怪しい彼らの関係は(2/3)
私はひっそりとその教室の窓に近づいた。オスカーは誰かと喋ってるみたいだった。メガネをかけた男子生徒だ。
……ちょっと待って。あの子確か、図書館で私たちを注意してきた人じゃない? 確かノイルートとかいう名前の……。
あの二人、知り合いだったのかしら? 興味をそそられた私は、音声拡大魔法でこっそりと室内の会話を盗み聞きすることにした。
「や、やっぱりまずいよ、ヘルマンくん……」
オスカーはおどおどとノイルートに話しかけていた。
「だ、だってあの人、ボクと鉢合わせる度に睨んでくるんだよ! いつかきっと……」
「きっと、何なんですか」
ノイルートは図書館で会ったときと同じ冷たい声をしている。
「あなただって利益を得ているのに被害者面ですか? 随分と虫がいいんですね」
「そ、それは……そんなことは……」
オスカーは口ごもる。でもノイルートが酷薄に目を細めると、しゅんとなって「分かったよ、ヘルマンくん……」と言った。
「ごめんね、変なこと言って。ボクはただ……」
「……僕はあなたの才能を買ってるんですよ」
ノイルートがオスカーの胸に手を置いた。オスカーはビクリと体を震わせる。ノイルートは手のひらをそっと滑らせ肩の上を意味深な動きで辿り、オスカーのまん丸の頬へとあてがう。
そうされている間中、オスカーは床に根が生えてしまったように固まっていた。
ノイルートがオスカーに顔を近づける。そして、綺麗な顔にぞっとするくらいの妖艶な笑みを浮かべながら、息も触れ合いそうな距離で彼に囁いた。
「あなたは僕の友だちでしょう? 言っている意味、分かりますよね? 僕の大切な人。かけがえのない存在……」
オスカーは顔を真っ赤にしながらそれを聞いていた。甘い言葉を紡ぐノイルートの薄く形のよい唇に、その目が釘付けになっている。
「……ね? だからこれからも仲良くしましょうよ。僕たち二人は……」
「ルイーゼちゃん、退いてー!」
後ろから声がしたと思ったら背中に衝撃が走って、私は箒から滑り落ちる。そのまま下の植え込みに突っ込んだ。
「ごめんなさい! 本当にごめんっ! け、怪我とか……」
「してない……と思うわ」
箒から降りたミストが駆け寄ってくる。私は茂みの中からヨタヨタと立ち上がって、髪に絡んだ枝を抜き取った。
「ミスト……またコースを外れたのね」
「う、うん……」
ミストは申し訳なさそうに頷いた。
「で、でもね、ちょっとは上手くなったんだよ。さっきは鳥が急に……」
ミストは指先をツンツンさせながら言い訳をしている。でも、私はほとんどそれを聞いていなかった。さっきまで窓から様子をうかがっていた校舎の三階を見つめる。
もしかして今回の事件の犯人は一人じゃないのかもしれない。そんな気がしていた。