手がかり発見?(1/3)
その日の私は図書館で調べ物をしていた。目的は、アルファルドの魔王化を止める方法を探すことだ。
でも、その調査も結界を解いた犯人捜しと同じくらいには行き詰まっていた。
魔王に関する文献は色々当たってみたけど、ろくな情報は得られなかったから。ただ『魔王は恐ろしい存在』って書かれているだけだ。まあ、『魔王になるのを止める方法』なんて本が都合よく存在するわけもないんだけど。
それに、調べるとは言ってもどの分野を中心に探せばいいのかさっぱりだ。何となく関わりがありそうなものを手探りで当たっていくしかない状態で、今日は薬草学のコーナーを見て回ることにしていた。
そんな私の目に一冊の本が映る。『有用植物大全』とタイトルに書いてあった。
これ……確かオスカーが読んでいた本だったわよね?
そう気が付いた私は少し興味を引かれて、その本を手に取った。パラパラとページをめくる。その拍子に、何かが紙の間からハラリと床に落ちた。しおりかしら?
それを拾い、挟まっていたページに目を通す。そこには『黄金のリンゴ』について書かれていた。
黄金のリンゴは種から皮まで捨てるところがないと言われる植物で、変身薬や睡眠薬を初めとする色々な薬の材料に使われる。
反面、魔力濃度の濃い場所にしか生えないちょっと珍しい植物だから、黄金のリンゴを使った魔法薬なんかは値が張ることで有名だ。
そのリンゴの木は、この学園の森にも生えている。ラドンっていう魔物が近くをうろついている第三区画の中だ。六年生の中間テストでこのリンゴを取ってくるっていう課題があったから間違いない。
そんなことを考えながら、私はページに挟まれていたしおりを見つめた。
……ひょっとしてこれ、オスカーの持ち物かしら?
ふと思い付いた仮説だったけど、突拍子もない話じゃないと思う。オスカーは黄金のリンゴについて調べていた。っていうことは、森へ入ったのはこのリンゴを取るため……?
……うん、そうかもしれない。だって三年生じゃまだ第三区画には入れないから、そこへ行こうと思ったら区画同士を遮っている結界を解かないといけないもの。
オスカーが結界を解いたのはイタズラなんかじゃなくて、目的があってのことだったのかもしれない。
「まあ、そうだとしても『だから何?』って感じなんだけど……」
私は唸りながら本を閉じようとした。けれど、ふと大全に書いてあったある文言に視線が吸い寄せられる。
『黄金のリンゴは変身薬の材料に使われる』
……変身薬。変身薬だ!
私はもう少しで叫びそうになった。有力なヒントを得たかもしれないと気が付いて、体中の血が沸騰してくるのを感じる。
アルファルドが異形の化け物になったっていうのは、変身薬を飲んだのと似た状態だ。変身薬なら、その効果を解く薬も存在するかもしれない。
もしアルファルドのケースにも、それが当てはまるとしたら? つまり、魔王になってもまた人の姿に戻せる方法があるとしたら……?
ああっ! どうしよう! 変身薬! 解毒剤! 材料は? 生成過程は!? いつ、どこで、どんなふうに作ればいいの!? いいえ、そもそも変身を予防するための薬か何かは作れないのかしら!?
そうだわ、薬以外についても考える方がいいわよね! 変身の呪いとか! その効果を終わらせる術は……。
私は本を胸に抱きかかえながら目を瞑って色々なことを考えた。様々な可能性が浮かんでは消える。消えてはまた浮かぶ。呼吸が浅くなって、頭がクラクラしてきた。私は額を押さえる。
ダメだ。感情が高ぶりすぎて上手く考えがまとまらない。少し落ち着いて、時間を置いてからまたゆっくり取り組む方がいいかも。とりあえずは、この『有用植物大全』を棚に戻さないと……。
私は抱えていた本を元のところへ返そうとした。でも、まだ興奮が抜けきっていなかったせいなのか、手が滑ってうっかり取り落としそうになる。
一瞬焦ったけど、すぐに私の手の甲に別の手のひらが重なって、床に落ちる前に本を支えてくれた。
「ア、アルファルド……!」
突然のことにちょっとぎょっとしたけど、その相手が誰か分かった途端に、今度は顔から火が出そうになる。アルファルドがいつの間にか横に立っていた。
「やあ」
ドギマギする私とは対照的に、アルファルドは涼しい顔で笑っている。その笑顔に、私は少しドキドキしてしまった。
そんな自分に狼狽え、私は必死に言い訳を探す。これは……そうよ! 最近放課後にアルファルドと会ってなかったから、びっくりしたのよ! それ以外考えられないわ!
だって最近のアルファルド、授業が終わるとすぐにどこかへ行っちゃうんだもの。だから……寂しかったっていうか……。
……べ、別に変な意味じゃないわ! 同じ学級の仲間だからそう感じるだけよ!