元魔王の青春やり直し計画(2/3)
「……で、どうしようか」
反キーレム同好会員たちが去っていった後には、粉々になったキーレムと気絶して動かなくなった職員さんが残された。アルファルドはキーレムの残骸を拾いながら私に尋ねてくる。
「とりあえず医務室へ行きましょう」
私は魔法で職員さんの体を持ち上げる。
「まったく、余計な仕事を増やしてくれて……。こっちは結界を解除した犯人捜しに、魔王復活阻止の方法に、考えないといけないことが色々あるのよ!? ……ちょっとアルファルド、何笑ってるの!」
こっちを微笑ましそうに見ているアルファルドに、私は文句を言った。
「人ごとじゃないでしょう! アルファルド、図書館で資料を探してるときだって、たまにぼんやりしてるじゃない!」
「ごめんね。でも、つい君を目で追いかけてしまって」
「えっ、私を……?」
意外な言葉が飛び出してきて、少し集中が乱れてしまった。宙に浮いていた職員さんの体が、ガクンと落ちる。
「私……何か変なことしてたかしら?」
慌てて魔法をかけ直しながら尋ねる。アルファルドは「そんなことはないよ」と言った。
「でも、何故か君のことを気にしてしまうんだよね。まあ、ルイーゼは魅力的な子だから別におかしな話じゃないとは思うけど……」
「……褒めても何も出ないわよ」
職員さんの体がどんどん下がっていくけど、私はそれに対処できるような心境じゃなかった。
だって、心臓の鼓動が早くなってきていたから。体も何だか火照ってくる。そう言えば、さっき爆発から庇ってもらうときに抱きしめられた……。
そのことに気が付いて、私は真っ赤になった。ゴンッ! と音がして、職員さんが床に落下する。
「だ、大体あなた、のんびりしすぎなのよ!」
どうしていいのか分からなくなって、私はアルファルドを睨んだ。
「自分のことなんだから、何て言うかもっと……シャキッとしてよ! ……何がおかしいの!」
また笑い出したアルファルドに私は怒ってしまう。アルファルドは「ごめん、ごめん」と軽く手を振って謝った。
「でも、楽しくて」
「楽しい? 何が?」
「……全部、かな」
アルファルドは機嫌良く答えた。
「ルイーゼ、私の学生時代の話、覚えているかい? 私はこの学園に『アルファルド・レルネー』として通っていた頃は、魔法の研究にばかり打ち込んでいたんだよ。……どうしてだか分かる?」
「どうしてって言われても……。そういうのが好きだったからじゃないの?」
思いがけない質問をされて、少し戸惑う。アルファルドは「ちょっと外れかな」と返した。
「確かに研究は楽しかったけどね。でも、私がそんなことを始めたきっかけは、自分には普通の学園生活は送れないかもしれないって思ったからなんだよ」
アルファルドはふっと微笑む。
「骨肉の争いを繰り広げる醜いレルネー家の一員。私はそんなふうに陰口を叩かれて、皆から遠巻きに見られていたんだ。いじめられたことも何度もあったかな。当然、友だちなんか一人もできなかったし、放課後や休日に誰かと過ごすこともなかった。要するに、あんまり楽しくない学生生活を送っていたんだよ」
アルファルドは肩を竦めた。
「そんな私の心を慰めてくれたのが魔法の研究だった。研究は一人でもできるからね。……その結果、大変なことをしでかしてしまったわけなんだけど」