眠れなくなるくらいのときめきを(2/2)
ま、待って、待って、待って……!
心臓が狂ったように暴れている。私は石像みたいに固まってその場から動けなかった。
夢の世界に片足を突っ込んでいるときに誰か来たと思ったら、抱きしめられた。びっくりして一気に眠気が吹っ飛んでしまったわけなんだけど、その相手が誰なのか分かった途端に、『びっくり』じゃすまなくなってしまったんだ。
だ、だって、アルファルドがそんなことしてくるなんて……! いくら私が寝てると思ったからって、自由に振る舞いすぎよ!
ああ、どうしよう、どうしよう! こんなことなら眠ったままでいたかったわ! 心臓が破裂して死んじゃいそう!
「可愛い、ルイーゼ」
ぎゃあああっ! また言ったわね!? そんなに何回も『可愛い』って言わないでよ! 一回聞いたら十分だわ! はいはい、私は可愛いですよ! 分かったからもうやめて! しかも今度は耳元で囁いてくるなんて反則じゃないの!? 実際に叫ばなかったのが奇跡だわ!
もう! 無理、無理、本当に無理っ! こんなことずっと続けてたら、おかしくなっちゃうわ!
なのに体が動かないなんて……! アルファルド、きっと私に石化の呪文をかけたのね! そうに決まってるわ!
うう……もうダメ。恥ずかしくて変になりそう。アルファルドは相変わらず余裕たっぷりって感じなのに、私の方は壊れそうなくらい心臓をバクバクさせてるし……。
……ちょっと待って。これ、私の鼓動なの?
背中からも……伝わってきてない?
……そうだわ。間違いない。アルファルド、すごくドキドキしてる……。
そのことに気が付いた瞬間に、私は今まで思い悩んでいたことが一瞬で解決したのを感じた。
ときめいてたの、私だけじゃなかったんだ。一人で狼狽えてバカみたいって思ってたけど、アルファルドだって内心ではすごくドキドキしてた。もしかして……今だけじゃなくて、私といる間、ずっと?
そうだったら嬉しいし、何となくそうじゃないかなって気もした。私たち、お互いにこんなにも強く惹かれ合っているんだ。
そう思うと、何だかまた鼓動が早くなってきた気がした。
でも、もうそのことで戸惑ったりはしない。むしろ、心地よく感じてしまう。
「本当に可愛いよ、ルイーゼ」
……もう、まだ言うの? でも、今度はオタオタする気持ちよりも嬉しさが勝った。だって、自分の好きな人に褒められて舞い上がらない子なんかいないでしょう?
この幸せな気分に浸っていたくて、私はもう少しだけ眠ったフリをして、アルファルドの腕に身を預けることにしたんだ。