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二度目の魔法学園での生活で、元魔王の大切な人と相思相愛になりました  作者: 三羽高明
1章 二度目の魔法学園生活は、魔王討伐と共に
4/110

まだ負けてない(1/1)

「よし、ここでいいわね」


 廊下の中程まで来た私は足を止める。


「覚悟しなさい、魔王。今度こそ地獄へ送ってあげるわ。言い残すことがあるなら聞いてあげるわよ」


「じゃあ一つだけ」


 魔王は顔色一つ変えずに首を傾げた。


「どうしてルイーゼは私を魔王だと思ったのかな?」

「この目で見たからよ」


 言ったってどうせ信じてもらえないだろうと思いながら、私は彼の質問に答えた。


「六年後の卒業式の日、あなたが魔王に変身するところに私は居合わせたの。だからそれを阻止するために時間を巻き戻して、一年生からやり直すことになったのよ」


「時間遡行の魔法……? 君が……?」


 魔王は驚いてるみたいだった。でも、気持ちは分からなくもない。だって、私も時間を戻す魔法なんて聞いたことなかったから。


 だけど、現実に起こってしまったんだから、そんなのあり得ないなんて思うことはできなかった。


「さあ、お喋りはおしまいよ」


 私は魔王に向かって杖を振り上げた。


「あの世まで吹き飛ばしてあげるわ! 氷柱! 貫け、凍れる牙よ!」


 私のかけ声と共に、魔王の頭上の天井や立っている床から尖端の尖った氷の柱が突き出してきた。


 逃げ場はない。あっという間に串刺しだ。私は口角を上げかけた。けれど、実際に微笑んだのは魔王の方だった。


「君、結構強いんだね」


 魔王は氷の柱に囲まれながら、余裕の笑みを浮かべていた。私が出現させた氷柱は、尖端が全て明後日の方向を向いていて、彼には傷一つついていない。


「なっ……」


 まさかの事態に私は狼狽した。杖を振るところも見えなかったし、呪文を唱えるのも聞こえなかった。それなのに私の魔法を笑顔でかわすなんて。


 卒業式で魔王に立ち向かったときにまったく歯が立たなかったことを思い出して、私は手足が冷たくなるような感覚がした。変身する前の姿なら、きっと私にだって倒せると思ってたのに、これじゃあ……。


「やられっぱなしもよくないかな。お返ししよう」


 魔王が杖で氷柱をちょんと叩いた。途端に柱は砕け、氷の刃に変わる。魔王は楽隊を率いる指揮者のように杖を振って、それを私に向けて飛ばした。


 飛んでくる刃に、内臓が縮み上がる感覚がする。身を守らないと、と頭では分かっているのに、さっきの動揺がまだ尾を引いていて、私は何の行動も取れない。


「痛っ……」


 刃の一つが頬をかすめ、血が噴き出した。よろけた私は尻もちをつく。


 そこに魔王が近づいてきた。何をされるのかと私は思わず竦み上がる。


「すまない、大丈夫か!?」


 でも、魔王は予想外の行動に出た。膝をついて、私の顔を覗き込んできたんだ。


「君なら避けるなり弾き返すなりすると思ったんだけど……。ああ、血が出てるじゃないか! 本当にごめん。痛かったよね。立てるかい?」


 すごく心配そうな顔だ。呆気にとられていると、魔王が手を伸ばしてきた。


 私は無意識のうちにそれを取ろうとしてハッとなり、慌てて自力で立ち上がる。


 油断なんかしちゃダメだ。こいつは魔王だ。優しくしておいて、隙を見てグサリ! なんて考えてるに違いない。


 『敵に弱みは見せるな』。天馬の学級に伝わる格言の一つだ。魔王は敵だ。臆病風に吹かれた時点で、私の負けは確定してしまう。


「病み上がりで調子が出なかっただけよ!」


 私は杖を握り直して、気丈に言い放った。


「あんなものはほんの小手試しよ。次は本気でいくわ。炎よ……」

「あー! ここにいたのー?」


 不意に間延びした声が聞こえてきて、張り詰めていた緊張が解れる。私は毒気を抜かれたような気分で振り返った。


 一人の女子生徒がこっちへやって来るところだった。綿菓子みたいなふわふわのクリーム色の髪と垂れ目の、思わず守ってあげたくなるような可愛らしい雰囲気の少女だ。

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