「わあー! パーティー! 楽しそう!」
ミストがはしゃいだ。でも、デューは「楽しいだけじゃないっすよ」と苦笑いする。
「この学校行事も、言い換えたら『争奪戦』っすからね。一緒にパーティーに行ってくれる相手を巡る」
「そうそう、可愛い子から先に取られちゃうんですよ!」
デューとヨシュアは真剣な顔だ。私は思わず腰に手を当てる。
「別に一人とか、友だち同士で出席したっていいのよ」
私もそうしてたし、と心の中で付け足した。だけどニケ副学級長は「でも、やっぱりここは見栄とか張りたいじゃん?」と茶々を入れる。
「あたしは去年十五人の男を引き連れて会場入りしたぜ?」
「私は十六人だった。……私の勝ちだな」
フューケ学級長はちょっと誇らしそうに言った。ニケ副学級長が「彼氏と一緒なのに、後ろからぞろぞろ男たち引き連れて歩くのもどうかと思うけど」とツッコミを入れる。
「で、アネゴはどうするんですか?」
「オイラたち、アネゴの後ろに引っ付いて出席してもいいっすよ?」
さすが舎弟コンビだ。デューもヨシュアも、こんなときまで私に気とか使わなくていいのに……。
「気持ちだけ受け取っておくわ」
せっかくだけど、私は二人の申し出を断った。だって、私がセミ・プロムに一緒に行きたい相手って言われて、真っ先に思い浮かべた人は……。
「ぎゃー! サムソンくん! しっかりしてー!」
悲鳴が聞こえて振り返る。アルファルドが床に倒れていた。
「な、何があったの!?」
「分かんない! これ食べたら急に倒れて……!」
アルファルドを介抱している女子生徒が、狼狽えながら彼が持っていた野菜スティックを指差す。さっきフューケ学級長が差し入れてくれたバーニャカウダ用のものだ。
「うわ、姉ちゃん、またやったの?」
ニケ副学級長が駆け寄ってきて、やれやれと首を振った。
「さすが料理部を三時間でクビになった奴はやることが違うわ」
「……おかしいな。食べられないものは少ししか入れてないはずなんだが……」
フューケ学級長は顎に手を当てて心底不思議そうな顔をした。量にかかわらず、食べれないものを料理の中に入れないでください!
「この失敗は次に生かそう」
「そんな前向きなことを言ってる場合ですか!」
私は叫んだ。アルファルドは「お星様が見える……。きらきらだ……」とうわごとを呟いている。
「誰か解毒して! 劇薬研究会!」
「はいはい、お任せです~!」
薬草が入った入れ物を抱えた生徒たちがやって来る。最後尾は大釜を魔法で飛ばす男子生徒だ。
その手元が狂ってしまい、天井のシャンデリアが吹き飛んだ。辺りは一気に真っ暗になってしまう。女子生徒が「きゃー!」と絶叫した。
まったく、どうしてコウモリ寮じゃ、パーティー一つまともに開けないのかしら!?
そんなふうに思いながらも、この騒がしさにもすっかり慣れてしまった私は、シャンデリアを修復するために杖を一振りした。