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二度目の魔法学園での生活で、元魔王の大切な人と相思相愛になりました  作者: 三羽高明@『廃城』電子書籍化
2章 二度目の魔法学園生活で、元魔王と青春のやり直しを
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森だろうが空だろうが、逃がさない!(1/4)

「アルファルド、起きて、アルファルド!」


 真夜中。私の声がコウモリ寮の男子部屋が集まる区画に響く。


「アルファルド!」


 私はアルファルドの部屋のドアをほとんど蹴破るようにして開き、室内へと突進した。


「大変よ!」


 私はアルファルドの布団を引っぺがして、彼の上に馬乗りになった。アルファルドは「うーん」と苦しそうに唸って、眠そうな目で私を見る。


「ルイーゼ……急用じゃなかったら、明日にして欲しいんだけど……」

「急用よ!」


 私はアルファルドの鼻先に地図を近づけた。


「いるのよ! 森にオスカーが!」


 クレタの森の地図上に、『十一』と書かれた文字が光っている。本来ならキーレムを管理する番号だけど、アルファルドが細工してオスカー追跡用に変えたものだ。


「ほら、起きて! 服を替えてちょうだい!」


 私はアルファルドをベッドの外に連れ出した。


 アルファルドはフリルのついた高級そうな寝間着の腰紐をのろのろと解く。


 お坊ちゃまみたいな服……と思ったけど、彼、そう言えばいいところの出身だったわね。私服だって、ドレスシャツにクラバットっていうパーティーファッションみたいなものを着てるし。……その前に、ここで裸になろうとしないでよ!


 いや、呑気なことを考えてる暇はなかったんだわ!


 寝ぼけて普段はしないようなボケをかますアルファルドに困惑しつつも、私たちはコウモリ寮の屋上にある離発着場へ向かい、箒に乗った。


 夏の生ぬるい夜風に当たっているうちにアルファルドの頭も段々と冴えてきたみたいで、はっきりした口調で質問してくる。


「オスカーは、森にはいつから?」


「分からないわ。ウトウトして目を覚ましたときには、もう森に『十一』があったから」 


 眼下にクレタの森が見え、私たちは箒を降りた。魔法で火球を出して辺りを照らし、森の中に入る。もう深夜の森に来るのは二度目だから、ここに足を踏み入れることへの恐怖心も多少は薄まっていた。


「オスカーは黄金のリンゴの木が生えてるところにいるわ」


 つまりこの森の最深部、第三区画だ。


「もしかしたらノイルートも一緒かも。用心しないと……」


 私の傍をドラゴンみたいに大きな体のビヒーモスという魔物がのっしのっしと歩いて行く。草食だしそこまで危険な生き物じゃないけど、ビヒーモスは第一区画にはいないはずだ。


 やっぱり今、結界は解除されているんだろう。私は歩調を速めた。


 間もなく、第一区画と第二区画の境目がやって来る。向こう側がぼんやりとした膜で覆われてるみたいに見えるから、すぐに分かった。


 でも、その一部だけが穴が空いたようにぽっかりと結界がなくなっている。どうやらオスカーたちは結界を全部破ったんじゃなくて、一部だけ解除したみたいだった。確かにこっちの方が手間も少なくてすむものね。


「待ち伏せしないか?」


 アルファルドが提案してくる。


「ここから入ったのなら、出るときだってここを使うはずだ。だから闇雲に探すよりも……」


 結界の向こうから話し声がして、アルファルドは黙った。私たちは示し合わせたような動きで、同時に近くの草むらに隠れる。


「今日もたくさん取れたね」


 オスカーのちょっとおどおどした声が聞こえてきたのは、それからすぐのことだった。


「ボクたちって、本当にいいコンビだね。今日は助かっちゃった。解析に手間取ってるところにラドンが来て、もうダメかと思ったけど、ヘルマンくんが機転を利かせてくれたおかげで何とか逃げられたし……。ありがとう」


 オスカーは不自然に膨らんだローブを揺すりながら嬉しそうに話している。きっとリンゴを隠し持っているんだろう。それに対し、ノイルートは上の空で「よかったですね」と返事していた。


 二人とも、近くに人が隠れているなんて気が付いていないらしい。完全に油断したその姿を見て、私はアルファルドと目配せした。


 二人で一緒に茂みから飛び出す。私は大声を出した。


「失神しなさい!」


 杖先から光線がほとばしり、オスカーが倒れる。けれど、ノイルートは無事だった。あいつ今、オスカーのこと盾にしなかった!?


 ノイルートは私たちが次の魔法を放ってこないうちに逃げ出した。私とアルファルドはその後を追う。


「待ちなさい! ……石化せよ!」


 私はノイルートの動きを止めようとしたけど、障壁の魔法で弾かれてしまった。そう言えば彼、防衛魔法学の成績もよかったんだっけ。


「アルファルド、何かやって!」


 私一人じゃ捕まえ損ねるかもしれないと思い、味方を頼ることにする。


「アルファルド、さっき二人を奇襲したときだって、何もしなかったでしょう!? 手加減なんていいから早く!」


「うーん……そのことなんだけどね、ルイーゼ」


 アルファルドは私の隣を走りながら、困ったように頬に手を当てた。


「いい知らせと悪い知らせがあるんだ。どっちを先に聞きたい?」

「……何よ、それ。……じゃあ、いい知らせから」

「君が実戦を経験するチャンスが増えたよ」

「……悪い知らせは?」

「杖を寮に置いてきた」


 まさかの言葉に、私はあんぐりと口を開けそうになった。


「置いてきたって……何やってるの! 杖の携帯なんて常識でしょう!」


「君が寮を出るときに急かすから……」


「だとしても普通は忘れないわ! あなた、お財布を持たないで買い物に行くの!?」


「どっちかっていうと、丸腰で戦場へ行く、の方が近くないかな?」


「どうでもいいわ、そんなこと!」


 私が絶叫するのとほとんど同じタイミングで、森の出口が見えてきた。


 ノイルートはその辺に転がっていた箒にまたがって、月夜の空へと飛び上がる。


「それ、私のよ!」


 地上に取り残された私は愕然としたけど、アルファルドがすぐに自分の箒を掴んで「乗って!」と促してきた。ああ、そうか! まだ彼の箒があったんだわ!

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