コウモリの学級のヤバイ奴らがカチコミに来たぞ!(3/3)
「な、なんかいる!」
男子生徒がまっ青になって叫んだ。
「何かが飛び出してきて……」
最後まで言い終わらずに、彼も水の中に姿を消した。アルファルドが「ウォーターリーパーだ!」と言った。
「何それ!?」
残った一人が半狂乱で尋ねてくる。私は水面に注意しながら「足のないヒキガエルみたいな魔物よ!」と返した。
「手の代わりにヒレがついていて、水面から飛び上がって獲物を襲うの! それで……」
「じゃあ、こうすればいいんだな!」
男子生徒は私の話を最後まで聞かずに、近くにあったテーブルの上に登って水面に向かって杖を突き立てた。
「雷撃!」
雷の魔法が発射された。そこまで強力なものじゃなかったけど、足から伝わってきた衝撃に私は悲鳴を上げる。
「ルイーゼ!」
アルファルドが私を棚の上に引き揚げてくれた。私はよろよろになりながら彼の手を取る。
「ルイーゼ、大丈夫か!?」
アルファルドが私を抱きしめながらきつく揺さぶった。私は「平気よ……」と返事する。
「へんっ! どんなもんだ」
男子生徒は得意がっていた。水面には、何体かのウォーターリーパーが浮かんでいる。それだけじゃなくて、彼の悪友二人も一緒だ。……生きてるわよね?
「君、魔法を放つときはもう少し考えてからにしてくれ」
アルファルドが険しい顔になった。だけどすぐに私の方を見て、狼狽えた声を出す。
「ルイーゼ、しっかりしてくれ! 痛むかい? 早く治療を……」
「……大丈夫よ」
泣きそうな顔でオロオロしているアルファルドが気の毒になって、私は彼の背中を優しく叩く。まだ抱きしめられたままの格好だったから、体の自由が利かない。
「私が平気じゃないんだよ」
アルファルドは口元を歪める。
「君のことが何よりも大切なのに……。それなのに私の目の前で傷つけられるなんて……」
「大げさよ」
「……大げさ? 本心だよ」
アルファルドがこちらをじっと見つめてくる。やけに熱心な目つきに、ちょっとドキッとしてしまった。彼に抱擁されているということを急に意識してしまう。
そのとき、水面に浮かんでいた一匹のウォーターリーパーが顔を上げた。鋭い歯が並ぶ口が大きく開く。嫌な予感がして私は叫んだ。
「耳を塞いで!」
直後、ウォーターリーパーが大音量で鳴き出した。
私はとっさに手で耳を覆ったけど、そうしていてもその不快な鳴き声を完全に消すことはできない。黒板を爪で引っ掻いたときの音に似たそれは、まともに聞いていると気が変になりそうなくらい嫌な声だった。
でも、鳴いているときのウォーターリーパーは隙ができる。私はそこを狙って、魔物に失神呪文をかけた。
バチャッと音がして、ウォーターリーパーはひっくり返る。他に動いている個体はいない。
……一件落着だ。よかった……。
問題の男子生徒は、テーブルの上で伸びていた。彼はきっと耳を塞ぎ損なったんだろう。気を失っているらしかった。
「まあ! これは何の騒ぎなの!」
入り口から声がした。上級生の一団が室内の騒動に目を丸くしている。
「あの、先輩……」
「あなたたち、コウモリの学級の問題児コンビじゃない!」
事情を説明しようとしたけど、先輩は私たちに気が付くなり目尻をつり上げた。
「うちの学級に何の恨みがあるのよ! 暴れるなら自分のクラスの中でやってちょうだい!」
私とアルファルドは談話室の外につまみ出される。このままだとクラーケンのエサにでもされかねない雰囲気だったから、今日のところは大人しく水蛇寮からお暇することにした。
「今回はどんな罰則を受けることになるのかな?」
思ったより元気な私の姿に安心したのか、アルファルドがいつもの呑気な口調で尋ねてくる。それに対し、私は「さあね」と返すしかなかった。