もっと早く言ってよ!(1/3)
「ルイーゼちゃん、中間試験の結果、貼り出されてるよ!」
本格的な夏が始まる季節。校舎の大広間には人だかりができていた。
「ルイーゼちゃん、すごいね。どの科目でも上位じゃん!」
掲示板に目を通したミストが黄色い声を出す。私は「ありがとう」と礼を言っておいた。
確かにミストの言うとおり、私はほとんどの教科で一番だったけど『タイ』なのよね、アルファルドと。それに、彼の方が成績がいい科目もあるし。……って言うか、錬成術の点数『一〇五点』って何よ。あのテスト、百点満点のはずなのに……。
それに私の予想通り、魔法史の順位表の彼の名前は下から数えた方が早いくらいのところに載っていた。ちゃんと勉強しなかったのかしら?
……いや、待って。もっととんでもないことに気が付いちゃったわ。ミストの魔物学の点数、私やアルファルドよりもいいじゃない! 『一一〇点』……?
「あのね、試験の内容、『ピクシーたちを三分間一列に並ばせる』っていうのだったでしょ?」
私が事情を説明して欲しそうな顔になっているのに気が付いたのか、ミストがのんびりした声で訳を話してくれる。
「でも、三分もじっとしてるの暇かなって思ったから、アタシ、ピクシーさんたちに冗談で「踊ったりしててもいいよ」って言ったんだ」
「踊り?」
「うん。そうしたらピクシーさんたち、それを真に受けて一列に並んだまま息の合った創作ダンスを始めちゃって……。ソーニャ先生が『面白かったから』って言って十点おまけしてくれたの」
なるほどね。さすが魔物たちを従えちゃう獣王体質だ。天賦の才には叶わないわね。
「アネゴ~。いっぱい一位、おめでとうございます!」
「俺たち、やりましたよ! アネゴに教えてもらったお陰で、全教科平均点より上です!」
人波が割れて、舎弟コンビのデューとヨシュアがやって来る。二人ともこぼれそうなくらいの笑顔だ。
「これで帰省したときに母ちゃんに叱られずにすむっす!」
「俺、この夏は海へ行く予定なんですよ。アネゴは旅行とかするんですか?」
「どこへも行かないわ」
夏休みの話題が出て、私は少し暗い顔になる。
「私、学園に残ることになってるから」
入学初日にお母様からもらった手紙を思い出す。入学式をめちゃくちゃにした罰として、今年度は帰省するなと言われてしまったんだ。
「アネゴ、お土産いっぱい買ってくるから元気出してください」
ヨシュアが同情的な顔になった。私は「気を使わないで」と苦笑いする。
これはチャンスだと努めていい方に考えようと思っていた。だって、私はまだアルファルドの魔王化を止める方法について大した手がかりを掴んでいなかったから。
それに、学校に残る生徒たちの名簿の中にオスカーとノイルートの名前もあったんだ。
きっとあの二人、休みの間もこっそり森へ入る気に違いなかった。だって学内に人が全然いないんだから、こんなチャンスって他にないじゃない?
まだあの二人の尻尾を掴めていなかったから、この機会にぜひとも何か成果を上げたかった。
ふとあることが気になって、私はまた掲示板に目をやる。視線を向けたのは、三年生の順位表が貼られているコーナーだ。
……あった。解析魔法学のテスト、やっぱり一位はオスカーだ。
でも……何だか変ね。呪文学のテストじゃ、彼、そんなにいい点は取れてないのに……。この成績がよくないと、いくら森にかかってる結界を解く方法を導けたって、それを実行には移せないはずだ。
……あら? 呪文学の一位は……『ヘルマン・ノイルート』? ……なるほどね。そういうことか。
やっぱりあの二人、共犯なんだわ。オスカーが結界を解く方法を考えて、それをノイルートが実行に移してる。連携プレーってやつね。
ノイルートは防衛魔法学でも一位を取っていた。だからきっと、危険な魔物がうようよしている第三区画へ足を踏み入れても、今まで何ともなかったんだろう。
それに卓越した解析魔法学の才能があれば、魔物が近づいてくることも事前に察知できるかもしれない。二人はお互いの長所を生かして今まで犯行に及んできたんだ。