怪しい彼らの関係は(3/3)
「……っていうことがあったのよ」
その日の夕食中、私は食堂でアルファルドの向かいに座り、昼間見たことを彼に話していた。
「ノイルートもきっと今回の事件に関わってたんだわ。『あなただって利益を得ているのに』って要するに、『自分だけじゃなくてあなたも得をしてるのに』ってことだもの」
私はコンソメスープを強くかき回す。中身が少しこぼれて、テーブルクロスに濃い染みができた。
コウモリの学級の食堂も天馬の学級の食堂と大して違わなかった。
壁際には色々な料理が乗ったテーブルが置かれていて、生徒はそこから好きなものを取って食べてもいいことになっている。でも、コウモリの形をしたワッフルなんかはこの学級限定メニューかもしれない。
「つまり、二人が結託して何かしてるってこと?」
アルファルドが食後のデザートにアップルパイを頬張りながら尋ねてくる。彼の前に置いてあるお皿には、他にもマフィンやらプディングやらタルトやら……。食事はもう終わったのに、まだそんなに食べる気なの?
「友人同士の悪巧みか……。何が目的なんだろうね?」
「友人、ねえ……」
私は頬杖をつく。
「友人っていうふうには見えなかったわ。オスカーは脅されてるのよ」
ということは、主犯はノイルートってことになるのかしら? オスカーは片棒を担がされてるだけ?
「そう言えばその二人なら、郵送用のガーゴイルが飼われている建物の近くで見たよ」
アルファルドは紅茶を飲みながら、思い出したように言った。
「二人とも、小包を抱えていたな。これから出しに行くところだったみたいだ。すれ違ったときに甘い匂いがしたよ」
「甘い匂い?」
「うん。この間、水蛇寮へ行ったときに調合室へ入ったよね? そこで嗅いだのと同じ匂いだった」
「……それ、黄金のリンゴで作る薬か何かの匂いかもね」
私はオスカーが読んでいた『有用植物大全』のことを思い出していた。
「黄金のリンゴはちょっと珍しい植物だもの。あの二人はきっと……黄金のリンゴで薬を作って、それを売りさばいてるんだわ!」
私は肉巻きパンをむしゃむしゃと食べながら大きく頷いた。前に水蛇寮へ行ったときには、大釜なんかの調合用の設備は二人分使われた形跡があった。きっと、オスカーとノイルートが一緒に薬を作っていたんだろう。
「絶対そうよ! オスカーの着てるローブってボロボロだったし、あの子の家、きっと貧乏なんだわ! お金が欲しかったのよ! ……そうだとするなら、これって結構な問題よ!」
私は顔をしかめる。
「学校に生えてる植物を勝手に売るなんて、よくないことのはずよ。二人もそれを分かってる。だから隠したがってるんだわ!」
そうと分かれば、今すぐ先生に報告しに行かないと! 私は席を立ちかけた。
でも、すぐに思い直す。
だって私、入学式の一件ですっかり信用を落としてたんだもの。そんな私が彼らを告発したって、取り合ってもらえないに決まってる。証拠でもあれば別だろうけど、そんなものは今のところは皆無だし……。
「なるほどね」
私の推測を聞いたアルファルドはマフィンから顔を上げて、こっちをじっと見た。
「……ルイーゼ、ついてるよ」
アルファルドの手が伸びてきて、私の口元を汚していた肉巻きパンのソースを拭う。その拍子に彼の指が唇に触れて、私は少し狼狽えてしまった。
でも、それで終わりじゃなかった。アルファルドはそのソースをペロリと舐めてしまったんだ。
「い、言ってくれたら自分でとったのに!」
飲んでいた水をローブにこぼしそうになるくらい慌ててしまった。アルファルドはその様子を見てクスクスと笑っている。
「ごめんね。美味しそうだったから、つい」
「そんなに欲しいならパンくらいあげるわよ!」
私は自分のお皿の上に置いてあった肉巻きパンを掴んで、アルファルドの口に押し当てた。
その直後、また真っ赤になる。だってこれ、私の食べかけだったんだもの! 肉巻きパンって手で千切るような料理じゃないから、当然かぶりついて食べるしかないわけで……。
「と、とにかく、あの二人がすごく悪いことをしてたっていうのなら、余計に放っておけないわ!」
これ以上ここにいたらまた何かやらかしそうだったから、私は急いで席を外すことにした。
「絶対に捕まえるわよ! いいわね、アルファルド!」
私はそう言いながら食堂を出る。その直前、アルファルドがさっきの肉巻きパンを平然と平らげようとしているところを見てしまって、また恥ずかしくなってしまった。