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二度目の魔法学園での生活で、元魔王の大切な人と相思相愛になりました  作者: 三羽高明@『廃城』電子書籍化
2章 二度目の魔法学園生活で、元魔王と青春のやり直しを
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眠れなくなるくらいのときめきを(1/2)

「ああ、疲れた……」


 大剣寮の中庭に生えている大きな木に私は寄りかかった。


「やっぱりいい腕してんな! ルイーゼ!」


 そんな私の隣に、箒を肩に担いだ大剣の学級のニケ副学級長が、輪っか型の鼻ピアスを揺らしながら座る。


「一年であんなヤベェ旋回する奴、あたし見たことねぇよ! 壁にぶつかるスレスレで急ターンしたりさ。あたしの動きについてこれるってだけでもすげぇのに」


 私が箒で大剣寮の談話室に突っ込んでから十日が経っていた。


 その日から宣言通り、私は学級長姉妹の雑用係をして過ごしている。


「あたし、これから走り込みに行くんだけど、一緒にどう?」

「け、結構です……」


 私は顔を引きつらせながら首を横に振った。この体力お化けに付き合っているせいで毎日筋肉痛だ。


 ニケ副学級長は、何でも空中競技部と反キーレム同好会と陸上魔法球技部を兼部しているらしい。雑用係の仕事の一環として毎日彼女の朝練に同行している私は、もうこれだけでヘトヘトだった。


「昼からは姉ちゃんがあんたを借りたいってさ。魔法式格闘部の特訓したいんだって」


 フューケ学級長も穏やかそうに見えて、所属している部活は中々過激だった。『魔法式格闘部』って要するに、決闘をする集まりだもんね。


「あんたさ、大剣の学級に移ってみない?」


 ニケ副学級長は、大木にもたれかかっている私の頬を箒の柄でグリグリしている。


「ルイーゼなら根性あるし、うちの三番目のボスくらいにはなれるぜ? でっかい部屋にも住めると思うし」


 どうやら『弱肉強食』がモットーの大剣の学級は、部屋さえも実力で勝ち取るらしかった。弱い生徒は……というか一年生のほとんどは部屋の争奪戦に負けて、この中庭や廊下でテント生活を送っているとのことだ。


 『ボス』にも強い生徒しかなれないみたいだけど、この姉妹はまだ五年生だっていうから恐ろしい話よね。


「……私、コウモリの学級の方がいいので」

「そう? まあ、気が変わったら言ってくれよな」


 ニケ副学級長はほっぺグリグリに飽きたのか、次の鍛錬に向かっていった。私はやれやれと思いながら芝生の上に寝転ぶ。


 大剣寮の中庭は、ちょっとしたグラウンド並みの広さだ。その真ん中には、この学級の名前の由来になっている岩に刺さった大きな剣のオブジェが置かれている。大昔に邪悪なドラゴンを倒した騎士が使っていた武器のレプリカらしい。


 その近くでは、大剣寮の番犬のヘルハウンドが寝ていた。体のあちこちから火が出ている魔物だ。って言っても、見た目ほどは熱くない。冬に一緒に寝られたら嬉しいくらいの温度だ。首輪には『低温やけど注意』って書いてあるけどね。


 そんなことを考えているうちに、私は瞼が閉じてくるのを感じた。木陰が丁度いいくらいの涼しさだからかしら?


 昼からもフューケ学級長の訓練に付き合わないといけなんだから、今のうちに休んでおこう。


 そう思いながら、私は押し寄せてくる眠気に身を任せた。



****



「ルイーゼ、いるかい? ルイ……」


 私が大剣寮の中庭へ入ると、木陰でルイーゼが横になっているのが見えた。


「寝てる……?」


 しっぽを振って走ってくるヘルハウンドの頭を撫でながら、私はルイーゼの傍に腰掛けた。


「魔法史の宿題、教えてもらおうと思ったんだけどなあ……」


 わざわざ起こすのも悪いかな? 私は自分の腕を枕にして寝ているルイーゼを見つめる。


 ルイーゼは規則正しい寝息を立てながら肩を上下させていた。その白い頬に木漏れ日が影を作っている。私は彼女の顔にかかっている明るい金髪を横に流してやった。


 いつもキラキラと輝いている澄んだ水色の瞳。その透き通るように鮮やかな色が見えないのは少し残念だけど、寝顔の方が貴重だからこの機会にしっかりと拝んでおこう。


 改めて見てみると、ルイーゼは意外とあどけない顔立ちをしていた。頬の辺りがまろやかで、ふっくらとしている。中身はともかく、体は十四歳だからなのかもしれない。


 いつもの強気な彼女もいいけど、こういうリラックスした表情にはそれとは違った魅力がある。いつまでも眺めていたいっていう意味では変わらないけどね。


「可愛いよ、ルイーゼ」


 私はルイーゼの隣に身を横たえて、彼女を後ろから抱きしめた。案外柔らかい体つきだ。ふかふかのクッションみたいで気持ちがいい。


 私はルイーゼに恋してるのかもしれない。


 前に彼女を恋人にしてもいいって言ったことがあったけど、今もそのときと同じ気持ちだ。と言うよりも、一緒にいる度彼女に惹かれていくのを感じる毎日だった。


 うーん……。これってもしかして、『恋人にしてもいい』っていうより、『恋人にしたい』とか『恋人になりたい』の方が近いかもしれない。


 ルイーゼは私のこと、どう思ってるんだろう?


 今度機会があれば聞いてみようかな?


 いかんせん友だちだけじゃなくて恋人もいたことがないから、こういうときどんな手順を踏めばいいのか私にはよく分からなかった。


 恋は青春っぽいってルイーゼは言っていた。難しいんだな……青春って。


 でも、とても楽しいということだけはよく分かる。きっとルイーゼが一緒にいてくれるお陰だ。


 そんな彼女が恋人になってくれたら、もっと素晴らしいんだろうなあ。


 そう思ったら、すぐにでもルイーゼを揺さぶり起こして自分の気持ちを告げてみたいという衝動に駆られてしまうけれど、今はこうして後ろから抱きしめるだけで我慢しよう。


 だって、お楽しみは後に取っておくものだから。


 私は軽く笑いながら、指先でルイーゼのきらめく金髪を弄んだ。

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