もっと早く言ってよ!(2/3)
「じゃあルイーゼちゃん、また夏休み明けにね~!」
前期の授業が全て終わり、帰省する生徒が大きな荷物と一緒にバタバタと正面玄関から出て行く。私はミストを見送った後、図書館へ向かった。
「あっ、アルファルド……」
そこで私は見知った顔に出会う。アルファルドは読んでいた本から目を上げて微笑んだ。
「あなたも残るんだっけ」
「帰っても楽しくないしね」
アルファルドは肩を竦めた。
「どうせ九頭団の変な実験に付き合わされるだけだよ。まあ、成功しないだろうけど」
「……九頭団って、魔王復活についてどのくらいの段階まで研究を進めてるの?」
気になることを私は尋ねた。
このままだと六年後に魔王は復活してしまう。けれど、あのときの魔王化も多分完全じゃなかったと私は結論づけていた。だって完璧に魔王だったのなら、他の人に――私に救いを求めるなんてしないはずだから。
そんな状況だったから、今のところは大丈夫だと思いたかったけど……。不安なものは不安だ。
もし何かきっかけがあって九頭団が魔王を完全に復活させる方法を見つけてしまったら、きっとそれをすぐにでも行使するだろうと思うと落ち着かない。
「よく知らないけど、そこそこのところまでは来てるんじゃないかな?」
アルファルドは首を捻る。
「確か、私は君の卒業式の日に魔王になってしまうんだよね? ……舞台設定からして、九頭団は恐ろしいことを考えるよ。いにしえの怪物が蘇り、多くの未来ある者たちの命が奪われた。これほどおぞましい事件があるだろうか? さあ、皆、恐怖せよ。我らに従え……」
アルファルドは芝居がかった口調で言って、椅子の背もたれに体重を預けた。
「そんな未来は絶対に迎えてはいけない。止めないと……」
私はアルファルドが読んでいた本に目をやった。あらゆる変身呪文が載った図鑑だ。
私はアルファルドの魔王化が一種の変身魔法と呼べるんじゃないかということについて、彼に話しておいた。だったら魔王化を解くカギも、その辺にあるはずだ。どうやらアルファルドもその線で調査をしているらしい。
「何か有力情報、あった?」
「今のところは特に」
アルファルドは本を閉じる。
「変身魔法の解き方って、一般教養の外にある知識だからね」
アルファルドはため息を吐いた。
「でも、この図書館は広い。一生かかるよ、ここから必要な情報を取り出すのは」
「そんなに待てないわ。魔王が出現するのは六年後なのよ」
私は唸る。アルファルドが「それじゃあ……」と腕組みした。
「困ったときはあそこに頼るしかないか」
「あそこ?」
「奇書研究会だよ」
アルファルドは席を立ちかけて、「ああ、でもダメだ」ともう一度座り直した。
「あそこの研究長、実家に帰ってるんだった。さっき大広間ですれ違ったんだ。残ってる研究員もいるかもしれないけど、あの人みたいに部室にある全部の本について詳しくはないだろうし……」
学園に残れるのはチャンスって思ってたけど、そんなことなかったかもしれないわね……。間が悪すぎるとしか言いようがない。